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法制審議会家族法制部会ウォッチ7(戒能委員と赤石委員)

議事録ウォッチ再開しています 

○戒能委員

 私はジェンダー法学研究なのですが,具体的にはDVを始めとする女性に対する暴力と法の関係について研究してまいりました。その立場から若干,発言をしたいと思います。主に審議のアプローチの点からお話を3点,したいと思います。
 これはもう当然のことなのですが,今まで委員の方々の御発言がありましたように,観念論に陥らないということがとても大事かと思います。法律学ですと,そこが中心になるということも実はあるわけです。それで,現実といいましょうか,現状といいましょうか,そこから常に議論を出発する必要があると考えておりまして,この部会でもそのような議論を意識的に進めていっていただければと思っております。
 それで,離婚後の子どもの養育をめぐる対立関係というのが生じているわけです。ですから,とても難しいことなのですけれども,そこでどう子どもを守るかということが大きなテーマになっているのではないかと思っております。そのときに,個別性とか具体性ということが重視されなければならないと考えております。そのためには,議論の土台となる調査のデータが余りにも少なすぎるのではないかと感じております。今回も法務省の調査など,あるいは厚生労働省のひとり親調査などをお示しいただいているのですが,例えば協議離婚の調査とか,面会交流がどのように進められて,そこで子どもの状況はどうなのかとか,そういうことがまだ,これからなのかなと思っております。
 私はDVの問題に関心を持ってずっと研究をしてまいりましたけれども,DV法がそもそも制定されたのはなぜなのかということを考えてみると,これは命,生命が奪われるかもしれないということなのです。人権の一番の基礎,土台です。そうしますと,面会交流をめぐって,今まで残念ながら幾つか事件が起きておりまして,面会交流のときにお子さんが殺されてしまうという事件も起きているわけです。そうすると,その検証をしているのかどうか。ヒアリングをなさったということを少し聞いているのですが,その内容や,大事なのはその防止策,そういうことが起きないようにどうすればいいのかということは,子どもの安全とか子どもの安心とか,守るためには不可欠ではないかと思っております。それが大きな一つ目で,二つ目がDV事例は例外という考え方についてです。原則があって,それは誰でも適用されるのだけれども,例外というのが出てくるようなのです。それで,例外という考え方を,この面会交流とか養育費を考えるときに,果たして,いいのだろうかと疑問に思っておりまして,例外という考え方が続く限り,本当に子どもの安全は守られるのだろうかということを疑問に思っております。
 DVと児童虐待が別物だとずっと考えられてきたけれども,18年や19年に,野田市事件とか,目黒区事件とかございましたけれども,そこで,そうではないのだと,一体としてファミリーの中で起きている事件なのだということがようやく私どもも気が付いたということがあります。それから,DVも児童虐待もそうなのですが,例外と扱うのだったら,例外として扱っていいという認定といいましょうか,判断をしなければならないけれども,そこが残念ながらまだ,2001年にDV防止法ができて,20年もたっておりますが,社会的な認識が,司法も含めて,十分ではないのではないか。DVは身体的暴力だけでは,もちろん,ないわけですね。つい最近,内閣府の調査会が報告書を出しまして,それは新聞報道もされておりますけれども,身体的暴力だけではなくて,精神的な暴力や性的暴力も,家族の中の暴力という観点からは,子どもに大きな影響を与えていると。それも継続的に影響を与えるのだというようなことを内閣府の報告書では言っております。
 それから,もう一つは,その報告書は非常に画期的だと思っておりますが,面会交流にも触れています。そして,そこでは十分リスクアセスメントをして,安全・安心な環境で面会交流を実施すべきだというようなことも言っておりますので,そういうことを配慮したいと思います。
 最後なのですが,外国法制の見直しが行われているということも考慮すべきだと思っております。もう時間なので終わりますけれども,例えば,2020年の英国の司法省の報告書も出ておりますので,日本でも参考にして,家裁の実務ということも視野に入れて検証をすべきだと考えております。
長くなりまして,どうも失礼いたしました。
○大村部会長 ありがとうございました。たくさんの御指摘を頂きましたけれども,現実的な議論をすべきだというところから始まりまして,調査の必要性ですとか,これまでの事例の検証ですとか,あるいは外国法や実務についての見直しの動きの把握といったことが必要ではないかという御指摘を頂いたかと思います。

大村部会長の要約が大変参考になります




○赤石委員

 発言の機会を与えてくださってありがとうございます。認定特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむの理事長をしております。私どもはひとり親家庭,主にシングルマザーと子どもたちを支援しております。現在7,600人のメールマガジンの会員がいらっしゃり,コロナの感染拡大に伴う収入減で,本当に生活苦のひとり親世帯,2,300世帯に毎月お米や食品を送るということを行っております。また,相談件数は,離婚前後の相談ですとか,生活苦の相談ですとか,年間で大体2,000件以上受け付けております。就労支援事業も新たに行っております。今日,家族法制部会に参加させていただくということで,私のミッションはひとり親の声を届けていくということだと認識しております。その観点から何点か申し上げさせていただきたいと思います。
 まず,養育費の検討会に私も参加させていただいたのですけれども,やはり養育費については喫緊の課題でございます。ですので,家族法制の中で一緒に議論するというよりは,優先的に議論していくべきではないかと思っております。養育費は金銭的な債務であり,取決めが必要ですし,取決めに至る相談体制の充実ですとか,その後,取り決めた後の取立ての制度など,法改正を含め議論が必要かと思っております。また,養育費については,実務では面会交流の取引材料になってしまっておりますので,これはやはり避けるべきであるということを,子どもの権利として取り扱われるべきだということを強く思っております。ですが,養育費問題が解決すればひとり親の貧困が解決するというような安易なものではないということは認識しておいた方がいいと思います。
 続いて,DV被害についてでございます。私ども,たくさんの方からDV被害についての御相談も受けております。裁判所を経由する婚姻関係事件申立ての動機別の割合では,2位から4位までがDVに関するものでございます。また,私たちの会員への調査では,一方の親に告げないで子連れで別居する方のほとんどが,背景にDVがありました。これを連れ去りだとか表現されてしまっているのですが,もし事前に子どもを連れて家を出ることを言ったら殺されていたかもしれないというようなことをおっしゃっていらっしゃいます。この点が余り認識されていないのかなと思っていますので,申し上げます。ですので,戒能先生がおっしゃったように,DV被害というのを例外でなく取り扱うと,家族法の中できちんとそこを峻別するということがとても大事だと思っております。
 私はひとり親の声を届けるというのが責務ですので,今日この会議にということで,お母さんからの声を御紹介いたします。この方は40代なのですが,7,8年前に離婚されました。そのときは未就学のお子さん2人だったのですけれども,精神的DVで離婚されました。私は離婚前の別居時から,元夫による精神的DVによって心身の健康を害してしまいました。精神的DVは主に罵詈雑言,無視,私が作った食事に手を付けず捨てるなどの嫌がらせ,その状況は別居後も続いて,調停中の元夫は私を虐待親だと訴え,児童相談所に相談に行くように命じたり,母親失格を主張しました。離婚成立後も取決めを守らず,届出を勝手に行ったり,同居していた家を引き払うときには,切り刻んだ写真や粉々に割れた食器,腐った食料などを送り付けられました。さらに,離婚成立直後の面会交流時には,新しいパートナーがいる家に子どもを連れていき,子どもたちは帰ってくると,入学前の子どもが,母失格だねと自分に言ったりしました。およそお互いが対等にビジネスライクにコミュニケーションをとって関わり合うなどはとてもできない関係でした。7,8年たっても,元夫と背格好が似ている人影を見るだけでフラッシュバックが起こります。
 直接連絡をすることなどはとてもできないので,支援団体を通じて面会交流をしています。このような声を頂きました。
 こういうことで,次の共同親権,あるいは共同の親責務と名前を変えるというような議論がされているわけなのですけれども,やはりできないケースというのはすごくあって,この方も,我が家のケースでは子どもの進学先とか手術や処置など,とても自分が一緒に話し合うことはできず,元夫の嫌がらせのような支配を受けながら,自分がのんでいくしかないのではないかとおっしゃっていました。
 次,面会交流についてお話ししたいと思います。面会交流というのは養育費と違うと思うのです。それで,未成年時に親の別居,離婚を経験した子に対する調査というのを配られております。これを見ますと,面会交流を別居後にしていたというお子さんは464人いらっしゃいました。つまり,1,000人中で半分の方が面会交流していらしたのです。
 取決めがあったという方は122人,ここに分からない方がいらっしゃるので,精査しなければいけないのですが,つまり何を言いたいかというと,日本社会では面会交流はふんわりと行われていて,取決めがあるから行われているのではないのです。なので,取決めが低調だから法改正をして取決めを促進すべきだというのは,私はとても違和感がございます。もし面会交流が子どもにとって利益になるということでありますなら,環境整備をしていく,ここがもう何しろ必要なことです。面会交流支援の団体を増やすですとか,そこに予算を掛ける,あるいは面会交流している親に,あるいは子どもにインセンティブを与える,こういったことが必要で,法律改正と社会政策の役割分担をきちんとすべきだと思っております。こちらはやはり社会の政策の方でやるべきではないでしょうか。
 最後になりますが,6番目として,結婚によらないで生まれた子,いわゆる嫡出でない子と表記されますが,この婚外子の問題がすっぽり抜け落ちているのかなと思います。養育費の検討会でも申し上げましたが,父の確定のところは確かに手続が違いますが,その後の養育費や面会交流,親子関係に関しては同様のものが続きます。これを10%のひとり親の子どもたちは大体,今度の調査で更に増えると思いますし,国勢調査では既にもっと大きな数字が出ておりますが,婚外子のことを抜け落ちたままこの議論をされるということは大変残念に思います。ですので,そこの議論もしていくべきであろうと思います。
 取りあえず,以上です。ありがとうございます。
○大村部会長 ありがとうございました。多数の御指摘を頂きました。具体的な話としては,連れ去りといわれている案件と,その背景にあるDVのことですとか,あるいは面会交流の実施状況と取決めの関係などについても御披露いただきました。審議の在り方については,一つは議論の優先順位ということで,養育費に関する検討を優先させるべきだという御意見と,それから,今回は離婚後の問題に焦点を合わせていますけれども,婚姻外の子どもたちの問題というのも視野に入れるべきではないかという御指摘を頂いたかと思います。ありがとうございました。

お二人分でしたが,5000字近くになろうとしています

第6の視点を盛り込んだ赤石さんに注目です

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