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毎日ふれるモノだから


これは身の回りのモノをヒトに見立てた物語
もしも 無機質なモノに言葉が宿ったら…
ぼくはいったい、何だと思いますか?


EDAセンサーって知ってるかい?
手の汗で変化する電気量を測定するモノなんだって。スマートウォッチっていうのかな? いま流行ってるやつ。その最新機に使われていて、心が元気かどうか分かるらしいんだ。ストレスセンサーとも呼ばれてる。スゴイ!とみんな言うけど、ぼくも昔からできたんだよ…。毎日触れられてるからね。キミの気持ちはぼくが一番分かってるつもりだ。

月曜日の朝は憂鬱だよね。金曜の仕事帰りは心が弾んで力が入るのは分かるけど、少し痛いから優しく握って欲しかったな。
毎日仕事が終わったら「おつかれさま」と声かけてたんだよ。学生のときもだ。キミがぼくに触れたとき、毎日まいにち声をかけてたんだ。聞こえなかったと思うけど。

高校で初めて恋人ができたとき、あんなにドキドキしたキミの手は初めてだった。でも彼がぼくに触れた瞬間分かってしまったんだ。コイツはキミを悲しませるって。ぼくに言葉があったなら「彼はキミの他にも恋人がいるよ!」と伝えられたのに…。あのときほど声を出せない自分が悔しかったことはないよ。

今日はハレの日にふさわしい秋晴れ。お父さんはタバコを吸いに何度も出たり入ったりで落ち着かない。ぼくに触れるたび「うれしい」と「さびしい」が同時に伝わってくる。ゴミを出しにいくお母さんはいつも通り穏やかだ。キミが生まれた日のことを思い出しているみたい。

あっ、いよいよ出発なんだね。
触れる前から分かるよ、キミの心が幸せでいっぱいなこと。

心配いらない。
あの人はキミを幸せにしてくれる。この家に挨拶に来たとき、あの人がぼくに触れた瞬間分かったんだ。キミのことを心から愛してるって。

結婚おめでとう!


歩きだしたキミに、聞こえない言葉をぼくは叫んだ。その瞬間、キミは振り返りぼくに近づいて来る。



そうそう
ぼくを回して鍵を確かめるのは、小さいときからキミの役目だったね。

安心して

いってらっしゃい


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こちらの企画参加作品です。

800字を使ったなぞなぞ、そこから生まれる大喜利の面白さがこの企画の醍醐味なんだろうな、と思ってたんですね。でも書き始めたら、モノ視点の方が人の気持ちが浮き彫りになるシーンがある、と新鮮な気づきがありました。仲さん、とても素敵な企画をありがとうございます。企画原案を立案した、カミーノさんにも感謝を。

さて、この物語に出てくるぼくは何だと思いますか?
思いついたらコメント欄に答えを書いてもらえたら嬉しいです。もちろんボケてもらってもOK! ちょっとボケづらい物語かもしれないけど、どんなボケが飛び出すか楽しみです。



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