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立憲民主党、国民民主党はなぜ政党略称をともに「民主党」にしたのかに関する邪推

前回の衆議院議員総選挙でも「民主党」を略称にしていた立憲民主党

 今回の衆議院議員総選挙で注目されたのは、比例代表に記載する政党名について立憲民主党と国民民主党がともに「民主党」にしたことでした。
 この経緯について触れておきます。平成29年の衆議院議員総選挙で民進党が希望の党と立憲民主党に分裂しました。この時の選挙広報には立憲民主党の略称が「民主党」と記載されています。

 令和元年に参議院議員通常選挙が施行されましたが、この時に立憲民主党と国民民主党が揃って政党として国政選挙に臨むことになりました。この時の略称は立憲民主党が「りっけん」、国民民主党が「民主党」となっていました。

 そして、今回の衆議院議員総選挙では、毎日新聞の記事や選挙公報などでご存知のとおり、立憲民主党と国民民主党がともに「民主党」を略称とすることになったわけです。

 全国で400万票もの票が「案分票」となっていたら、公正な選挙と言えるだろうか――。10月31日に投開票された衆院選の比例代表で、立憲民主党と国民民主党がそろって略称を「民主党」として届け出たため、得票の割合に応じて票を振り分ける「案分票」が大量に生じた可能性がある。静岡県の場合、静岡市葵区で7955票もの案分票が発生。有権者の「1票」にかけた思いが正しく反映されなかったといえる。【石川宏】
 両党は公職選挙法に基づき、略称をともに「民主党」として中央選挙管理会に届け出た。中央選挙管理会は政党の略称について異議をとなえることができず、そのまま受理した。結果的に全国で膨大な案分票が出た。

 そして、今回の衆議院議員総選挙では、毎日新聞の記事や選挙公報などでご存知のとおり、立憲民主党と国民民主党がともに「民主党」を略称とすることになったわけです。

「民主党」を略称とする政党がない場合はどうなるか

 「民主党」を略称とする政党がない場合、「民主党」と記載された票がどのように扱われるのでしょうか。
 「民主党」が含まれる政党は4政党あります。設立順に自由民主党、社会民主党、立憲民主党、国民民主党です。選挙においては、どの政党に投票したか明らかではない票についても無効とせずに有効票として取り扱うこととなっています。したがって、「民主党」と記載された票はこの4政党の按分となります。按分とは政党の得票数に比例して票を振り分けるわけです。仮に、

自由民主党が40票
立憲民主党が40票
国民民主党が15票
社会民主党が5票

獲得していたとすれば、「民主党」と記載された票は、

自由民主党に0.4票
立憲民主党に0.4票
国民民主党に0.15票
社会民主党に0.05票

の割合で得票することになります。

なぜ立憲民主党は「りっけん」から「民主党」に略称を変更しようとしたのか

 前回の衆議院議員総選挙で立憲民主党は略称を「民主党」とし、次の国政選挙である参議院議員通常選挙で「りっけん」としました。これは、参議院議員通常選挙時点において、旧民主党の法人格を国民民主党が受け継いでいたことが理由であると思いますが、参議院議員通常選挙選挙の比例代表における政党名の重さも影響しているのではないかと考えています。
 参議院議員通常選挙では政党名で投票することもできますが、比例代表に立候補した候補者名で投票することもできます。そして、候補者名での得票順に当選者が決まっていきます。つまり、政党名で投票しなければならない衆議院議員総選挙での比例代表とは政党名の重さが違うのです。
 そして、令和2年に国民民主党は立憲民主党と合流するために解党し、旧民主党の法人格を受け継ぐ政党は存在しなくなりました。そのため、国民民主党のみが「民主党」を略称とすることを認める理由がなくなり、立憲民主党が「民主党」票を狙うことにしたと考えることができます。

「民主党」というブランド

 なぜ立憲民主党が「民主党」にこだわるのでしょうか。民主党は平成21年の衆議院議員総選挙で政権交代を成し遂げ、国民新党、社会民主党とともに連立して政権を担いました。その連立政権が鳩山由紀夫内閣、菅直人内閣といずれも短命の内閣を経て野田佳彦内閣で衆議院を解散して政権を失ったのはご存知のとおりですが、短期であったとしても政権を獲得したのは大きな成功体験であると考えていても不思議ではありません。私は「民主党」は現在の立憲民主党にとって成功体験とともにブランドになっているのではないかと考えています。つまり、略称を「民主党」とすることは立憲民主党の悲願だったのではないのでしょうか。
 実利として「民主党」と記載された票を自由民主党や社会民主党に按分させない、ブランドである「民主党」を保有したいという意識が、国民民主党の合流による解党により旧民主党を法的に受け継ぐ政党が無くなったことと相まって、立憲民主党が略称を「民主党」とするになったのではないかと私は思うのです。