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藍羽放浪記5ページ目・・・【小説】

海に沈む自分の知る街と瓜二つの街を後にした僕は情報を集める為にここから数十キロ離れた位置にあるであろう街に向かった。

バス?タクシー?なのか分からないけど、ここでは「イルカ」に乗って移動するのがメジャーらしい。
幸い、こちらの世界と元の世界の通貨は同じらしく、料金は支払うことが出来た。

目的地に到着して「イルカ」に料金を支払い、「イルカ」が遠くなっていくのを確認して僕は辺りを見渡した。

「やっぱり…」


見た事ある。そう思いながら僕はつぶやく。

商店街のビルの位置、店の位置、信号らしきもの…

その全てが「見た事がある」


ただ幾つか、違うところがある。

それは、ビルの上階の店に入るには『正面のドアから入るしかない』という事。


恐らく、泳いで行けということなのだろう。
なるほど、階段やエレベーターは撤去して店のスペースを取っているのだろう。


僕は沢山ある店うちの「珈琲」と書いてある店に足を運ぶことにした。
 
店のドアを開けるとそれを見た店主らしき人物が声をかけてくる。

「お、いらっしゃい!珍しいお客さんが来たもんだ。」

店主らしき人物は気の良さそうな、イソギンチャク頭の亜人種と言った感じだ。

「まぁ好きなとこ座んなよ。」

そう言われて僕は窓際の2人用席に腰掛けた。

「とりあえず、メニュー表…何か頼まなくちゃ。」

僕はテーブルに置いてあるメニュー表をそっと手に取り、適当なページを開いて何を頼むか考える。

そうしていると、店主らしき人物は僕のいるテーブルに向かってきた。その両手にはコーヒーカップが2つ握られていた。

「正面、いいかい?少しお話したくてね。」

僕は少し戸惑ったものの、コクっと頷いた。

「ありがとう!それじゃ遠慮なく。」


店主らしき人物はそう言ってよいしょっと僕の向かいに腰をかけた。そうすると続けて


「自己紹介からしようか。俺はハンク。この店をひとりで切り盛りしてるんだ。よろしくな!」

ほんとに店主だった。


そして彼は握手を求めて僕に手を差し出す。その手は色は緑色なこと以外、人の手と変わりがない。
変わったことと言えば、メリケンサックのような指にはめ込む形の水掻きがついている。


「お客さん、ドールだろ?地上から来る客は珍しくてねぇ。これはサービスだよ、飲みな?」

.…結構、グイグイくるな。悪い人ではないんだろうけど、ちょっと苦手かもしれない。

「ありがとうございます、頂きますね。」


そう言って、僕は外行きの顔を作りながらコーヒーカップを受け取る。香りから、中身は普通のコーヒーのようだ。


「どうして海に入ろうと思ったんだい?観光?」

彼は顎…?の位置に手を置きながら興味深そうに質問してきた。


「まぁ、そんなところですかね?旅をしているもので。」

「ほー!旅か!いいなぁ。俺も若い頃はよくやったよ。地上にゃ出れねぇけどなぁ?はっはっはっ!海にゃ、どこかいいとこあったかい?」

「いい所…というか、随分独自の文明が発展してるんだなぁと感じています。普段見れないものが見ることが出来てとても面白いです。」

「そうかそうか!!いや、まぁ文明が発展してると言うより、元あった文明を貰い受けて自分達のものにしてるだけではあるんだけどな?」

「ほう…?それまたどう言う…」

「まぁ、あんまり詳しくはいえねぇんだけどな?200年前くらいだったかなぁ。元々ここは海じゃなくて、海が隣接してる地上だったんだ。」


...…何だって?


「そんでまぁ色々あってここが海になって、俺たちが住み始めたってわけよ。この話、本当はあまりしない方がいいんだけどな?旅人ってことでトラブルになっちゃいかんから、教えておいてやろう。」

「それは、ありがとうございます…」


自分の外行きの顔が崩れていくのを自覚した。
僕の中にあった1つの仮説が、正しいかもしれないと思ったからだ。

そんな僕を見た店主が心配そうに声をかけてくる。


「ありゃ、気を悪くしたかい?すまんすまん。どうもいらないことを喋り過ぎてしまう質でねぇ。もっと色々話したかったが、このくらいでやめて置くことにしよう。」

「いえ、僕の方こそすみません。気を悪くしたというより、かなり驚いてしまったもので。」

「いやいやいや、お客さんは気にしないでいぃーんだよ〜!地上から来たって分かってるのに、俺もデリカシーってやつがなかったわ。お詫びと言っちゃなんだがこれをやるよ。」


彼は上着のポケットをまさぐると1つの小さな指輪を差し出してきた。
リングは銀でできているようで、いくつかの勾玉…?がはめ込まれている。


「俺にゃこいつの価値が分からねぇが、なんか不思議な力を感じるんだ。特に俺が持ってても仕方ないから持っててくれ。多分これ、地上のもんだろ?」

「え、あ、はい。ありがとうございます。」


僕はその指輪に手を触れる。
その次の瞬間、誰かの記憶が頭の中を目まぐるしく駆け巡る。


海に浮上した謎の都市。そこに現れたコウモリの翼を生やした巨大なタコのような怪物。怪物が水を街に流し込む。
そして次に人間同士の争い。殺し合い。そこに理性はなくただただ、みなの顔に狂気が満ちている。

そうして争いが静まる頃には、街は海水で満たされた。

それを地上から見つめる1人の人間。
…...…...…恭赤?


一通り記憶が流れ終わると、僕は気を失ってしまった。

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