バリウム検査のこと

今年も人間ドックシーズン(勤務先と私の)がやってきた。
人間ドッグで思い出すのは、人生最初に受けたバリウムの検査のことだ。

あの発泡ウレタンのようなバリウムと呼ばれる謎の味と謎の香りがする溶剤を飲みこんで、腹の中でプチプチプチプチ何かが膨張していく感じを味わいながら「あー、今、私の胃が発泡ウレタンで型取りされてるわー」とか考えつつ「こちらに」と案内された台の上に仰向けで寝そべった。

言われているほど、バリウムは悪くはなかった。案外自分はバリウム検査向きかもしれないなんて思いながら台の上で静止していると、突然私に指示が与えられた。
 
 
「回ってください。」
 
 
回る?
どのように?
バリウム検査初心者の私にはまったく勝手がわからない。

あまりにも動きが見られないのに焦れたのか、最初よりも大きな声で
「回ってください!」
と指示された。

いやいやいや、まてまてまて。
回るって、色々ありますよね?
わかんねーし。
私は意を決して話しかけてみることにした。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ。

バリウム回転軸

脳内で考えるにX軸方向ではないのはなんとなく予想されるので
「あ、あの、Y軸方向でしょうか、Z軸方向でしょうか?」
と恐る恐る口にしてみた。

すると、相手は無言になり
「………え?右でも左でもどっちでもいいですよ?」
と返してきた。

「あ、すみません、回転軸をお聞きしたんですが。」
「あー……。」

そしてしばしの室内無音の後、言われたのは
「いえ、X軸です」
だった。

マジか。
X軸か。

この固い台の上ででんぐり返ししろってか。

みんながバリウム検査大変っていうのはここの事だったか!!!

確かに謎の液体外の中でプチプチはぜてる状況で固い台の上で前転というのはつらい。吐き気もするだろう。なんとハードな検査なんだ。

というか前転できない人はどうすればいいんだろう。小学校の体育は出来ないながらに切り抜けてきた人が、人間ドックを受けるような年令になって突如立ちはだかる壁。そんなこと誰も教えてくれなかった。これが大人になるってことかとか思わないんだろうか、とか考えつつ前転をすべく上半身をおもむろに起こして、正座し……たあたりで
「すみません、ちがいますちがいますちがいます!そっちじゃないです!」
と叫ばれた。
 
 
でしょうね。
おかしいと思ってましたよ。
明らかにおかしいと思ってました。
ええ思ってました。
思ってましたとも。
 
 
その後無事にY軸方向の回転で検査は終了し、しかし無駄に色々動いた関係で、胃が異様にムカムカするのだった。

という話を人にすると「そんなことは間違わない」と誰しもが言うのだが、もし万が一今年人生初バリウム検査を受診する方がいらっしゃるなら、参考にしていただきたい。

回転軸は、Y軸だ。
大事なことなので二回言う。
回転軸は、Y軸だ。

※こちらの文章は2014年当時別サイトでアップしたものを移植したものです

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