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途上国で見た理科授業の様子

こんにちは。理科教育Advent Calendar 2020の24日目の記事です。
この記事では主に途上国で行われている理科の授業を紹介しています。記事の内容としては(1)世界的な国際教育協力の流れ(2)途上国の理科教育改善を目指した日本の研究の簡単な紹介(3)実際の途上国で行われている理科授業の様子や感じたことなどについて書きました。途上国と呼ばれる国での理科授業について、ざっくりとしたイメージを持って頂けたら嬉しいです。

はじめに

はじめまして。自分は主に途上国の理科教育を研究の対象としている、とある大学院生です。自分がこの分野に興味を持ったのは大学4年生の時にまだ卒業したくないという謎の気持ちから、休学してアフリカのウガンダという国の小学校で理科を教えたことがきっかけです。現在では主にザンビアの理科教育を対象としており、昨年の12月からデータ収集も兼ねて青年海外協力隊という制度を利用し、ザンビアの中等学校で主に生物を教えていました。しかし、新型コロナウイルスの影響で当初の予定を短縮し3月末に帰国してしまいました。(デ、データorz)

また、今回はいつも色々と興味深い記事を読ませて頂いている理科教育カレンダーが1つ空いていたため、途上国の学校現場で行われている理科の授業について、自分が見たり感じたりしたことを共有できればと思い、投稿させて頂きました。

 国際教育協力の大まかな流れ(ざっくりとした歴史の流れですので、興味のない方は読み飛ばされてください)

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国際的な教育協力の流れは戦後1948年の世界人権宣言で「教育は基本的人権の1つ」と明記されたことから大きく進み、特に初等教育の重要性について注目されるようになりました。そこから、1976年には世界雇用会議の中で「基礎的な教育はベーシックヒューマンニーズ(人間生活にとって最低限かつ基本的に必要とされるもの)」と位置付けられ、改めて教育の重要性が認識されました。しかし、1980年代には途上国の多くが債務危機に直面し、教育予算が大きく削減されたことから、「失われた10年」と呼ばれる程、教育の質の低下がもたらされました。

「失われた10年」を経て、世界に多くの就学していない子どもや非識字の成人がいた事から1990年に行われた、万人のための教育世界会議の中で、「すべての子ども、青年、成人の基本的な学習ニーズを満たす(Education For All)」という宣言がなされました。教育に関しては、「2000年までに初等教育の完全普及を目指す」という目標の下、特に途上国における教育へのアクセス改善に焦点を当てられました。

 目標の達成年度である2000年には途上国全体の初等教育就学率が83%、成人の識字率も85%(女性は74%)と大きく改善されたことが成果としてあげられました。しかし、依然として多くの就学していない子どもや、お金の問題で就学できない子どもがいた事、教育の質が担保されていないなどの問題から、2000年の世界教育フォーラムではミレニアム開発目標(MDGs)として、「2015年までに全ての子ども達が質の高い無償の義務教育にアクセスする」という目標が掲げられ、特に途上国における教育のアクセス改善と無償化、教育の質の改善に焦点が当てられました。

MDGsの成果として、2015年には初等教育の就学率は91%まで達し、極度の貧困も大幅に減少しました。そこで、2015年の国連サミットでは、これまでは主に途上国のみが対象であった目標を先進国まで含めたものに拡張した持続可能な開発目標(SDGs)が採択されました。教育に関しては「2030年までにすべての人に公平で包括的で質が高い教育と生涯学習を保障する」目標が掲げられ、現在ではその目標の達成に向けて国際社会が一丸となって動いているところです。

アフリカの理科教育改善に関する日本の研究紹介

ここではアフリカに注目しますが、日本でも途上国の理科教育の改善に関する研究がいくつかなされています。その内容を見ると、実験器具の開発(松原, 2009)や理科と数学の関連付け(高阪, 2015)などの学習指導に関するものから、教師研修(畑中, 2010)や授業分析(加藤, 2017,2018)、授業研究(中里, 2017)などの教師に関するもの、国際教育協力の動向を整理したもの(高阪&松原, 2018)などがなされていました。他国がその国の教育に対して、介入し過ぎるのはいかがなものかなどの批判があったりもしますが、個人的には日本の研究者と途上国の研究者が共同で研究に取り組み、教育改善を図ることが出来たらいいなあと思っています。

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ウガンダの学校でのお話

・学校の簡単な説明
 ウガンダでお世話になった学校は首都近郊の孤児院が併設されている私立小学校で、給食費を払えるかギリギリくらいの子ども達が主に通学していました。自分は小学校4〜6年生を対象に理科の授業を担当していました。

・現地の理科授業の様子
 この学校での理科の授業は、主に教師が教科書の内容を黒板に書き、それを子ども達がノートに書き留めるというものでした。現地の先生と理科の授業についてお話すると、「子ども達は教科書を持っていないから、まずは子ども達自身の教科書を作ってあげることが大切。実験もしてあげたいが、時間的な余裕と設備が無いから難しい」という事を聞きました。また、実際に子ども達にこれまでの授業について聞いてみても、今まで理科の授業で実験や観察をした経験は無いという事を教えてくれました。

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ただ、そんな経験のない子ども達ですが、農業についての知識についてはとても豊富で、色々なことを教えてもらいました。なぜこんなに色々知っているのかと聞くと、その理由には理科(Integrated Science)とは異なる科目のAgricultural Scienceという授業の中で種蒔きから栽培、収穫、販売を行ったからだと教えてくれました。

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・思ったことや感じたこと
理科の授業の中では実験・観察の経験の無い子ども達ですが、実験そのものには興味がある様子で電池と電線と電球を拾ってきて回路を作ったり、モーターと針金と電池を使ってプロペラのようなものを作って遊んでいる子ども達の様子も見られました。また、実施した授業の中で、昆虫の体のつくりの学習のために観察・スケッチを行った際に、子ども達が興味津々で夢中になって取り組んでいる姿はとても印象的でした。

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 ダラダラと書きなぐってしまいましたが、総じて理科の目標として求められている能力(科学的思考力の育成や日常生活で生かそうとする態度など)と実際の授業の中で育もうとしている能力(何を育もうとしたいのか、については直接お話できませんでした…)にはかなりの差があるように感じました。また、もし仮に実験や観察を行うための設備が十分に整っている環境で教えられた場合、果たして現地の先生は実験や観察を取り入れた授業をするか?という疑問や、そもそも理科における実験や観察の意義を先生はどのように認識しているのか?という先生達の考えについても、見る必要があると考えさせられました。

ザンビアの学校でのお話

・学校の簡単な説明
ザンビアでお世話になった学校は首都から車で6時間ほど離れた、全国でも有数の進学校で中学1年生から高校3年生までの生徒が在籍している男子中等学校でした。本校は日本でのSSH校のようにSTEM校として理数教育推進拠点校の一つとして指定されており、実験器具や試薬なども割と整っていました。また、先生の中には教師教育研修の一環として来日されたことがある方もおり、「札幌、とても寒いネ」と日本語で語ってくれました。自分は高校1〜2年生を対象に生物の授業を担当していました。

・現地の理科授業の様子
この学校での理科の授業はグループでの学習を重視するというスタンスで行われており、基本的には実験などを基に授業がなされるというものでした。

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現地の先生方と理科の授業についてお話すると、「この学校は環境が非常に整っているから実験を取り入れやすいが、他の学校では1クラスに50人も生徒がいる学校もある。そのような学校ではどのように実験を行えばよいか教えてほしい。」という声や「教科書を見ても教えることが多すぎて、実験をしていたら授業範囲が終わらない。どのようなバランスで取り組めばいいのか教えてほしい」という声もありました。また、生徒達に理科の授業について聞いてみると、「この学校に来て初めて授業で実験をした。理科が楽しいと思った」「将来、エンジニアになるために理科を頑張りたい」など、理科授業に対して肯定的な印象を受けました。

・思ったことや感じたこと
この学校は2019年より理数教育推進拠点校の一つに指定され、教員研修を通じて実験や観察を基にした授業づくりが試みられていました。ただ、教師にとってはこれまで習ってきた知識注入型の授業とは異なる授業を行うように促されているため、よい授業とは何かイメージが持てないという先生や、新しい授業の方法や実験の取り扱い方(実験の前段階での予想や仮説をどう立てさせるか?結果や考察をどのように取り扱えばよいか?など)について、戸惑いを覚えている先生も見られました。

これまでの教授法とは異なる教授法を受け入れ、実践することは容易ではないと思われ、もしかすると以前の教授法に戻ってしまう可能性も考えられます。そのような状況においても新しい教授法を受け入れ、実践するためにはどのようなアプローチが良いのか、今の自分ではしっくりくる考えがありません。。(継続的な授業研究などがこのような改善に効果的であったりするのでしょうか?実際に学校現場で働かれている先生方にもお伺いしてみたいです。)

一方、生徒にとってはやはり理科の実験はとても新鮮なようで、教師の指示が聞こえなくなる程、集中して取り組む様子を見せていました。理科に携わる自分としては理科に熱中する生徒の姿を見て、とても嬉しく感じました。

おわりに

自分は途上国の数ある学校の中でたった2つの学校しか見ていないため、非常に限られた中での話となってしまいますが、途上国の理科授業においては、設備や制度の面など普及が進んでいない部分もあり、教授法などを含め解決すべき課題が多くありました。このように課題は多くありますが、例えば、ザンビアでは日本の理科教科書を基に教員研修を行い、授業改善に生かそうとしていたり、2019年よりカリキュラムを改訂して「STEM」という言葉と共に大きく理科教育を変化させようとする動きが見られました。

今後、時間はかかるかもしれませんが、途上国の理科教育がどのように変わっていくのか、非常に興味深いです。そして、より多くの途上国の子どもが理科の楽しさに気付く事が出来るような途上国の理科教育改善に関わっていけたらと思っています。

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