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法制審議会家族法制部会第29回会議議事録読む4~杉山幹事・大石委員・柿本委員・原田委員・今津幹事

不当判決詳細が見えてきた

今日の議事録は?

○杉山幹事

 幹事の杉山です。まず、法定養育費についてでありますが、私自身は、基本的には当事者間の話合いとか調停審判で当事者の資力、収入に沿って実情に合った額を定めるのがよい、そして、それに向けて合意形成をサポートするとか、簡易迅速に債務名義を作成する制度を整備する方が望ましいと思っています。その一方で、そのような合意形成が不可能であるとか、非常に時間が掛かるという場合もあり、本来は審判前の仮処分などを活用できればいいのですが、それが難しいこともあるようですので、それに代わるものとして、つまり本来のルートに乗せるまでのつなぎとして、法定養育費のような制度を作っていく方向性自体には賛成を致します。また、仮にこのような制度を作るとして、その後、強制執行ができないと困りますので、一般先取特権を付ける方向性になっていくであろうと考えております。
 ただ、この制度を設けるに当たっての一番の懸念として指摘されている債務者の手続保障、つまり、法律で当然に、場合によっては過剰な債務負担を負わせることになる、あるいは過剰な執行がされる可能性があるという問題については、実体法と手続法の双方から対応を考えることができると思っております。実体法の側面ですが、この法定養育費の制度というものは、合意形成とか、あるいは調停審判が成立するまでのつなぎの制度として位置づけるのが適当であろうと思っており、そうであれば、債務名義などが成立するのに相当な期間で区切ることもあり得ると思いますし、また、実際の債務者の資力を勘案できればいいのですが、なかなか難しいと思いますので、低額で一定の額を定めておくことが、債務者の手続保障を考えると、望ましいのではと思います。ただ、一方で額が低すぎると、債務者が変更の話合いに応じない可能性もある点は、少し悩ましいところではありますが、ただ、過剰な債務負担と過剰な執行に対する懸念を考えるのであれば、低額で一定の額で設定するのでやむを得ないと思っております。
 1点、債務者の貧困事例への対応が悩ましい問題であると思いますが、養育費の算定表を見ていますと、確かに毎月の養育費がゼロから1万円で設定される場合もあるようなのですが、実際に本当に資力がなくて、限りなくゼロに近いものが設定される場合がどれぐらいあるのか、よく分かっていないのですが、ある程度の額は負担するのが通常ではないかと思っております。破産した場合であっても養育費は免責されないものでもあるので。逆に、ゼロあるいはそれに近い額で設定されるのがそれほど多いケースではない、まれなケースであれば、そのような極限的な事例をベースに考えるのではなくて、本当に救済が必要な貧困事例は手続的に救済措置を与えることで対処すべきであると思います。
 手続による対応ですが、先ほど今津幹事から一般先取特権だと執行抗告が使えるという話もございましたが、差押禁止の範囲を変更する形も執行場面で救済することも可能ですし、債務者側からも適正額に修正させるような機会として簡易なものを用意することによって、債務者の貧困事例に対しては対処していくのが望ましいのではないかと思います。法定養育費の額そのものを変更というか、合意で養育費を定める方向にもっていくとか、そのようなことが簡易にできるような手続を準備していく方向の検討もすべきであろうと考えています。
 包括申立ての件ですが、こちらも方向性には賛成を致します。執行の負担をなるべく軽減するために必要な制度であると思いますが、ただ、この制度の本来の趣旨を考えますと、新たな制度を作るときに余りにも複雑なものを作って、申立人に難しい選択権を与えるとか、あるいは逆に裁判所に過度な裁量を認めるというのも適当ではないと思っております。
 そうすると、特に財産の調査手続、第三者への情報開示のところで、なるべく広い財産を調査できる方向にするのが望ましいことは理解をしており、預金債権なども含めて広く調査対象にしていくことも一つの方向性ではあると思いますが、養育費というのが毎月少額の債権を継続的に払ってもらうという性格のもので、さらに、既に養育費に関しては執行法上、様々な手当てができておりまして、将来分の養育費についても給与とか、その他継続的な給付に係る債権の差押えをする制度が用意されていることを考えますと、一つの考え方としては、給与債権を調査して差し押さえることをベースに一括して財産、情報開示、執行ができるような制度を構築していくことが望ましいのではと考えます。
 特に、預金債権については、これもこの制度の対象にするのが望ましいとは思いますが、複数の債権が発見されたときなどに、どれから差し押さえたらいいのか、按分するのかという問題が出てきて、手続が複雑になる可能性があると思われますし、また、預金債権なんかを情報開示の手続で得ますと、記録閲覧できる債権者の範囲が広いので、例えば、債務名義を持っているほかの金融機関などが記録を見ることもでき、本来、養育費の債権者に特化して負担を軽減した手続を作ったにもかかわらず、ほかの債権者が参加できることになり、本来の目的が薄れる可能性もあるので、制度を作るとしても、まず範囲を少なめに作っておくのでも良いのではと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。杉山幹事からは、法定養育費については、合意促進が本来は望ましいけれども、しかし応急の方策としてはこれに賛成をするという御意見を頂きました。先取特権の付与について、債務者の手続保障ということを考えると、期間制限をする、それから低い定額を考えるということで対応するのがよいのではないか、債務者の貧困事例というのも挙げられるけれども、これについては救済の仕組みを作っておいて対応するということではないかという御意見だったかと思います。それから、2の手続の一本化については、基本的な方向は賛成だけれども、余り複雑なもの、裁量性の高いものは避けた方がよいということで、給与債権差押えをベースに考えるというのも一案ではないかといった御意見を頂戴いたしました。

貧困対策はまた別に考えたい

○大石委員

 委員の大石です。情報提供なのですけれども、私が調べた範囲で得た情報ですけれども、例えば2017年に法改正をしたエストニアの場合ですと、不払いがあった場合には公的機関が1人1か月当たり100ユーロ、今、1ユーロが156円ぐらいですから1.5万円少しぐらいでしょうか、それから、フランスの場合ですと、同じくこども1人につき1か月で116.57ユーロを公的機関が立替支払をするということになっているようです。ここの部会には関連省庁の方も多数参加されておられますし、是非EUの動向ですとか、諸外国の動向について調査を進めていただければと思います。また、こういう法定の養育費を定めるということであれば、公的な徴収機関の設立や立替払制度の創設というのも恐らくセットにすべき方向性だと考えておりますので、その点も関連省庁の方に是非お願いしたいと思います。
 また、債務者に対する過剰な執行や取立てに関しての懸念が多数出ておりますけれども、例えばEU諸国の場合ですと、債務者側に対して就労支援を行って経済的な自立を果たせるようにするとかいったようなことも行われているようです。そういった方向性からのアプローチも必要ではないかと考えます。ありがとうございます。
○大村部会長 ありがとうございます。大石委員からは情報について補足の御説明があり、また、関連省庁の方々への御要望も頂戴いたしました。

愛情対策としての養育費でしょうに

○柿本委員 

 柿本でございます。委員の皆様方と重なるところが多いのですが、申し上げます。
 養育費の受取が一切できていないひとり親世帯が63%にも及ぶという現状が、貧困を生む大きな一因と考えますので、応急的措置としての法定養育費の新設には賛成でございます。ただし、金額につきましては、最低限度額はもちろん必要とは思いますけれども、収入に見合った金額、標準的な父母の生活実態を参考とする金額、つまり、日々の食料や衣料を心配することのない生活が送れるような金額が望ましいかと思われます。
 法定養育費制度を新設するに当たりましては、大石先生の説明にもございましたけれども、やはり強制力の持たせ方ですとか公的な立替えシステムの構築が非常に重要かと思います。また、公的な支援ツールをしっかり確立することにより、貧困に陥る家庭が少なくなるようにという思いでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。柿本委員からは、何人かの方がおっしゃっている公的な支援についての御発言がありましたけれども、法定養育費そのものについては応急の措置として賛成であるということで、特に金額について、最低額というものよりも高い額を何らかの形で考えるべきではないかといった御意見を頂戴いたしました。

養育費不要世帯もいるよね

○原田委員

 委員の原田です。法定養育費の制度を作ることについては、弁護士会の中でもおおむね賛成の意見が多かったのですが、ただ、先ほど大石委員が言われたように、本来は国による立替えが在るべき姿ではないかと思います。理論的にも、債務者に支払わせるのに法定というのはどうなのかという議論がありましたし、私もそうかなと思います。
 正当化の根拠についての議論があって、必要性については皆さんも全く異論はないと思うのですけれども、許容性の問題があるのかなとは思いますが、このバランスをどう考えるかということで、許容性のところを強調すると、低額であったり期間の限定ということが出てくるのだろうと思いますが、必要性が非常に大きいということを考えますと、この許容性のところについても一定、考慮すべきところがあるのではないかと思います。
 そういう意味で、制度趣旨を応急のものと考えるのか、取決めがなされない場合への対応ということを強調するのかということになってくるのだろうと思います。取決めがなされないということについては、請求することが困難というだけではなくて、義務者が義務を免れるということもありますので、取決めがなされていない場合、できない事情の証明とか、困難性の証明とかいうようなことは特に必要はないと思いますし、合意がないことの証明というのはなかなか難しいので、合意があることを抗弁と考えるということで考えればいいのではないかと思います。また、重要なのは履行の確保ということなので、そういう意味では先取特権やその他の制度というのは非常に重要になるのだろうと思います。
 それから、一回的手続の問題、まず先取特権の問題ですけれども、これは法定養育費に今回は限って書かれていますが、先ほどの大石委員の報告や赤石委員の報告にありましたように、一旦は払っても払わなくなるという場合があるということと、それから、法定養育費の問題点として、合意がないのにやっていいのかという問題があるという点を考えますと、合意がある場合でも払わなくなった場合ということも考えられるのではないかと思います。ただ、この場合、これまでの議論で、他の債権者への考慮、つまり高額の合意をして、それを先取特権でするというような場合も考慮する必要があるのではないかという議論があったと思うのですけれども、合意があっても途中で払わなくなった場合でも、法定養育費の範囲であれば先取特権を認めてもいいということもあり得るのではないかと思いました。
 それから、請求主体の問題としては、父母ということで、法定養育費は18歳までだろうと思いますので、父母でいいのだろうと思いますが、先ほど大石委員からもありましたように、主たる養育者というのを誰が認定するのか、特に共同親権とか共同養育の場合はどうなるのだろうかというのが私も疑問に思います。協議ができているだろうというのは少し楽観的ではないかと思いますし、私は半分ずつという合意をしたことがあるのですけれども、その場合、必要だったお金をいちいちレシートを用意して、その半分は幾らかというのと、元々決めていた養育費との差額ということで、非常に面倒くさい計算を半年に1回ずつやるというようなことをやっておりました。なかなか使いにくい制度になる可能性もあります。そういう意味では、私は元々言っておりましたけれども、共同親権とか共同養育の場合には、家裁を関与させて、そこできちんともう決めてしまっておくというふうにすることが、法定養育費をスムーズにさせるという意味でも、つまり、そういうふうに決まっていれば取り決めがないという意味での法定養育費は発生しないわけですから、スムーズに行くのではないかと思いました。
 それから、期間の問題で行けば、始期は離婚のときでいいと思うのですけれども、終期については、先ほどの制度趣旨をどう考えるかによって関連すると思います。もし応急措置として一定の合意ができるであろう期間というふうに期間を定めるのであれば、合意形成の支援策が整えられるべきだろうと思います。私としては、取決めがなされるまでということで、過大な負担と考える当事者や過小だと考える当事者が申立てをして、裁判所で取決めをするということと、それから、ここは民事法のところではありますけれども、法テラスなどの支援ということをきちんと法務省の方でも御検討いただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。原田委員も基本的には法定養育費制度、そして、それに先取特権を付与するということについて賛成というスタンスで御意見をくださったものと理解を致しました。それで、幾つか問題を指摘してくださいましたけれども、法定養育費という場合の法定ということをどのように正当化するのかという問題があるということ、これは理論上あるいは法制上の問題に関わる点ですけれども、それから、取決めがない場合ということを要件にすべきだけれども、これは抗弁とするほかないであろうということ、そして、適用範囲の問題として、法定養育費以外のものについて先取特権を認めていくことも考える必要があるだろうということ、それから、先ほどから出ている、父母が請求者になるというのだけれども、主たる養育者というものをどう定めるのかということに関わる御意見、最後に、終期をどうするかということについて二つの考え方があるけれども、御自身としては取決時ということでよいのではないかということ、こういった御意見だったと理解を致しました。

養育費問題意外に深くて細かい

○今津幹事

 幹事の今津です。部会資料17ページ以下の部分について、追加で発言させていただきます。今回の御提案では、1回の申立てによりと記載をされていますけれども、これは従前の民事執行法制にない新たなものを作るということではなく、これまで順次複数回やってきていたものを一度の機会でまとめてやるという趣旨であると理解をしました。その意味であれば、現状の制度とそこまで大きく乖離したものではありませんので、導入することに大きな支障はないのではないかと思います。
 その場合の制度の組み方について、申立ての段階で債権者が何をどこまですべきかということが問題になりそうなのですけれども、手続に慣れていない債権者にとっては、手続の最初の段階で余り大きな作業を求められない方が、もちろん有り難いと思うのですけれども、他方で事案ごとの選択の余地が一切なくなってしまうというのもまた硬直的にすぎるような気もしております。その意味で、資料の18ページの冒頭の(注)のところに今回、法定されている手続が列挙されていますけれども、こういったものを一つの、デフォルトとしてはそれを包括的なパッケージとしつつ、事案によって、例えば要らないものを落としていくような、そのぐらいの選別の余地は残してもいいのかなと思っております。
 それから、先ほど杉山幹事からもありましたけれども、どういう財産に対して執行できるかという辺りについて、基本的には給与債権を使うということが多くなるのだろうと思っております。ただ、その場合は給与取得者しか捕捉できないというデメリットもありますので、可能であれば預貯金まで行けるということがいいのかなと思うのですけれども、他方で預貯金の場合は実務的にも、例えば費用倒れになってしまうリスクとかも出てくると思いますので、その辺り、実情を考慮した上で、まずは、例えば給与債権に限って制度を導入してみるといったような形で仕組んでいくというのも一つの選択肢かなと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。今津幹事からは2の方について御意見を頂きましたが、これを導入するのに大きな支障はないのではないかという御意見を前提にして、制度の組み方として、選択の余地をどのくらい認めるのかということについて、一定のものをデフォルトとして、若干の選択の余地を認めた方がよいのではないかということ、対象については、更に拡大するということもあり得るけれども、取りあえずは給与債権ベースで考えるということも考えられるといった御意見だったかと思います。

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