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笑えるはずの場面で泣きたくなる気持ち

.エッセイ

木曜日の夕方、夕飯時のテレビ番組でお笑い芸人が漫才をしていた。ポンポンとリズムよく繰り出されるネタに客席は大ウケで、見てると自然に笑いがこみあげてくる。何度も押し寄せる笑いの波を受けていたら、ふと泣きたくなった。そのとき、数えきれないほど繰り返し聞いた昔の曲を思い出した。

学生のときに聞いたその歌は、明るいメロディに別れの歌詞がのせられた不思議な曲で。ラジオで耳にした瞬間好きになった。

話題の映画をひとりで見る場面から曲は始まる。恋人と別れたあとに残った、二人で買った映画の指定チケット。当日、再会できるかもしれないという期待が悲しみに変わるストーリー。映画が始まりしばらく経ち、誰もいない隣りの席に主人公がバッグを置きながら心情を語る歌詞。

笑えるはずの場面で 泣きたくなってる

恋愛のことはよく分からない10代だったけど、なんとなく主人公の気持ちは想像できた。強い喪失感の中では、笑いを悲しく感じるのかもしれないと。切ないシーンで泣くよりも、深い悲しみなのかもしれないと。

自分ごととして、特に社会人になってから、笑える場面で泣きたくなったことが一度や二度はあったと思う。感情が昂りコントロールできなくなることは、誰にでもあることだもの。

それがどんな場面だったか覚えてないのは、健全な脳を保つための「忘れる」機能なのか、ただ単に年をとったからなのか。理由は分からないけど、もしもいまが悲しくても、いつか和らぐと思えると気持ちが楽になる。

ここ最近、文章を書くとどうしても切ない気持ちが出てしまう。それは自然なことで仕方ないけれど、のほほんと縁側で日向ぼっこをしているような文章を書きたい気持ちもある。犬のあくびが自分にうつって、「わぁ、うつったねぇ」と、たわい無い話題で2000字くらい書きたい。きっと絶対楽しいはずだ。

3月は肌寒い日が多くて肩がすぼまる日が多かったけど、4月になり暖かくなれば、そんな文章を書きたくなるのかもしれない。


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