見出し画像

空の空気(KOGADOの冒険ワークショップ vol.57)

北川:
 最近はどんな感じですか?

西川:
 忙しいのだか忙しくないのだか、微妙なラインをさまよっているような感じでしょうか。やることはたくさんあるけど、やれるタイミングが限られていたりで。

【話し相手:工画堂の看板シナリオライター、西川真音さん】

北川:
 なにか一つにぐわっと集中できない感じですよねきっと。

西川:
 確かにそんな感じです。今までやってきたこともある得意な分野の仕事もあれば、初めての面白い仕事もあったりで、楽しくはありますね。

北川:
 幸せな忙しさってあるよね。

北川:
 ありますね。同時に、不幸せな忙しさもあるってことですけどw

北川:
 忙しいのは好き?

西川:
 あまり好きとは言えないかもしれません……。

北川:
 あれ? そうなんだ?

西川:
 ひとつの仕事に集中してる時や、時間なりアイデアなりが足りないだけの時なんかは、実はあまり忙しいとは感じないんですよね。やらなくちゃいけないことが山積みで、どこから手をつけていいかわからないときが、一番忙しいと感じる時なんだと思います。なので、シナリオとかそういうライティングの仕事の時は、忙しいという感覚とはまたちょっと違う気がするんですよね。「終わらない!」とか「書かなくちゃ!」みたいな、どちらかというと焦りみたいなものでしょうか。

北川:
 終わらない時って、どういう気持ちになるの?
 やりたくない、逃げたいってなる?

西川:
 やりたくない、逃げたいは、ショートストーリーとか分量の少ないテキストの時以外はだいたいいつも思ってますね。「なんでシナリオなんて書いてるんだろう?」とか「もう次は書かない!」とか思うんですけど、終わってからしばらく別の作業(スクリプトなど)をやってると、だんだん書きたくなってくる、の繰り返し。

北川:
 分量の少ない時「以外」、つまり長いやつを描いてる時ね。

西川:
 終わらないとき、なのでw
 ショートストーリーは、ちょっと時間がかかることもありますが、それでも書く作業量、分量でいったら、一日で書き終わってもおかしくないくらいですしね。

北川:
 開墾事業と庭遊びくらい違うのか。

西川:
 結構違うとは思います。

北川:
 切り開いていかないといけないしなー、シナリオは。SSもそうかもしれないけど。
 あれはどうですか?世界設定とか作るやつは。

西川:
 ありますね、最近そういうお仕事が。実は結構好きなお仕事で、面白そうな部分、面白くなりそうな要素だけ書いて、細かいところは後でどうとでもなる(どうとでもしてくれ)って気軽さがいいですね。

北川:
 無責任で居られるから?というか、託せるからと言った方がいいな。

西川:
 というのともちょっと違うかもしれません。自分の作品でもそれは同じで、こうなれば面白くなりそうだぞ、とか、こういう世界ならこういうストーリーができそうかも、とか、こういうギミックが入れられそうだな、とかだけ考えて、この段階までなら細かい矛盾とかまで気を回さなくて済む、というのが大きいのかな?

北川:
 後回し?

西川:
 もちろん、それもありますね。付け加えるなら、そこに囚われる前のまだ自由な発想とか、可能性だけで突き進んでいけるとこがいいのかもしれません。

北川:
 あーなるほど。周りとの関係とかもこれからできていくのだろうしね。

西川:
 そんなわけで、最近いくつか抱えている案件は、他の"忙しい"作業の合間の、一服の清涼剤になってたりします。

北川:
 たまに俺が西川さんにお仕事を頼む時、「箸休め的にやって」っていうんだけども、それはまるっきり的外れでもなかったのね。

西川:
 それは本当にそうですね。上手くいけば数時間、数日で終わる作業とかは、終わらせた時に一定の達成感も得られますし。

北川:
 いいね。ならばどんどん頼もう。

西川:
 とはいえ塵も積もればなので、お手柔らかにw

北川:
 箸休まらない。
 向坂さんは、考える時間と書く時間ってのがあって、その二つは平行して進められるけど、考えるのを二つとか、書くのを二つとか平行してやることはできないって言ってたな。

西川:
 それは、ほぼ同時にってことなんでしょうかね。
 楽器を弾きながらフラッシュ暗算する、みたいな本当に同時には私も絶対に無理ですけど、考えるほうはそうでもなさそうな気がしますね。例えば、一週間とか一ヶ月の間に、二つの案件について考えるとか。あ、でも一日ずつ交互にとか言われたらきついかも。

北川:
 なるほど。
 話変わるけど、作品のテーマって、書くとき決めるもの?

西川:
 あー、どうでしょう。与えられればそれを組み込みますし、企画書用にでっち上げることはありますけど。「今回はこういうテーマでいこう!」みたいなのは基本的には考えないことが多いですね。
あ、作品のコンセプト的なものではなく、シナリオのテーマですよね?「愛」とか「復讐劇」みたいな。

北川:
 そうそう。あるいは、そもそも西川さんか書く時には最初から織り込まれるものとか。あるのかな?西川さんが書けば必ずこうなるみたいな。

西川:
 あるのかもしれませんが、多分自分では意識できてないものになりそうですね。

北川:
 意識はしない? ほら、排他的にそうなるみたいなのもあるでしょ。

西川:
 こういうのは絶対にやらない、みたいなのは多分あると思いますけど、そもそも意識から除外されてるんで、もし提案されたら断るなり絶対に取り入れないことはあるかもしれません。

北川:
 そうか、自覚はしてないんだ。

西川:
 ヒロインが掠われるとかは、たぶんそれが自然にあってもおかしくないストーリーでも、やらないかなぁ、と思います。漫画とかRPGとかでは、割と定番のシチュエーションですけど。

北川:
 なんで?

西川:
 なんかすごく嫌なんですw

北川:
 なにそれw 本能的に?

西川:
 多分ですけど、自分でそれやっちゃうと、どうしても酷い方向にしか話が進まない気がするからでしょうか……。掠う目的とか、犯人の思想とかにもよりますけど、何事も無く元通りにはならないような。

北川:
 ある程度限定されちゃうからつまらんってこと?

西川:
 いやー、もっと単純に嫌なだけだと思いますw

北川:
 本能的に。

西川:
 本能的に。

北川:
 作家さんが持っている特徴とかそれこそテーマって、本人は意識できてないのかも知れなくて、気づいちゃったらダメなものなのかな。とかいま思いました。知らんけど。

西川:
 気付いても気付いてなくても、出ちゃうものという説もありそうです。

北川:
 なんとか節とかいうじゃない? 鬱な展開になった、西川節が炸裂、みたいな。ほっとくとみんな百合になっちゃうんだよ。さすが向坂さん、みたいな。

西川:
 それはわかりやすいw きっと、主人公そっちのけで女の子同士が仲良くなってしまうんですね。私が向井さんと一緒にしたお仕事は、しまりす関係がほとんどなので、主人公が女の子ばっかりですけど。

北川:
 あれよね、竹内さんがさきを書いた時も、あー竹内さんだ、って思ったもんな。無意識だろうなー、あのへんは。

西川:
 思いましたね。天才肌の努力家で、どこか抜けているところがある、みたいなのはナノカに通じるところがあって。そう考えると、自分の好みってなんだろう、というのを考えて見るのも面白そうですね。

北川:
 好みが変わったって感じることある? 西川さんも人生のベテランの域に入ってるわけでさ。
年齢的に。

西川:
 自覚している限りではないですね。髪の長さとか、昔はロングが好きだったけど今はショートが好き、みたいな細かいところはありますけど。

北川:
 外見ね。内面は?

西川:
 あー、でも完璧なヒロイン像みたいなのが自分の中で確固たるイメージになっていなくて、その時その時の、好きなヒロインとかはいるんですけど、あんまり統一性はないような? そういう意味ではコロコロ変わってるのかも? こういうキャラは好きにならないな、っていうのはずっと変わってないかもしれませんw

北川:
 ちなみにそれはどんな?

西川:
 正統派ヒロインとかはそうですね。裏表が無くて、誰にでも親切で、クラスの人気者で……みたいな。ギャルゲーでいったらメインヒロインにあたる、誰からも好かれる要素が盛りだくさんのキャラでしょうか。

北川:
 アスカ(例えが古くて)で描かれる、できる子の苦しみみたいのもあるんじゃない?

西川:
 エヴァの?

北川:
 そうそう。

西川:
 あれは正統派ヒロインですか?w

北川:
 あとおれ割と幼馴染キャラ好きなんだけど。最初から負けフラグみたいな。ちがうのかw

西川:
 幼なじみが好き、は結構王道っぽく聞こえますけど、大事なのは負けフラグのほうだったりします?

北川:
 負けが確定してるのに頑張るところがポイントかな。
 あれ?トルタ? 幼馴染っていいよね、何度も言うけど。

西川:
 トルタは私の中の正統派ではあるのかもしれません。じゃあ正統派ってなに? って言われると……嫌いな人が少ないキャラとか?

北川:
 味が一本調子なのが西川さんは嫌いなんだろうな、それを王道というのか。

西川:
 よくよく考えて見ると、欠点のないキャラが好きではないのかも……? ということは、欠点のあるキャラが好き? 不完全というか、欠けている部分があるというか。

北川:
 それは別に、描きやすいからとかではないんだよね?

西川:
 どうなんでしょう? 感覚的には完全無欠のキャラのほうが書きやすそうだとは思うんですが、魅力をあまり感じないキャラは逆に書きにくい、というのはありそう。

北川:
 ふーん。

 ……今日は本当にどうにもいいオチに辿り着かないようなので、この辺で終わりにしようかww

西川:
 おっと、気付けば結構な時間ですね。今回はただただ(正しい意味での)性癖のようなものを垂れ流してしまったようで……。

北川:
 そういう時もあるよね。

西川:
 たまにはいいかもしれませんねw



 ちょっと手もとの仕事がバタつきまして、さらっと一週間いえいえ三週間飛ばしてしましました。
 昔の私だと、一回途切れてしまうと、もうだめだってやめてしまうことが多かったのですが、歳をとって図々しくなって、しれっと再開できるようになりました。悪くないかもですね。
 とはいえ、本当にノープランで会話を始めた今回、恐ろしく内容がなく、公開を躊躇しましたが、図々しく出すこととしました。これも空気感だと思ってください。

 ゲーム屋の一大イベント、東京ゲームショウがまもなくです。工画堂も場所を借りて作品紹介をさせていただきます。私の昔からの夢の舞台。ワクワクしますね。

 今週はこの辺で。
 また次回。

※「KOGADOの冒険ワークショップ」では、ソフトウェア開発部の北川がその時思いついた事柄を駄文にしたためております。取り上げて欲しい事柄などありましたらお気軽にリクエストください。
 コメント欄、またはTwitterメンション、DM、またはユーザーサポートメールまでどうぞ。

頂いたサポートのおかげで、明日も工画堂文庫を開店できます。