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ビジョンデザインにおけるワークショップの心得 ー 共創プロジェクト「豊かな町のはじめかた」(4)

こんにちは。KOELのUXデザイナー廣瀬です。本noteは2022年度に実施したビジョンデザインの取り組み「豊かな町のはじめかた」についての記事第4弾です。前回のnoteでは、フィールドワークで実際にお話を伺った五城目と小浜の皆さまや、ワークショップの様子についてご紹介しました。

ワークショップでは、多様な観点を持つ参加者同士が対話することで、お題に対して新しい意味や価値を創造することを目指し、フィードワークの参加者全員で、リサーチ結果から豊かさの要素を抽出しています。今回の記事ではワークショップを有意義なものにするための4つの心得について、実施したワークショップ内容と共にご紹介します。


心得その1:参加者が脱落せず思考を深められるようにする

テーマに対する共通認識と思考の土壌を作ること、それからワークの難易度は段階的にあげていくこと。これによって参加者はスムーズに深い思考に辿り着けます。
今回のプロジェクトの参加者は半数以上が学生の方でした。学科も、テーマへの興味も、フィールドワークやワークショップの経験も人によって様々。そこでテーマの考え方やフィールドでの着眼点について、共通認識を持ったうえでワークショップに臨めるように、事前課題を配布しました。

事前課題で設定したお題は「自分の町の『豊かさ』を感じるお気に入りスポットTOP5」です。今回のワークショップの目的は、「小浜・五城目が持つ、お金じゃない豊かさとは何かを知る」ことですが、まず自分と関わりの深い町の「お金じゃない豊かさ」を探すことで、小浜・五城目特有の「豊かさ」を見つけやすくなったり、比較ができるようになるはずです。そのために、自分にとって一番身近な地域と豊かさの関係性から考えてみることから始めました。

私自身も事前課題をやってみることで、自分にとっての“町の豊かさ”に気づくことができました。何気なくよく立ち寄る場所を5つ選んで書いてみると、友人と過ごす公園のベンチや、行けば誰かしら知り合いに会えるライブハウスなど、“人との関係を築いている場所”を選んでいることに気がつきました。
他の参加者も、自分にとっての身近な場所に「歴史的な背景を持っている」「必ず子どもと訪れる」など個人的な価値観や、自分の暮らしと繋がった特別な感情を持っていることに気がつき、各々が感じる”町の豊かさ”に一歩近づけたように思います。

ビジョンデザインの分析は、得られた情報の解釈と抽象化を行う、非常に難易度の高いワークです。参加者全員が脱落せず議論についていけるように、最初はファクト(=フィールドワークで得られた事実)の整理から始まり、徐々にワークの難易度を高めていくようにプログラムを設計しました。

いきなり最初から「お金じゃない豊かさとは?」と問いをたてると抽象度が高く難しいため、まず最初に豊かさを感じたポイントを地図記号として描き出すことにしました。ここで地図記号を描くことを通じ、その地域の人々が守ってきた知恵や文化・山水などの自然資源のような、具体的に町や場所と抽象的な豊かさの概念を紐づけて考えられるようになることを意図しています。抽象的な問いをいかに具体を交えて考えられるようにするかを考えるのがビジョンデザインのワークショップを構成するためのポイントとなります。

心得その2:ワークに集中できる、迷わせない工夫

参加者はメインファシリテーターの話を一回聞いて、何をやるべきか100%理解できるわけではありません。特に、ワークショップの後半では取り組むことの難易度が高くなり「で、何をしたらいいんだっけ…?」と困惑しまうこともあります。
そこでプログラム設計時に、参加者が「今は何をする時間か」を明確に認識できるようにしておく必要があります。今回はそのなかでも気をつけた3点を紹介します。

(1) 問いへの道順をわかりやすくする

メインファシリテーターがいなくても、参加者が何をするべきか常に確認できるようにする工夫が必要です。今回は、考えるべきタスクと到達すべき具体的ゴールを明示するため、ワークシートという形でアウトプットのフォーマットを提示しました。参加者は「ワークシートを埋めていけばゴールに到達できそうだ」と理解できます。

(2) 集中するべきタイミングをわかりやすくする

参加者の集中力には限りがあり、常に全力で思考し続けることは困難です。適切なタイミングで休憩を用意するのはもちろんですが、プログラムの中でも緩急をつけることを心がけています。
今回は時間の割り振り方でワークの重みを意識してもらいました。深く考えてほしいところはしっかり時間を取り、さらっとまとめるところは短めの時間にして、プログラムにメリハリがつくように工夫しました。

(3) 使うツールをわかりやすくする

意外と見過ごしがちなのが、付箋や筆記用具などのワークショップで使うツール類です。「考えを書いてください」という指示だけでは「何に書けばいいの?どの色を使えばいいの?書いたものをどこに置けばいいの?」と、参加者を迷わせてしまいます。そこで各ワークでは使うツールを具体的に指示します。
例えば、今回のプログラムの一つである「フィールドワークの振り返り」では、どの色の付箋紙に、何を書くか事前に決めておくようにしました。

青:フィールドを観察して得た事実
赤:インタビューで聞いた事実
黄:自分が気づいた豊かさポイント

こうすることでワーク中に迷わないだけでなく、後でアウトプットを見返したとき、色を見ただけで内容を理解できるようになります。また、別のグループのアウトプットを見た時にも、共通のツールを使っているためすぐに内容を理解できます。

心得その3:欲しい粒度と深さのアウトプットが出せるか検証しておく

プログラムを作成したら、必ず事前に一度テストします。ワークショップの参加者に近しい人たちを集めてテストできるとベストですが、集められない場合には、自分たちで最初から最後までプログラムを実施します。テスト時は、以下の内容をメインにチェックします。

・問いははわかりやすく伝えられているか
・ワークシートは実践しやすいレイアウトになっているか
・各タスクのボリュームと時間配分は適切か
・想定していた粒度と深さを持ったアウトプットが導き出されるか

心得その4:議論を深め、進め、アウトプットまで導くファシリテーションをする

当然ですがワークショップはプログラムを設計したら終わりではなく、当日のファシリテーションがあってはじめて成り立ちます。今回のワークショップでは、KOELメンバーはプレイヤーとして学生と一緒にグループワークを行うだけでなく、テーブルファシリテーターとしての役目も果たしています。ワークショップを成功させるため、以下の4つの点を意識してファシリテーションを実施しました。

(1) 議論を深める問いを投げかける

1つのトピックに関して議論していると、バズワードやふわっとした表現でなんとなく「そうだよね」と合意形成され、議論が深まらないことがあります。そこでファリシテーターは「それは具体的にはどういうことですか?」「この町のどこがそうだと思いました?」「もう少し詳しく教えてください」などと問いを投げかけ、具体化と詳細化を進めることで議論を深めます。

(2) 議論の方向性のズレを修正する

ワークの本筋ではないポイントに議論が集中してしまったり、誰かの偏った意見に引っ張られたりする場合があります。その際は、この時間で論じるべき問いに議論を戻すようにファシリテーションします。

(3) 時間内に必ずアウトプットを出す

想定していた粒度と深さを持ったアウトプットを出せなければ、ワークショップの目的を果たせていないことになってしまいます。そのため、ファシリテーターは議論の発散を促すだけでなく、時間を見ながら議論を収束するように促す役目も担います。また、議論が白熱すると参加者はワークの手を止めがちなので、繰り返し「その意見、ぜひ付箋紙に書きましょう」などとリマインドし、常にアウトプットを意識してもらうようにすることも重要です。

(4) 楽しい雰囲気にする

自由にどんなことでも話して良い雰囲気がないと活発な議論は生まれません。そのため、常に笑顔でいることで受容を示すのもファシリテーターの仕事です。今回のワークショップでは大人に混じって学生の方にも参加していただいていたので、気後れしてしまわないよう楽しい雰囲気になるよう配慮しました。

最後に

今回はワークショップの心得について、小浜・五城目での実践をもとにご紹介しました。これからワークショップの組み立てやファシリテーションに挑戦する方や、ワークショップを実践してきた方の新たな発見や共感に繋がれば幸いです。
第5弾となる最終回は、小浜町に実際に赴いてのフィールドワークについてご紹介します。お楽しみに!


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