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【結果発表】こんなタクシーあったらいいなを描いてみよう!

ボディに大きな平仮名が書かれたタクシーが、街を走り回ったら ── 偶然意味のある言葉に見える瞬間があるはず。普段なにげなく見ている光景に物語が浮かび上がったら、きっと面白いに違いない! そんな妄想から始まった「いろはタクシー」。

コメント欄に500字以内の小さな物語を投稿してもらい、その中から3つの作品を選んでぼくがビジュアル化します、という企画。1週間という短い募集期間ながら20を超える作品が集まりました。ありがとうございました!

何度もなんども読み返して、これもいいしあれもいい。3つという枠がなければ5個10個と描きたいところでしたが、それだと作画だけで1か月以上かかってしまう可能性も……。悩みに悩みぬいた3つのビジュアル化でした。

どの作品も甲乙つけがたい作品ばかり。なにか判断軸がないと選べそうにありません。今回は2つの観点で考えました。

① タクシーの登場の仕方が自然かどうか
② ビジュアル化したい!と思った物語

①は、「そんな偶然ある?」という可能性の低さについては全く気にしてません。ビルの屋上にタクシーがいるとか、どんな偶然が起きてもありえないでしょう? 的な要素がなるべく少ないシーンはどれかという観点です。

②が一番大きな判断軸でした。大きなドラマがない物語でも、ビジュアル化してみたい! 直感的に思ったのはどの作品だっただろう?と初見の記憶を掘り起こしながら考えました。

それでは、いよいよ結果発表です。
3つの小さな物語をビジュアルと一緒にお楽しみください!

        *ビジュアル化された方へ通知がいくように、その方の固定記事
       もしくは最新記事を各作品の最後に貼っています。




1


大丈夫だよ

仕事がつらくなって、辞めて地元に帰ってきた。東京と違って地元の駅は人が少なく閑散としている。逃げてきたみたいで惨めな気持ちになる。ロータリーにタクシーが4台。思わず、涙があふれた。「お・か・え・り」

1作目は、秋谷りんこさんの物語です。とても短い文章ですが、読み終わったとき、ビジュアルがパァっと頭の中に浮かんできました。「東京から離れた地方都市、でもタクシーロータリーがあるから無人駅みたいなローカル線じゃない。観光地かも……」。ぼくの妄想では、登場人物の目の前にタクシーは並んでませんでした。少し遠い所から、たとえば駅のホームから。視界の端に4台のタクシーが映る。ほんの一瞬「おかえり」という言葉を見せ、数台のタクシーは去り、ただの駅前に戻る。そんなシーンが頭の中に浮かんだんです。この4台のタクシーを「おかえり」と読めた人は僅かなはず。ホームの逆側にいた人。ロータリーにいた人には意味のない言葉にしか見えません。ある瞬間、ある角度からしか見えない「おかえり」の文字。そんな光景が主人公の心を少しでも癒してくれたなら……。そんな想いでビジュアル化しました。こんな偶然が起きて欲しい、そう強く思った物語です。




2


視界の片隅

“おにぎりタクシー”がキャンペーンを始めて1週間。
街のあちこちでボディに一文字大きく書かれたひらがなを見かけるようになった。偶然に出来上がった言葉の面白さに魅了される。
でも、待って、私、ここのとこいつも同じ字しか見てない。あのタクシー、私の周りをぐるぐる回っているのかしら?
どゆこと?
何かのメッセージ?
その車には、「ほ」の字…。

2作目は、地中海性気候さんの物語です。一文字だけの物語は、この作品だけ。やられたー!と思いました。こんな使い方があるのかと。更にこの物語、ご本人がTwitterで言及されていましたが、ホッコリ物語なのかホラーなのか?それは読み手しだいという奥深い作品なんです。なので、ビジュアル化で作品の余白を埋めてしまうことに躊躇しました。でも、言葉の奥に潜む物語をビジュアル化したら、作品に奥行が生まれるかも……。と、少し身勝手な考え方ですが、主催者特権でホラーテイストでビジュアル化しました。いやー、面白かった! ベース写真の選定もさることながら、どうすれば画面から怖さがにじみ出るのか、アングルや光の当て方、影の伸び方などの加工を試行錯誤しました。このビジュアル、スマホの小さい画面だと分からない、怖さを演出するある仕掛けがあります。ぜひ、画像を拡大してすみずみまで見てください。「ひゃっ! 怖い……!」と感じてくれる人がいたら嬉しいな。





3


あなたを待つわ

もう10年。あなたが亡くなってから10年ね。ここであなたが交通事故に遭って、私、あの時は突然のことで何が何だかわからなかった。お葬式が済んでしばらくしてから、やっと何が起こったのか飲み込んで、未来を思うと私も死にたくなった。でも時間薬って他の何よりも有効ね。どうにか食べて、会社へ行って、人と話して、また帰る。そんなルーティンが有り難かった。それを10年繰り返したら、ここに来られるようになったよ。いつか私だって死ぬし、いつか会えるよねって柄にもないこと考えられるようになったよ。その時は絶対来るから、私待つわ。あら、こんな懐メロあったね。だからあなたも待っててね。

彼女は花束をそっと交差点に手向ける。その時タクシーが3台、彼女の前を通った。

企画告知をした記事のカバー画像。いろはタクシーのサブコピーは「言葉が街を駆け巡る」ですが、もうひとつの候補が「あなたと街が語りあう」でした。この物語の世界観がまさにそれ。亡くなった人が街に降りて、主人公に語りかけているようです。命がテーマの物語は、重くなったり、逆に前を向こう!的なポジティブオーラが強くなってしまうことがありますよね。でも、この物語は重みはあるけどカラっとしているところがスキです。「あら、こんな懐メロあったね。」というセリフがそうさせているのでしょうか。主人公を応援したくなる物語です。

このビジュアル化で一番悩んだのは、花束をどう描くかでした。花束は物語の重要なアイテムですが、「交差点に手向ける」とあるので、画面の中に入れようとすると極端なローアングルになってしまいます。そのアングルだと花束がタクシーを隠してしまう。かといって、上から見下ろしては花束と道路しか画面に入らない。さぁ、どうしよう……。花束が無理でも、花束を想起させるアイテムを画面に入れたい。そして、悩みながら思いついたのが桜です。自然なカタチで交差点に「花」を入れられる、作品のカラっとしたイメージにも合う、そして亡くなったあの人が街に降りてきた印象もある。ぼくが抱いた物語のイメージにぴったりなビジュアルができて、とても満足しています。



小規模短期間とはいえ、初めておこなった個人企画なのでプレッシャーがありました。3作品のビジュアルを描き終えてホっとしています。「いろはタクシー」、単純に「描いてみたシリーズ」で投稿するか、個人企画にするか随分悩んだんです。作品が集まるか心配だったし、なによりその作品に応えられるビジュアルが描けるのか? という不安からです。

でも、思いきってやってよかった。コメント欄にたくさんの文章が並んで、みんながスキを押していく。普通、コメントへのスキって1個しかつかないじゃないですか。それが、10個20個とスキが重なっていく。通知が来てコメント欄にいくたびに顔がホクホクしました。

企画に参加してくれた人はもちろん、Twitterでシェアしてくれた方、スキをくれたり静かに作品を楽しんでくれた方、そして今日初めて「いろはタクシー」を見つけてくれた人。

みんなどうもありがとう!
最高に楽しかったです。

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