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4 頂に登りし者

 生徒たちに様々な事を教えていく大勢の先生のうちの一人が先ほど退室していった女性。
 彼女はカレン・エストック。元々はこの国の騎士における称号として最高峰の名誉であると言われるシュバルトナインの一人だった。シュバルトナインというのは国内で9名の騎士が任命されており、騎士の頂点に君臨する者達の総称、呼称となっていて人々の羨望、期待を集める存在となっている。それぞれが自らの団を率いており、その9つの団のいずれかに所属出来る騎士はこの国の中で非常に高い地位の騎士である事を意味する。

 この学園の騎士たちも当然このシュバルトナインになることに憧れを抱いている者が多い。本来であればまだ騎士としてみれば若く、まだ現役でいられるはずのカレンがどうして学園にいるのかは生徒たちの間に上がる疑問の一つだった。表向きには怪我をして退役したという噂があるが、どこかを痛めているような様子、素振りなどはないように生徒達には見えている。


 シュレイドが校舎から出てしばらく歩いていくとまた趣きの違う建物が姿を現す。校舎に比べると新しさを感じる綺麗な建物だ。
 
 先ほどの校舎は古い荘厳な木材と石材を中心とした素材の建造物という印象で改修なども行わずに非常に長い期間そのままの建物。技術的に現在の建設技術では下手に手を加えられないのだそうだ。そんなに凄い物には見えないというのが生徒側の見解だが、今の学園の先生達がここの生徒だった時代からその佇まいは変わらない。寧ろどのように維持されているのか誰にも分からなかった。
 何せこの付近の建造物自体がいつからここにあるのかすら最早、誰にも分らず、資料などもほぼ残されていない。

 双校制度が生まれた際に生徒たちを集めるのに適している広大な土地という理由でこの付近一帯を学園として使うようになっていたという。

 それほどまでに歴史のある校舎だが、それだけ長い期間あったと考えるならば非常に前衛的な内装であるとはいえるだろう。沢山の人数が集まることを想定していたり、最初から騎士を育成する上で必要な環境が揃っているのだから。

 比較して彼が到着した教員棟は後から人の手で作られたであろう建物で、その外壁の塗装は白く美しかった。教員棟という言葉通りこの学園の教師たちが集まる場所。とはいえそこそこの数の生徒達もここにやってくる。

 この学園の特性上、生き残る為には生徒たちは最大限この環境を利用しなければならない。その為、教師たちに授業外での教えを乞う者も多くいる。今日のような入学直後の時期であっても、シュレイド以外の生徒の姿をまばらに見かけるのはどうにかして騎士になろうとあがいている者達が大勢いるからに他ならない。

 その空気を一身に受けながらシュレイドはカレンの元へと向かう。
 ドアをノックして部屋に入るとカレンに応接用らしき席へと案内され座る事を促された。少し気まずい空気ではあったがシュレイドは椅子に座り話しかけた。

「あ、あの」
「ん? どうした?」
「俺、何かしました、か?」
「何か?」
「え、いや、だから呼ばれたのでは?」
「お前が正式にここに入学する時にコレを渡すように言伝を受けていてな」
「え、どういうことです?」
「現在、西部学園側にいるマキシマム先生からお前にと」
「マキシマムさんが?」
「正確には、グラノ殿から預かっていたもの、らしい」

 その名前が出た途端、シュレイドの纏う空気は少なからず重くなっていく。

「……じいちゃん、から?」
「ああ。」
「そう、ですか」
 カレンは机の中から古く色褪せた手紙を丁寧に取り出してシュレイドに両手で丁寧に渡した。
「…確かに、渡したからな」
「はい…」

 教員棟からの帰り道、自由公園区画のベンチに腰掛けたシュレイドは手紙を見つめた。

 彼の祖父グラノ・テラフォールはある日、家に帰ってこなくなった。メルティナ、ミレディアと共に子供達3人だけでしばらく山奥の小屋で過ごしていた矢先、マキシマムが彼らを迎えにやって来た。詳しい事は分からなかったがグラノが何かに巻き込まれてしまったことだけは分かった。

 突然の事でこうして学園にきてしばらくの後、こうして入学したのだが今も未だ彼の心は落ち着かないままだった。カレンに渡された手紙を開けようと封蝋に手を伸ばすが、指先が震えてしまう。この手紙を見てしまったら、わずかな希望が消えてしまう気がした。祖父がまだどこかで必ず生きていると信じている自分の希望が潰えてしまうような気がしてしまったからだ。

 知りたいという気持ちと知りたくないという気持ち。中に何が書かれているのか?自分に残した言葉とはなんなのか?

 けれど、別れの言葉への恐怖から開けることがどうしても出来なかった。書いてなければ、まだ信じられる。生きていると信じてもいいと、思える。

「……っっ。」

シュレイドは制服のポケットに無造作に手紙をしまい込んで、ベンチからゆっくりと立ち上がり自由公園区画を後にした。


続く

作:新野創
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