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【伊香保滞在記①】伊香保の“晴れ”(12/31-1/3)

はじめに:伊香保滞在記について


渋川アートリラ2022 in伊香保 アーティスト・イン・レジデンス(AIR)の述懐です。滞在中の体験から作品が生まれる過程を共有します。
12/31-1/20に渋川・伊香保のあらゆる場所で採取した“音声”を再構築したサウンドインスタレーション《Great Good Journey》は12/24~12/30にホテル木暮様にて展示 → 渋川アートリラ2022 in伊香保

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12月31日

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最初の滞在となる「いかほ秀水園」さん。
到着は雪の夕暮れ。日が沈む頃には氷点下。真っ先に買い物を済ませないといけない。急な坂道の多い伊香保。凍った道で滑って転んで、事故に遭ったら・・・という心配が絶えなかった。

伊香保にはローソンが一件。大晦日、お酒やおつまみの買い足しと思われる宿泊客の姿がちらほら。かくいう私もそのひとり。
広い店内に、店員さんはひとり。会計を済ませると「お気をつけて、よいお年を!」と声をかけてくれた。郷里でも住み慣れた家でもなく、遠くの温泉郷で過ごす大晦日。この年に交した最後の挨拶が、寂しい夜を温めてくれた。

1月1月 

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初日の出には間に合わなかったけれど、朝の空気はいつもと一味違った。
早速プロジェクトの練り直し。
ーあっという間に息詰まる。
ー気が付けば夕方。
ー慌てて買い出しに出かけるが、ふと思い立って石段街に立ち寄った。
石段街は天正四年に形成。武田勝頼が長篠の戦による負傷者治療のために引湯、温泉都市計画の先駆けといわれている。

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一番下から一番上まで三六五段を、一往復。イルミネーションの煌めきは夜の澄んだ石段街を照らし、祝賀のときをより象徴的に映し出していた(石段街イルミネーション:伊香保温泉旅館協同組合さん)。
二〇〇段、与謝野晶子『伊香保の街』が歴史情緒をうたう。この先を上りきった先にも時間は積み重なってゆく。

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1月2日

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「峠の公園」には明治後期から昭和中期まで実際に走っていた路面電車の車両のひとつ(実物)が保存展示されている。眺めていると、職員の方が教えてくださった。
明治二三年に上毛馬車鉄道・前橋線、
明治二六年に群馬馬車鉄道・高崎線、
明治四三年に伊香保線は伊香保電気軌道として開業。これらの三線は昭和二年に東武鉄道が東京電燈から買収、「東武鉄道伊香保軌道線」と呼ばれ営業をつづけてきた。
展示車両は月に二日だけ車両を開けているのだという。ちょうどその日であったので運よく中を見学することができた。もうこの街に路線の面影は見当たらないが、「あの辺りに駅があった」「この辺りの道を走っていたであろう」と想いを馳せると、この車両は「過去と現在を接続する」という役割を担っているのだと解った。

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日も傾きかけた頃の帰途、通りかかったバス停のベンチにたくさんの松ぼっくりや、新しい雪面にどっしりとした怪獣親子(?)の足あとをみつけた。まだ慣れない地での生活に緊張は解けていなかったようで、思いがけない小さな発見がこころをほぐしてくれた。

1月3日

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元旦には叶わなかったのだが、石段を一番上まで上りきった先の伊香保神社でようやく初詣。
伊香保の地名が「厳つ峰」「雷の峰」に由んでいることは随分前にも書いたが、実際の地でその名を反芻する。境内の石碑には松尾芭蕉の句。

”初時雨
猿毛小蓑越 不し気南梨


お参りの後、こちらの神社からロープウェイ乗り場まで登って行くことができる。石段街チャレンジ同様、好奇心が買ったためにきつい坂道を三十分程かけて歩いていく。
辿り着いたのは眺めのよい場所、伊香保森林公園。この高さはかなり寒い。
しかし驚くほど静かで、鳥のさえずり、厳しい風の音、枯葉の擦れる音・・・あらゆる音や声が細かに聴きとれる静けさに胸を打つ。

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おまけ

私が制作している《Great Good Journey》という作品題は、社会学者Ray Oldenburg氏の著書『The Great Good Place』(Da Capo Press, a member of the Perseus Books Group, 1989)に倣って名付けています。地域の内外で行き交う人間関係や体験活動が地域活性化や個人の幸福度に良好な影響を与え得るという氏の「サードプレイス」の提唱と、渋川アートリラが掲げる理念とが私のなかで接続し、制作の企図につながりました。

ここまでお読みいただきありがとうございました。
伊香保滞在記②もぜひご覧ください。

★★★ Special thanks to

いかほ秀水園
(12/31〜1/13まで滞在)

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