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ハヴ・ア・グレート・サマー・ヴァケイション

真昼だというのに、その峠道を走る車は無かった。皆無だった。・・・先ほどまでは。
峠に轟音が響き、羽を休めていた鳥たちが一斉に飛び去ってゆく。一台のオプティマスめいたキャブオーバー型牽引車が唸りをあげ、いくつもの殺人カーブを猛スピードでクリアしてゆく。そのたびに黒塗りの防弾コンテナが左へ、右へと揺られ軋む。

----コンテナ内部----

「なあ、楽しい旅行、って言ってたよな?」
覆面マッチョのH・Mが誰に対してでもなく口を開くと、汗だくのR・Vが「ああ」と頷いた。汗を吸って重くなったフェイスタオルを雑巾のように絞り、首に巻きなおす。
「俺も・・・そう聞いていたんだがな」
「ムムぅ・・・」
太い腕を組んで唸るH・M。その覆面の色は本来ホワイトのはずだが、赤色照明の光だけが頼りのコンテナ内では何もかもが赤く染まって見える。
コンテナ左右に溶接された鉄製ベンチに座るパルプスリンガーズは総勢11名。その多くが拷問に耐えるかのような表情でうつむいている。

「そしたらさぁ・・・」
女性の声。R・Vは、斜め前に座る彼女に視線を向けた。
「普通はこう、でっかいバスとか借りて。UNOとかやりながらワイワイ移動してさ、500円で厳選したおやつなんかも交換しちゃったり・・・しないのかい?」
グリーンのツナギを腰までおろし、タンクトップ1枚になったS・Rがボヤいた。いつもの豪快姉御トーンは影を潜め、今は干からびる寸前のカエルのように弱っている。

「旅行とか遠足っていうより、派兵だよね、これ」
ミリタリーカジュアルな装いの6・Dが続いた。相棒のドローンが頭上から風を送っているものの、所詮は熱風。彼のラクーンめいた頭髪はジムで汗を流しているかのように濡れている。

「もう無理よ・・・干上がっちゃうわ・・・」
M・Hが両手をパタパタさせて顔を扇ぐ。白衣がトレードマークの海洋学者だが、今日は白Tシャツにガーゼパンツ、青みがかった長い黒髪はアップスタイルという夏らしい姿で参加していた。

「俺だって・・・UNOとかやりたかったのだ・・・」
R・Vがボソリと呟き、全員を見回す。皆一様に顎から汗を滴らせ、無言でうな垂れている・・・かと思えばそうでもなかった。

修験装束に身を包んだS・Gは汗ひとつかかず、まるで眠っているかのように
目を閉じている。
(ワオ、さすが修験者・・・)
感心するR・Vには見えていなかった。彼の両拳に刻まれた「心頭滅却」の四字熟語が。S・Gはジュクゴマスターであり、任意の言葉を力に変える能力を持つ。出発前に刻んでおいたものだ。ズルに近い。

豊かな黒髪を三つ編みにした男・・・M・Tも、涼し気な顔で歴史書に目を通していた。この蒸し風呂において丸眼鏡が一片も曇っていない。
(ワオ、さすがクールガイ・・・どこ製の曇り止めだろう)
感心するR・Vは暑さに思考がやられて失念していた。M・Tは魔術の使い手である。ハード・サウナ程度の熱をレジストすることなど、息を吸って吐く行為と同じくらい容易いものだった。ただし効果は自分にしか及ばない。これもズルに近い。

いつも通り清朝末期風の衣装を着込んだA・Kは、つい先日体験した厳しい戦闘による疲れがまだ残っているらしく・・・横になって爆睡していた。この暑さの中で寝られる男がいるとは、と驚嘆するR・Vだったが、時折「コーンが」とうなされていた。同じ戦いに身を投じた仲間として理解できなくもない。

残る3名は全滅だった。
真夏であっても執事風の装いを解かないS・Cは「水分を・・・」とアツアツの紅茶を啜っていたが、それが祟ったのか、急カーブで舌をやけどしたのか、今はもう動かない。

いつも質のよいスーツを着こなしているT・Dは、さすがにジャケットを脱いでいる。夏旅らしく鍔付きの上品なハットを被っている。・・・が、ベストを脱がなかったせいで熱がこもり、グロッキー状態だ。

バー・メキシコを出てしばらくは「ゴーゴー!」などと元気ハツラツだったD・Aも、「この箱は・・・素材が特殊だ・・・構造とあわせて分析すれば暑さの対処法が・・・」と懸命に端末を操作していたが、熱と湿気で端末がショートしたタイミングで本人も力尽きたらしく、一言も発しない。

D・Aが興味を示した巨大な箱・・・いや、全員が興味を示したソレは、両サイドのパルプスリンガーズに挟まれるように、中央に固定されていた。形は巨大な棺桶としか言いようがないのだが、材質は不明。鎖と強固な錠前で封じられており、誰も開けることはできなかった。暑さで体力と気力を奪われ、そんなものに構っている余裕はすぐに失せただけ、という方が正しいかもしれない。

「クソ・・・あのジジイ、アタシたちを殺す気だ」
S・Rがふたたび遠隔操作で己の愛車を呼び出そうとするが、やはり反応は無い。
1時間前、耐えかねた彼女が「外側からズドンと風穴あけちまえ」と愛車であり、愛機であり、兵器でもある『ガン・フロッガー』の呼び出しを試みたが、無駄だった。残りの10人も各々の機動兵器(ソウルアバター)を出現させようとしたが、ウンともスンとも言わなかった。
その手のジャミングに詳しいS・Cは「大掛かりな妨害装置は見当たらないから、コンテナそのものの材質に秘密があるとしか思えない」と見解を述べたが、対処法は見つからず仕舞いだった。

「いったいJ・Qは何を考えているんだ・・・」
R・Vは、すっかり空になり・・・誰の物かもわからなくなって転がる水筒を見つめながら呟いた。

『エー、当車両はあと30分で目的地に到着する。総員戦闘態勢・・・じゃなかった、みんな荷物をまとめておくように』

コンテナ内部を観察していたかのようなタイミングで、スピーカーからJ・Qの声が響いた。運転席には彼ひとり。計12名のサマー・バケーション。

この旅を提案したのは、バー・メキシコの客、J・Qである。
最近胡乱トラブルに巻き込まれ続けているR・Vに、休暇を。身を案じて手を尽くしたJ・Qだったが、いずれも失敗に終わっていた。唯一、天狗の里と呼ばれる田舎に行かせたときはノー・事件でフィニッシュしたらしく、肉体を休めることはできたようだった。しかし帰ってきてみれば、
「チヤホヤ・・・天狗・・・オーメン・・・実際スゴイデス・・・」
などとうわ言を述べるばかりで、すっかり精神面がやられてしまっていた。
半分失敗である。もう8月が終わる。これが最後のチャンスと考えていた。
「ま、バケーションといっても一泊二日のちょっとした夏休みだけどね」
J・Qはそう言って都合のつくパルプスリンガーたちを巻き込み、牽引車を運転して彼らをある場所に連れて来たのだ。


コンテナは左右の運動をやめ、ガタガタと縦に揺れはじめた。しばらく小刻みな縦揺れは続き―― やがて停車した。

プシューーーー

軍用機めいて油圧式のカーゴドアが開いてゆく。内側からどうやっても開けることのできなかったドア。
「やっとだ・・・」「み、水・・・」
パルプスリンガーたちは差し込む光に目を細め、なんとか膝に力を入れて立ち上がり・・・フラフラと外に向かう。

「着きましたよ」「さあ、つかまって」
本をパタンと閉じたM・Tと、瞑想を終え静かに目を開いたS・Gが、意識を失っていた三人の頬を激しく張って肩を貸す。A・Kも目を覚まし、筋骨隆々の身を起こして後に続いた。

「なにこれ・・・」「オマイガー」「ジーザス」「ブッダ・・・」「うそだろ?」「きれい・・・」

コンテナの外に出ると、そこは南国だった。南国でないのかもしれないが、実際南国―― いや天国としか言いようがなかった。
眼前に広がる青い海は、ガイドブックでしか見たことのない海のように透き通っている。遠浅で、色とりどりの魚がのびのびと泳いでいる姿が見える。左右に伸びる砂浜は雪のように白くきめ細やかで、ゴミどころか小枝ひとつ見当たらない。背後を見ればヤシの木にも似た南国の木々が広がっており、建物や道路といった人工物は1ミリも視界に入ってこなかった。

「ここ、どこ?」
S・Gが当然の疑問を口にした。その言葉で全員が我に返り、視線がJ・Qに集まる。
超巨大創作売買施設『Note』から車で数時間。こんな場所があれば、夏のリゾート客でごった返しているはずだ。なのに、今この純白のビーチにいるのはたったの12人。言葉通り「独占」である。

「クックックッ・・・ナイショ」
中世の闇医者にも似た身なりのJ・Qが喉を鳴らして笑い、葉巻を揉み消した。コホン、と咳払いし、しわがれた声で続ける。
「どこか、なんて気にしなくてよい。気にしなくてもいいことは他にもある。ひとつ。この周囲5キロは完全に無人。動物はいるっちゃいるが、みんな臆病だからね。この辺には近づいてこない」
「マジかよ・・・」
「気にすんなって言われても気になるよな」
「どこなんだろう・・・」
「異世界とか言わないよね?」
「でも好きにやっていいってんだから、それでいいじゃない」
「たしかにな・・・」

「はいはい、お静かに」
ザワつくパルプスリンガーズを手で制したJ・Qが続ける。
「ふたつ。飲み食いの心配もいらない。夜はバーベキュー。それまでのツマミも用意してある。・・・それと、肝心のこれ」
J・Qは、言いながら車のリモコンキーを操作した。直後、コンテナから例の棺桶が射出され、砂浜にドスンと音を立てて着地する。大人がタテに二人は入れそうな大型の棺桶へと注目が集まった。
「これが無いと始まらないじゃろ?」
錠前を外し、腰から取り出した手斧で鎖を断ち切ったJ・Qが・・・棺桶の蓋を勢いよく開いた。

真夏の太陽を浴びて黄金色に輝く瓶。無数の瓶。クラッシュアイスに突き刺さった数百本の瓶。そう、CORONAである。

「「「ううううおおおおおおお」」」
「「「ああAAAHHHH!!!!」」」

亡者の群れが、棺桶に刺さったCORONAへと殺到する。

「はい、ライムが欲しい人はコッチじゃよ」
J・Qは次々とライムを宙に放り、手斧で切断してはボウルに入れる。冷気を帯びた青白い刃によってライムはフローズン・ライムと化し、キンキンに冷えたCORONAを温まらせることなく柑橘アクセントを加えてくれる。

「くううううううー」
「生き返るぜ」
「はー。美味しい。神様の飲み物だわ」

「ゴミはこっちのゴミ箱へ。分別を忘れずに。海も浜も、汚したら殺す。お手洗いは用意するからそこで」
J・Qに促され、空き瓶が次々に放り込まれてゆく。

「しっかしJ・Q、性格悪いぜ。あんな蒸し風呂に放り込んでおいてコレだもんな」
マスクをつけたまま1本目のCORONAを空にしたH・Mが言った。J・Qはニヤ、と笑みを浮かべて頷く。
「それがいいんじゃよ。最高に染みるじゃろ? カラカラの臓腑に。渇望していた脳に。ギンギンにスッキリシャッキリリフレッシュしちゃうわけじゃよ。ま、素人がやったら危険極まりないからのう。医師のワシがきちんと全員の状態をモニタリングしていたからできた演出」

「なるほど、なんかそれっぽい言い方ですが・・・うーん」
と、息を吹き返したT・D。

「してやられましたね。CORONAが全ての飲み物に勝る日が来るとは・・・実際ここまで美味しいと感じたのは初めてです」
S・Cも今ばかりは、とラッパ飲みでCORONAを空にする。

一同は納得したような、しないような顔で聞いていたが、最終的には「まあいいや」と口々に言いながらCORONAを数本飲み干し、我先にと水着に着替えて波打ち際に向かって駆けだしていった。
「S・RさんとM・Hさんはコンテナを使ってください」
丁寧に服を畳みながら、T・Dが言った。

トレンディ・ドラマめいた水の掛け合いからスタートした海遊びは、すぐにエスカレートしていった。H・Mがブレーンバスターで6・Dを水中に沈めると、すぐさま身を返した6・DがH・Mにバックドロップで返す。A・KとS・Gは浅瀬でスモウをとりはじめ、ぶつかりの衝撃波で水飛沫が舞う。M・Hは深海で戦ったあの日を思い返すかのように素潜りして笑っている。T・DとS・Cは、上陸するカイジュウのマネのクオリティの高さを競っている。R・Vは仰向け大の字で水面に浮かび、目を閉じて気持ちよさそうにプカプカと波に揺られていた。

「この箱はクーラーボックスだったのか・・・どういう構造なんだろう。あとで端末を修理してきちんと調べよう・・・」
建築に通じているD・Aは、2本目のCORONAを抜きながら棺桶を観察していた。
「ちょっとD・A。そんなことやってる場合じゃないよ! 海! 海!」
ツナギを脱ぎ捨てたS・Rが、D・Aの腕を掴んで引っ張る。
「エッ、あの、着替え」
「いいから! ホラM・Tも! こんなキレイな海に来たらさ! 一度は浸かっておきなって!」
マジック・パラソルを展開して読書に耽ろうとしていたM・Tも、S・Rに引きずられるようにして水浴びに向かった。

J・Qは、血の気の多いパルプスリンガーズたちが童心に帰っている様子を眺めながら棺桶に腰をおろし、葉巻に火をつけて独り言ちた。
「他のみんなも都合が合えば良かったんじゃがのう」

A・Zは、名作JRPGによって多大なダメージを受けて休息中。

T・Fは、天狗の里に行ったまま消息不明。

M・Jは、行く気満々だったが直前で天気雨にやられて風邪を引いた。

B・Rは、今は執筆中の作品に集中すると宣言し、図書館にこもっている。

T・Aは、残念だけど自営の喫茶店で一仕事ありそうで、と辞退。

O・Dは、執筆活動に忙しいらしく、「これを」と謎の箱を託して姿を消した。

M・Nは、愛猫Fuちゃんとの旅行と重なってしまった。

B・Sは、謎めいた存在でまだ関係が浅く、バーで遭遇できなかった。

他にも多くのパルプスリンガーたちがバー・メキシコを利用しているが、来店頻度や時間帯は人によって異なり、J・Qも全員と親睦を深められているわけではない。

「さて、O・Dがくれた箱の中身は、と」
J・Qは葉巻をしまい、トレーラーの助手席に積んでおいた箱を確認する。
「むう。こりゃあ・・・うーむ」

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「さ。夏と言えば、コレ」
11人全員が日頃のストレスを洗い流して砂浜に戻ってきたタイミングで、J・Qは必勝ハチマキと日本刀を取り出した。

「「「スイカ割りだ!」」」
「ヤッタ!」
「子供のとき以来だわ」
「夏といえばスイカですな」

「で、コレ。O・Dからの差し入れじゃよ」
黒い箱を砂浜に置き、はしゃぐ全員に見えるように中身を取り出す。それは美味しそうなスイカ・・・ではなく、真っ赤なビッグ・トマト。

「エッ?」「これトマ・・・ト?」「トマトナンデ?」

「スイカ割りにどうぞ。美味しいよ。とのこと」
J・Qが、同封されていた手紙を読み上げる。

「スイカ割りにどうぞ、って・・・正気か?」
「ま、まあ、トマト美味しいもんね。栄養満点」
「デカすぎないか? しかしこのサイズならちょうどいいかも・・・」
「ま、やってみようぜ!」

結果、スイカの三倍はあろうサイズのトマトを見事一刀両断したのは、強運と実力の持ち主、6・Dだった。惜しかったのはトップバッターのS・Rだったが、途中で「撃った方がはやい」と銃を取り出したため失格となった。
トマトを等分し、全員で美味しくいただく。脳漿めいて溢れ出る汁がチョッピリ複雑な気持ちにさせたが、良く冷えており、味も格別だった。ペロリと完食。

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「夕日がきれい・・・」
CORONAめいて輝く太陽と海。M・Hの隣にR・Vが立つ。
「アイツら、元気にやってるかな」
「ええ。きっと」
そして二人は黙ってCORONAを飲む。

「おーい、 バーベキューの支度ができたぞ」
J・Qの声に二人が振り返ると、ちょうどM・Tが火を入れているところだった。魔術によって炭がみるみる赤くなり、次々と網の上に乗せられた肉たちが食欲をそそるジューシー・サウンドを奏でる。
「皆さん、これ。痛んでないはずです」
M・Hが小走りで荷物置き場に向かい、自前で持ってきたクーラーボックスを開ける。新鮮なシーフードがギッシリと詰まっていた。
「うおおおおお」「美味しそう」「エビ動いたぞ!」「魚介もいいね!」

「野菜もいかがかな?」
「いいですね!」
背後から声をかけられ、S・Gが振り返る。・・・と、そこには見知らぬ男性。コーンを差し出したその男の耳は尖っており、なぜか弓を背負っている。
「あなたは?」
王子。A・Kのフレンド。よろしく」
「そうでしたか! 私はS・Gです。よろしくお願いします。みなさん! 王子さんが飛び入り参加します! 差し入れまで頂いちゃいました!」
S・Gは、本日13人目の仲間を皆に紹介した。
R・Vが「アッ!」と言って目を剥き、当のA・Kも「Oh , ウッカリ・・・」などと呟いていたが、他の者たちは「よろしくー」「お! トウモロコシじゃん!」「焼いて、醤油でさ」「いいねいいねー」「A・K、もっと早く紹介しろよ」などとスンナリ受け入れたようだった。

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A・Kと王子、それにH・Mが腕をふるったシメの焼きそばと半チャーハンを平らげ、ふたたび夜の海を満喫したパルプスリンガーズたち。今は全員で焚火を囲み、今日何本目かわからぬCORONAやチャを飲みながら団らんを楽しんでいた。自分の作品について。お気に入りの他人の作品について。執筆活動の苦労や裏話。自然とパルプ小説の話が中心になってゆく。

「あー、花火持ってくりゃよかったね」
砂浜に寝ころび、満天の星空を眺めながら6・Dが呟いた。

「ありますよ。多くはありませんが」
皆の話に静かに耳を傾けていたM・Tがさりげなく言うと、全員が大声で叫びながら一斉に立ち上がった。
M・Tが持ってきた花火は手持ち中心で、点火すると見たことのない炎色反応を示し・・・さまざまな色で幻想的な模様を暗闇に描いては消えていった。
「こんなの初めてだぜ」
「綺麗だねぇ。ウットリしちゃうよまったく」
「ねえ、こんな花火どこで買ったのM・T?」
「・・・手作りです」
「「「エッ?」」」

M・Tの芸術的な花火は、あっという間に尽きてしまった。クールなオトナであれば「綺麗だったね。寝ようか」で終わるところだが、そうもいかないのがパルプスリンガーたちである。

「なあ、最後にドカンとやらないか?」
含み顔のA・Kが全員に提案しながら、J・Qの顔色をチェックする。J・Qは「水平はダメ。あとゴミが出る実弾もダメ」とだけ言って、ふたたびCORONAを煽る。OKということである。
「いいね!」「射程は成層圏くらいまでにしておこうぜ」「よーし!」
パルプスリンガーたちは各々のソウルアバターを起動、実体化して乗り込むと、実弾以外の装備をオープンにして上空へとフルバーストする。真昼に戻ったかのようなまばゆい光。無数の音。音。音。
「うううううおおおおおおお!!!」
「YYYYEEEEEAAAAAA!!!」
「ヒィーーーーーハーーーー!!!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラ」
「いっけーーーーー!」
「それえええええええええええ」
「ワーーーーッハッハッハッハ!!!」
「ハンバーーーーーグ!!」

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大興奮の後の、就寝タイム。
何名かは「気持ちよさそう」と言って砂浜でゴロリ横になり寝息を立てはじめたが、8月末の夜はまだ寝苦しい。残りの者たちが、D・Aのテントに目をつけた。

「D、A、くぅーん」
6,7名が横になれそうな大型のテント。侵略組の先鋒S・Gが入り口を開くと、25度めいた冷風が顔を撫でた。
「エッ!? ナンデ!?」
「どうしたのS・G? うわ、涼しい!!」「なんということでしょう」
背後のS・RとM・Hがほぼ同時に驚嘆する。
さすがのM・Tもこれには驚いたらしく、丸眼鏡の奥で両目が鋭く光った。
一番後ろで様子を伺っていた6・Dにも冷風が届き、「さ、みんな、中に入ろうよ」などと言い始める。
D・Aは「あ、見つかってしまった」と言いながらも5名を招き入れ、パネルを操作して照明を弱から中に変えた。
「発電機も無い・・・よね? エアコン完備ってどゆこと。動力源は?」
S・Rが尋ねると、建築関連の最新技術に精通するD・Aは一瞬だけ職人の顔になったあと、ニッコリと笑って答えた。
「そこだけは秘密ということで。今日、試しに涼んでみようかと持ってきただけで、実際いつも使ってる物ではないです。ちょっと危険ですし・・・」
「へえ・・・。ま、涼しきゃいいよね」
「ですね」
「TRPGやりません? 本とダイス持ってきてます」
「いいね!・・・待って、そのダイスって」
「やだなあ。もちろん普通のですよ」
「だっはっは! だよね。やろうやろう! 夜更かし上等!」


----3日後。バー・メキシコ----

「あれ? そんなに疲れた顔して。楽しくなかったのヴァケイション」
まだ客の少ない店内にエントリーしたO・Dが、テーブルに突っ伏すR・Vに声をかけた。

「いや、楽しかった。トマトも・・・美味しかった」
頬をテーブルにつけたまま横を向き、弱々しく答えるR・V。

「何かあったんだ? ここ二日、珍しく店に顔出してなかったよね」

「それが・・・夜、花火をやった勢いで・・・みんなでソウルアバターを起動してさ。一斉にブッぱなしたらさ。各国の軍事衛星が補足したらしく・・・国のお偉いさんに問い合わせが殺到・・・軍の知人経由で俺に連絡が来て・・・俺だけ呼び出されて・・・2日間事情徴収と謝罪行脚・・・など、など・・・」

「あー。それはご愁傷様。ま、飲もうよ。土産話、聞かせて」
話を聞きながらCORONAを二本オーダーしたO・Dは、肩をポンと叩いて一本を差し出した。

【完】

●本作品は、遊行剣禅=サンの小説『パルプスリンガーズの二次創作作品であり、登場人物はすべてNoteで活躍している実在のパルプ小説家をベースにしています(下記参戦リスト参照)。
●パルプスリンガーは数多く存在しますが、本作品では下記ガイドラインにOKを出した人のみを登場させています(M・N=サンは個人的な想いが強く1行だけ特別出演)
●また、『パルプスリンガーズ』本編において8月30日時点で主役をはっていない人は、本編で予定している内容に影響せぬようヴァケイション欠席としております(早く使いたい!)
※S・G、D・Aを除く



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