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選挙を知らないとしか思えない選挙ウォッチャーちだいこと石渡智大さんのトンデモ静岡県知事選挙分析

選挙ウォッチャーちだいこと石渡智大さんの選挙分析に腰が砕ける

 選挙分析について、プロの選挙参謀も読むべきだとする有料noteを販売している元放送作家の選挙ウォッチャーちだいこと石渡智大さんが静岡県知事選挙について新たな記事を発表しています。

今回、静岡県知事選に立候補した岩井茂樹さんは、もともと2016年当選組の参議院議員だったため、2022年には参院選を控えていました。なので、この選挙で落選しても、1年後に行われる参院選の宣伝になると考えられるため、特に大きなダメージはありませんでした。もともと静岡県選挙区は自民・旧民主で2議席を分け合っており、その他に立候補してくるのは共産党ぐらいしかないことから、実質的に無投票当選に近い選挙区となっています。おそらく2022年の参院選は岩井茂樹さんが立候補することで決まっているでしょうから、ダメ元で立候補しても、向こう6年間の議員生活が約束されているようなもの。

 正直、この記事を読んだときに私は腰が砕け、「この方の肩書きは確か『選挙ウォッチャー』だったよな」と改めてアカウントを確認しに行ったほどの衝撃を受けました。なぜならば、選挙の仕組みについてまったく理解していないど素人の発言そのものだからです。

岩井茂樹さんはどのような過程を経て参議院議員となったのか

 選挙ウォッチャーちだいこと石渡智大さんは、岩井茂樹さんの参議院議員の任期が残り少なく、次の参議院議員選挙に立候補して参議院議員として復活するという独自の分析を披露していますが、それが可能かどうかはまさに岩井茂樹さんの経歴でわかります。
 石川寿延静岡県知事が開港を直前に控えた富士山静岡空港の用地取得問題の責任を取る形で静岡県知事を辞任し、2009年7月5日に静岡県知事選挙が行われました。この選挙に立候補したのは、民主党などが支援する静岡文化芸術大学学長の川勝平太さん、参議院議員の坂本由紀子さん、元参議院議員の海野徹さんでした。そして、結果は、民主党系候補が二人立候補したにもかかわらず、川勝平太さんが当選して静岡県知事となりました。
 そして、その年の10月の第4日曜日である10月25日に参議院議員補欠選挙が行われ、民主党から医師でラジオ番組のパーソナリティなども務めている土田博和さんと自由民主党から今回の静岡知事選挙に立候補した岩井茂樹さんが立候補しました。政権交代した民主党の勢いをかって土田博和さんが当選し、民主党の静岡県選挙区の参議院議員は合計3人となりました。
 その後に行われた参議院議員通常選挙に岩井茂樹さんは自由民主党の公認候補として立候補、当選して参議院議員となり、2期目任期途中に参議院議員を辞職し、静岡県知事選挙に立候補して落選しました。

参議院議員を辞任して静岡県知事選挙に立候補した坂本由紀子さんのその後

 岩井茂樹さんのその後を読み解くためには、2009年7月5日施行の静岡県知事選挙に立候補した坂本由紀子さんのその後を見るとよいでしょう。
 坂本由紀子さんは元厚生労働省のキャリアで静岡県に出向して副知事を務め、参議院議員として政治も経験した政治家でしたが、自由民主党県連の要請を受ける形で参議院議員を辞任して静岡県知事選挙に立候補しました。前述のとおり民主党の推薦を受けた川勝平太さんと海野徹さんという形で民主党系の複数立候補という選挙戦になりましたが、そのような状況下でも民主党に傾いた世論の動きに勝つことはできず落選となりました。
 その後、衆議院議員総選挙を経て民主党を中心とする連立政権が与党となり、その期待感が高まる中、参議院議員補欠選挙が行われます。この補欠選挙に坂本由紀子さんが立候補することはありませんでした。普通に考えて、坂本由紀子さんが参議院議員を辞任したから行われることになった補欠選挙に、辞任した本人である坂本由紀子さんが立候補するのは筋としておかしいと考えるのは当然の思考だと思います。
 そして、その補欠選挙に立候補した岩井茂樹さんが落選しても坂本由紀子さんに参議院議員静岡県選挙区に立候補する機会が回ってくることはありませんでした。なぜならば、補欠選挙で公認するということは、次の通常選挙での立候補と公認を見込んだものであるからです。そして、静岡県知事選挙に立候補した時点で政治家としてまだ若いともいえる60歳だった坂本由紀子さんの名を静岡県知事選挙以降の選挙の候補者として耳にする機会はまったくありませんでした。

補欠選挙が総選挙や通常選挙につながる例とそうではない例

 視点を変えて、衆議院議員の補欠選挙の場合はどうでしょうか。補欠選挙でしばしば見られるのは、小選挙区で落選して比例代表で当選した衆議院議員が辞任して補欠選挙に立候補する事例です。これもまた、補欠選挙での立候補が次期総選挙での小選挙区からの立候補と党の公認につながることがわかっているからだと言えます。衆議院議員総選挙が小選挙区であり、別の者が補欠選挙に立候補して当選した場合、現職重視という方針のもと丹念に支持を集めてきた選挙区を離れるか、無所属でその選挙区で分裂選挙をたたかうかという選択を迫られますし、仮に別の候補が落選したとしても、補欠選挙で党として当選が期待できる候補として考えている重複立候補での比例代表選出議員が立候補をしなかったことが党や党の都道府県連によるその候補者の評価の下落や有権者に「補欠選挙から逃げた」と受け取られるおそれがあることから考えると、比例代表選出議員が党の公認を得て小選挙区から立候補するのは難しいと思います。
 参議院議員補欠選挙に立候補した候補が次の通常選挙に選挙区から立候補することができなかったのは、同じ静岡県選挙区での土田博和さんです。静岡県選挙区は定数が2で、次のとおり自由民主党の候補と民主党の候補が1議席ずつ確保する選挙区となっていました。

2007年選出
榛葉賀津也(民主党)
牧野京夫(自由民主党)

2004年選出
坂本由紀子(自由民主党)
藤本祐司(民主党)

 2010年の参議院議員通常選挙で民主党が2議席独占を目指して選挙戦をたたかうにはリスクが高いと判断した結果、土田博和さんが比例代表に回るということになりましたが、これは自由民主党の参議院議員が辞職したことによる補欠選挙に民主党の候補が当選したという結果からもたらされたもので、仮に民主党の参議院議員の辞職により施行された補欠選挙であったなら土田博和さんは参議院議員通常選挙で静岡県選挙区の公認候補となっていたはずです。
 いずれにしても、岩井茂樹さんが参議院議員補欠選挙に立候補しないことには次の参議院議員通常選挙に静岡県選挙区の公認候補となることは難しく、岩井茂樹さん自身が辞職したことで施行される参議院議員補欠選挙に岩井茂樹さん自身が立候補するためには道義的な問題が非常に大きく、ハードルが非常に高いと言えそうです。

選挙ウォッチャーちだいこと石渡智大さんはなぜ間違えるのか

 選挙ウォッチャーちだいこと石渡智大さんは、静岡県知事選挙に立候補した坂本由紀子さんの事例や、今回の静岡県知事選挙の候補者である岩井茂樹さんの経歴を普通に調べれば、岩井茂樹さんが立候補することが道義的に難しい参議院議員補欠選挙が今年の10月の第4日曜日に行われることが想定でき、その補欠選挙に立候補しないことが次期参議院議員通常選挙にその選挙区から公認候補として立候補することができないことにつながることがわかるはずです。
 ひょっとして、選挙ウォッチャーちだいこと石渡智大さんは、参議院議員補欠選挙が行われることを想定していなかったのでしょうか。そうであるなら、選挙ウォッチャーという自ら名乗る形容詞は虚偽広告のようなものだということになってしまうでしょう。そして、その程度の知識でよく人様からお金をいただいて選挙について語ることができるものだと私はある意味感心することになるでしょう。