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勝利への航路ーインカレ篇#3 東京大学

「勝利への航路ーインカレ篇」
本シリーズは、インカレ(全日本大学選手権)ーーすなわち日本の大学生オアズパーソンの頂点を決める大会ーーに向け、日々想像を絶するトレーニングに励む選手・マネージャーたちに、独自のこだわりやインカレにかける熱い想いを語ってもらう企画である。

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第3弾は、日本最古の部活、またかの夏目漱石も所属していたと噂され、未だ破られぬ記録全日本4連覇、オリンピック選手の輩出などまさに古豪の名がふさわしい、東京大学漕艇部だ。今回は主将の小川雅人(Masato Ogawa)、主舵の安治遼佑(Ryosuke Aji)が取材に応じてくれた。
”日本最高の頭脳”をもつチームのインカレに向けての独自の取り組みや、今のチーム状態などを伺った。

ーー東大漕艇部の1日。

コ:本日はよろしくお願いします。では、1日の流れを教えてください。

小川(以下、小):4時半起床で、まず掃除をします
そのあと準備、2時間ほど乗艇して、風呂、食事ののち学校へ向かうという感じです。16−18時くらいに帰ってきて、エルゴやウェイトなどの陸トレを行い、食事を取って、翌日の乗艇に向けてのMTGをした後に21時に消灯という感じです。
ただ22時までは勉強やストレッチをしたい場合は起きてても構わないというルールです。

安治(以下、安):夏休み期間は少し時間がずれたりします。

コ:朝起きてから掃除する意味は?

小:時間が合わないので、皆がいる朝の時間にやるという実用的な意味がありますね。

安:あとは朝礼的な意味と、目を覚まし体をシャキッとさせる目的もある。

コ:非常に合理的な習慣ですね、さすが東京大学と言った感じです。

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4年主将、小川氏。(奥は飛び入り参加してくれた3年Cox笹野氏。)

ーー東大ならでは?独特な取り組み。

コ:今シーズンの東大のこだわりは?

安:トレーニングで言うと、UTなどの有酸素系のトレーニングを多めに取り組んでいます。

小:例えば、エルゴ・バイク・ランを90−120分の間心拍数170行かないくらいで行うZONE1というメニューとか。これは日本代表が取り組んでいるという情報を調査し、東大にも取り入れたという背景があります。
あとは、東大漕艇部の部長でありかつ東大教授でもある野崎先生の研究室にお伺いし、エルゴの効率的な引き方の研究のお手伝いをしながら、フィードバックをもらい実際のトレーニングに活かす、という取り組みをしています。

コ:エルゴの引き方の研究???

小:はい。エルゴに様々な計測機器を取り付けて、力のかかり具合やベクトルなどを計測することで、もっとも効率的なエルゴの引き方を研究されているんです。今年は日本代表選手の計測も行ってデータを集めたそうですよ。

コ:おお、、、ちなみにこれはいつぐらいから取り組んでいるんですか?

安:2、3年前からですね。先輩たちも研究に協力しながら自分たちの漕ぎのクセや力の出し方を学び、練習に活かされていました。

小:引く姿勢や、蹴る方向などが定量的に測定され目に見えることで自分の引き方が明確になるので、どのように直せばいいか、理想の漕ぎとの差はどこか、などを見ることができるんですね。

安:実際に艇速が伸び悩んていた時期にこの計測を行い、クルー間で力の出し方を統一させたところ、艇速が劇的に改善したこともあるんです。

コ:これは、、、本当に東大ならではの取り組みですね、、他の大学では真似ができなさそうだ、、、

小:あと有酸素系トレーニングについては日本代表の物を取り入れていると言いましたが、例えば現日本代表コーチのギザビエさんの講習会とかにも積極的に参加するようにしています。

コ:なるほど。勉強熱心な姿勢、さすがです。日本代表のトレーニング方法は気になりますよね、、もっとオープンにしていって欲しいものです。。。

コ:試合前に必ずやってるルーティーンとかってありますか?

小:艇上では特に、、そうですね、ないかな、、あ、SSD。

安:確かにSSDはうちだけだね多分。

コ:SSD???

小:須藤スペシャルドリンク、略してSSDです。
オレンジジュース、牛乳、バナナ、にんにく、はちみつ、しょうがなどが秘伝の配合で混ぜられているドリンクです。結構昔からあって、「レース前といえばコレ」、という感じです。レース後に飲む人もいます。

安:にんにく入ってたっけ?

小:もうそこはあんまり分からない笑 とにかく、儀式みたいな感じで飲んでますね。

コ:エネルギー補給としては最高の飲み物ですねおそらく、、すごい。
(追記:インタビュー後マネージャーさんに確認したところ、バナナ、はちみつ、オレンジジュースのみとのことでした。)

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4年主舵、安治氏。

ーー東大生が語る、ボートの面白さとは。

コ:ボートの面白いところはどこだと思いますか。

安:入部する前は、ボートは単純に体力と精神力を鍛えてそれだけで勝つスポーツだと思ってたんですが、やはり練習や試合を経ていく中で「チームで勝つスポーツ」なんだなと。そこが本当に面白い。

小:(未経験者の)安治も立派になって、、感動して泣きそうです笑

安:でも体力も必要だけどね笑 マネージャーやOB全ての人の力が本当に必要。ボートの魅力はそこだなと感じます。

小:僕は高校からボートをやってたんですが、好きな点が2つあります。
1つは、「漕ぎが完全に合う瞬間の快感」です。舟が浮くんですよ。水面と舟の間に空間があるんじゃないかと思うくらいに。これがたまらなく好きなんです。ここに到れた時はえも言われぬ感覚になります。大学でもボートを続けた理由です。
もう1つは、「勝負のスリル」です。豪快に逆転、みたいなことはボートでは起こりにくいですが、あのジリジリと詰めていく時、逆に詰められている時のあの緊張感が刺激的で。みんなしんどい中でその感覚を共有して、例えば脚蹴りが決まって突き放せた時とかは本当にもうたまらないです。クセになります。

コ:めちゃわかります。言語化してくださってありがとうございます笑
そこは本当ボートならではというか。引退した私たちでさえ、いまだにあの感覚は忘れられないです。

小:でもだからこそ、この面白さが未経験の方に伝わりきらないのがもどかしくて。どうしたものか。。。

コ:その部分、コギカジの活動の中でしっかり取り組んでいきますね。

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艇庫の内部。

ーー「東京大学漕艇部」という一つの組織。

コ:練習の雰囲気はどんな感じですか?

小:そうですね。艇上だと上下関係はほぼなく、引っ張ってくれるやつが声を出して、皆それに乗っていくという感じですね。技術的な意見も艇上でフィードバックし合っています。陸上だと例えばウェイトトレーニングとかは音楽をかけて、気分を高めながら行ってます。

安:好きな音楽がかかるとめちゃくちゃ頑張るやつとかもいますね笑

小:新歓PVの曲とかはよく聴いてます。自分が入部した時の曲、新世界(by Acidman)は今でも聴いてます。

コ:Coxは艇上ではどんな感じですか?

安:選手の意見を聞いて、それを踏まえてフィードバックするという感じですね。

小:うちのCoxはかなり意見を聞いてくれた上で主体的にフィードバックをくれます。それにより艇上で色々すり合わせることが可能になってます。僕は高校からボート部だったんですが、高校の時はCoxより選手が意見を通せるような環境だったので、、今はとてもいい関係を築けていると思います。うちは互いにリスペクトを持って練習に取り組むことができてます。

コ:他の大学だと、「選手が上、Coxが下」みたいなスキームができてしまってるところもあると聞きます。互いにリスペクトがある関係、とっても良いですね。

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コ:イメージビデオとかはありますか?

小:ボートの動きのパーツによって分けています。キャッチはどこどこのクルー、フィニッシュはどこどこのクルーというように。それを組み合わせてイメージを作っています。

安:今のコーチがボートの動きのサイクルを細かく分けて指導してくださる方で、それぞれで理想とするものを探していたらそうなったんですよね。

小:今年は全クルー、コーチが掲げる漕ぎを絶対として拠り所にしようとしてきました。それにより「東大らしい漕ぎ」を部全体として作り上げようとしています。

コ:その流れで、コーチとはどのような関わり方をされてるんですか?

小:ヘッドコーチは基本的に週1回で合宿所に来てくれて、そこで直接指導してもらってます。普段はチャットツールを用いて、練習へのフィードバックをもらってますね。
社会人コーチの方ももう一人いて、その方も週1で艇庫にきて、コーチングしてもらってます。
建設的に色々と議論して、論破してくれるときはしてくれて、受け入れる時は受け入れてくれるという感じです。
あと、先ほど話した野崎部長とヘッドコーチは同期で、そこで技術的/学術的なフィードバックをもらった上でコーチングしてくれることもありますね。

コ:マネージャーとの関わり方はどうですか?

小:もともと代によっては関係性がよくない時もあったようですが、近年は改善してきていると思います。特に、僕らの代は人数が少なかったこともあって、そこは真剣に取り組んだ部分ではある。例えば雑用の負担の配分を考えたりですね。モーター出しであったり、片付けの手伝いとかをするようにもなりました。

安:あとは、マネージャーも自ら選手mtgに出てくれるようになったりもしましたね。選手のこともよく知ろうとしてくれてるんです。お互い歩み寄りができています

小:僕らの努力の成果かは分からないが、後輩たちも本当にいい関係性を築けていると思います。

笹野(飛び入りで参加してくれた3年生Cox、以下、笹):ただCoxとマネの仕事の割り振りに関しては難しい部分もあります。そこはこれからの僕らの課題ですね。

安:あと、東大では東大生マネとは別に、主にご飯作りや栄養サポートのために女子マネが他大からきてくれているんですが、彼女たちのエンゲージメントを高めるために女子マネとの試乗会もやったりしています。そこはヘッドコーチも重視していて。ローイングの基本を教えてる感じです。

ーー古豪復活へ。

コ:今期の目標を教えてください。

小:インカレエイトで最終日進出です。

コ:調子はどうですか?

安:今ぐんぐん上がってきてます。

小:お盆前から避暑合宿に出かけるんですよ。そこで死ぬほど追い込む予定です。(注:取材日8月初旬)

コ:ハイレートの練習が多くなる?

小:4月末の東商戦のあと、技術的なところにフォーカスした練習を重ね、今インカレに向けてレートを上げてきている感じです。

安:時期ごとに完成させるレートを設定して、それに向かって取り組むという方針を取っています。

コ:なるほど。レート理論についてはぜひいろんな大学の意見を聞いてみたいですね。
続けて質問です。今期のスローガンはありますか?

小:僕らの代は明確に定めた言葉はないですね。目標として、何らかの爪痕を残す、後輩に何かを遺す、というところは決めてるんですが。
下の代は独自に言葉を設定しているそうです。

笹:僕の代は「東大復興の先駆けに」です。
東商戦も連敗が続いていたり勝てていない現状があります。そこを打破し、古豪の名にふさわしい東大漕艇部を取り戻すきっかけを作りたいです。

小:明確に言葉を設定すること自体に意味があるかどうか、結構悩んだんですが、うちの代としては議論の上定めなくてもいいという結論に至って。

コ:そこまで深く議論されてるんですね、、確かに部で目指す方針が浸透してるならあえて設定する必要もないかもしれないですもんね。

コ:東大の武器は?

小:漕ぎに関しては今作り込んでいるところなので、まだ武器とまでは言えないですが、インカレまでには形にします。
あと、OBからの支援や設備の面ではやはり恵まれていると思いますね。

コ:そこも大事な部分ですよね。

小:あとは色んな人間がいること。特にみんなそれなりに頭がいいので、我を持ちつつ、理論や論理を持ってあらゆる話をすることができている。それぞれが勉強して建設的に意見をぶつけあうことができていたりもしますね。

コ:武器は何?という質問一つをとっても色んな切り口で話が出てくるの、さすがです。

小:ありがとうございます笑
ただ、武器って言ってしまえるのは慢心にも繋がると思っていて。なのでどれも磨いている途中という考え方も持ち合わせています。

コ:それでは最後に一言、よろしくお願いします。

小:これを読んでくれてる高校生の諸君、ぜひ東大漕艇部へ。

安:ボートという競技は僕の価値観を大きく変えてくれた。出会えてよかったです。

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こう言ってはなんですが、「さすが東大」と思わされる部分が多々ありました。

学問とボートの融合、コーチとの論理的な議論、選手の言語化能力、全てに通底する合理性

そして、それもさることながら彼らの語る言葉や姿勢から、ボートへ掛ける想い、愛情、熱量もしっかりと感じ取ることができました。

古豪復活の狼煙はもう上がっています。

明日に迫ったインカレ、ぜひ東京大学の熱い漕ぎにご注目ください!

それでは勝利への航路インカレ篇第3弾はこれにて。

東京大学の皆さん、ご協力ありがとうございました!(N)

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