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【伊香保滞在記③】“unsort”(1/8-1/13)

はじめに:伊香保滞在記について

渋川アートリラ2022 in伊香保 アーティスト・イン・レジデンス(AIR)の述懐です。滞在中の体験から作品が生まれる過程を共有します。
【伊香保滞在記①】はこちら
12/31-1/20に渋川・伊香保のあらゆる場所で採取した“音声”を再構築したサウンドインスタレーション《Great Good Journey》は12/24~12/30にホテル木暮様にて展示 → 渋川アートリラ2022 in伊香保

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1月8日

早くも一週間が過ぎた。
伊香保では日常的に雪が降る。今年は少ないらしいが、新しい雪化粧で朝を迎える窓辺の景色にこころ踊るものがあった。と、同時に雪に馴染みのない土地で暮らしてきた私は雪に対する心構えができていなかった(大晦日の出来事)

レジデンス一番乗りの私は秀水園さん(旅館)の方々、地元の方々以外の誰かと交流機会がなかったのだが、この日、私のあとに続いてやって来られた3人のアーティスト───渋田薫さん、篠塚聖哉さん、菅原久誠さんにはじめてお会いした。はじめてお会いしたはずなのに、皆さんのやわらかいお人柄にとても心温まり、この後も創作という孤独な仕事のなかで、皆さんからたくさんの刺激と癒しをいただきながら筆を進めることができた。
(皆さんの作品・ご経歴はこちらでご覧になれます
WEB: 渋川アートリラ2022 in 伊香保 )

集まった私たちが向かったのは渋川市の公民館。渋川ミュージカル(渋川子ども若者未来創造プロジェクト)が2月の本番を控えている《くれてほろほろ》のお稽古を見学させていただいた(アートリラの運営元に、渋川子ども若者未来創造プロジェクトがある)。

渋川子ども若者未来創造プロジェクトは、都市部の若者と、地元を想う方々がつながって渋川地域の魅力を発信している。オリジナルミュージカルの舞台制作を通じて多様な価値を認め合いながら自主性を育む「居場所づくり」が素敵な団体。一か月後に本番を迎えるキャスト・スタッフの皆さんの気合と熱気が伝わる。それでいてとても爽やかで、親しみのあるお稽古だった。それは団体が掲げる理念をその通りに映し出しており、和やかな雰囲気と真剣に挑む姿勢とのメリハリ、全員が一丸となってステージに向かっている空気はとても居心地が良い。このときに私は、ひとりで成し得ないことをみんなで取り組むことの大切さを学び直した。本番が楽しみだ。
また、渋川ミュージカルの皆さんがアートリラの運営にも携わってくださり、その心意気と優しさに触れ、滞在開始頃の私の不安や悩みなどさっぱり払拭されたのであった。

お稽古の見学中、伊香保やその周辺地域の見どころについて地元の方がたくさん教えてくださった。
「箱島の湧水」「黒井峯遺跡と星空」
「吾妻線の下で聴く車両の音」
「赤城は16時~16時20分の夕暮れが美しい」
お稽古の後、星空がきれいな場所に連れていきますよ!と言ってくださった。残念ながら、少し曇っていたのでまたの機会に、となってしまったのだが、他のアーティストさんたちと私とで「渋川・伊香保の皆さんは本当に懐が深くて、優しい」と確かめ合ってそれぞれの宿に帰っていった。

1月10日

秀水園の女将さんに連れて行って頂いた、お蕎麦「いけや」さん。
香り高い美味しいお蕎麦と、その器はなんとご主人お手製の漆塗り。

(残念ながら、器の写真はここになく・・・)
お蕎麦をいただきながら、器を観る。漆塗りの工程やはじめられたきっかけなどご主人が詳しくお話しくださったのだが、丁寧な伝統技法による素晴らしい意匠(趣味と謙遜なさったが、そのような範疇は超えたお仕事)。
食と工芸との二足の草鞋を履き、それぞれをひとつの場に結びつけるお仕事に感動した。実はご主人、今回のアートリラ出店されているのだ。

私たちレジデンスアーティストは、芸術・芸能・工芸などの先達の方々がいらっしゃることを忘れてはならない。その方々への敬意とともに、その方々が創られている地に混ざって、私たちが可能な表現、私がいまここでどうしてもやりたい表現とはなにか・・・深く考えさせられた。

1月11日

小正月も終わりに向かう頃、伊香保はもっと静かになっていった。
地元の方によると「正月が過ぎても旅客はまだまだいるし、石段街は人でいっぱいなのだけど・・・」
今年はまだ心配の絶えない状況がつづいている。それでも、いま私がここにいて制作に打ち込んでいること、それに専念できる環境に恵まれたことについて、もっと真剣に考えたい。

1月13日

伊香保では足がないと遠出も難しい。普段通りの便利さから遠ざかってみると、生活にいろいろな工夫を凝らしてみようと自然に思えてくるのが楽しかった(とはいえ、旅館にお世話になって不自由や不便など全く無いのだが)。
渋川市への買い出しに、渋川ミュージカルのキャストであり、アートリラの展示参加をされた田中沙織さんが車を出してくださった。ミュージカルの参加、アートの活動、これまでのこと、今後のこと・・・などお話を伺った。交流の機会と大きく括っても、こうしてひとりひとりお話させていただくことで私は身が引き締まる。地元の皆さんの助けを借りながら、半月が過ぎようとしていた。

滞在を開始した当初は「ご迷惑にならないように、お部屋を借りて制作をしに来たのだから・・・」と自分に言い聞かせていたが、女将さんから「もっと頼ってほしい」とお話しいただき、自分の無粋さにはっとなった。旅人を迎えてくれる気遣い、案内に長けた伊香保の方々の心意気を無碍にしていると思った。そのときから私は(私のスタンスとしての)レジデンスの心得を意識するようになり、もう少し甘えてみようとも思った。

後日、アーティストトーク――渋田薫さんとの対談で、渋田さんがお話していた通り「観光目線を忘れない」「観光客の立場でいることも大切」という言葉を私は大切に受け取った。レジデンスという立場がその地に混ぜていただいている以上の身にはならない事実が深く刺さった。

秀水園さんで過ごす最後の夜。
渋川アートリラの理念“unsort”について考えと想いを巡らせる。

”そんな新旧入り混じり、常に移り変わる街、いや実際には変わらずそこにあるものに出会うことで訪れた人が新たな発見ができる”
(渋川アートリラ2022コンセプト)

今まさに、私に起きていることだと感じた。

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ここまでお読みいただきありがとうございました。

★★★ Special thanks to

いかほ秀水園
(12/31〜1/13まで滞在)

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