見出し画像

僕、粕田朔世。何度転生してもチャーンを回避できない 第1の夢

Kaigeeの記念すべき1社目の顧客はとある商社の総務人事部中に属するDX推進室で、Fさんという方が担当者だ。Fさんの会社ではDXに取り組む活動の一つとして、会議の生産性向上をテーマにしたプロジェクトが立ち上がり、Fさんはそのチームリーダーを任されたそうだ。
Fさんは入社5年目。所属部署で以前経理・会計の自動化ソフトを導入してコスト削減を成功させた経験を買われてのことらしい。Kaigeeは全社的に使用されることになっており、Fさんとしてはツールを導入して自分で使う仕事の経験はあるが、他の部署の人つまりエンドユーザーに使ってもらうのは初めてのことらしい。
Fさんからは自社のデジタル化が遅れており、会社全体がまだまだアナログ体質であり、チャットツールよりもメール、メールよりも電話、電話よりも直接会って話をすることを優先する、言い換えればそうしたことを好む人が多いと聞かされた。そうした社員の体質・企業の文化を会議から変えていこうという考えが、DX推進室の室長にはあるとのことだった。

僕はFさんとの顔合わせMTGで、次週からシステムのセットアップ支援や操作方法のトレーニングなどを行うオンボーディングを開始することを伝えた。
オンボーディングは顧客が製品やサービスを初めて利用する際に行われる導入プロセスだ。顧客が製品を問題なく使用できるようにサポートするための重要なステップとして、僕はわかりやすいマニュアルと想定し得る限りのFAQコンテンツを作成した。そして、実際にカイギーの操作方法や詠唱コマンドのトレーニングを会社に訪問して行った。Fさんは呑み込みが早く、2時間のトレーニングと質疑応答を経て、ほぼほぼ操作方法をマスターしてくれた。トレーニング中、発言が自動的に文字起こしされていく様子を見たり、詠唱コマンドを試したりするなかで、Fさんからは「すごく便利ですね!」「すごい!」という声が上がった。とても誇らしい気分だ。

あとは実際の社内会議で使用してみて、わからない所があったらFAQを見たり、問い合わせをしますねとFさんが言い、この日のトレーニングは終了した。僕は顧客が製品の使い方や機能を正しく理解し、最初の成功体験を得ただろうという手応えを感じて、充実した気持ちでFさんの会社を後にした。
トレーニング終了後、何度かFさんから操作の不明点についてメールで問い合わせがあったが、少しでも早く製品の操作に習熟し、製品利用に不安のない状態をつくることがオンボーディングには重要という考えのもと、メール受信後1時間以内に回答することを自分に課し、問い合わせに答えていった。いつしかFさんからのメールには「いつも迅速なご回答をありがとうございます」と書かれるようになり、僕は顧客とのエンゲージメントの高まり、信頼の構築を感じていたのだった。4か月目以降は問い合わせはほとんどなくなり、僕は中間目的に掲げた「製品を問題なく使用できている」というオンボーディングの状態を実現できたと思った。

月日はあっという間に過ぎ去り、更新前月。僕はFさんに契約更新が近づいていることと、更新にあたり社内手続きに必要なら見積りを送ることをメールで伝えた。
その翌日。Fさんからの返信を開封すると、契約は更新しないと書いてある。僕は慌ててFさんにビデオMTGを依頼し、解約の理由を尋ねた。Fさんは「これはDX推進室の上司の判断と前置きしたうえで、以下のように教えてくれた。

今回、会議のDX化というテーマで導入を急いだため、導入の意図や目的をエンドユーザー側に十分伝えることができず、カイギーを使う部署や社員数が思っていた以上に増えず、この利用率でカイギーの費用は高すぎると考えたとのことだった。
また、Fさんはカイギーの操作方法をマスターしたが、カイギーだけでなく他の業務も兼任しており、エンドユーザーからカイギーの操作方法のレクチャを希望されたとき、すぐに対応することができないことがあったそうだ。人の興味はそうそう長続きしない。特にFさんの会社は元々アナログ体質で、人に聞いた方が早いという体質だったから、いくらマニュアルを読んでくださいと伝えても、直接教えてもらうことを希望していたそうだ。そうして待たせている間に気が変わって、いつも通りの会議が行われていた。
これはプ譜で表現すると、Fさん個人のオンボーディングの状態は実現できたが、組織のオンボーディングは望ましい状態を実現できなかったということだ。

またFさんからは、全部署・社員に一斉にカイギーの使用を通達するのではなく、社内掲示板で「こういうツールを導入したので興味のある方はご連絡下さい」という投げかけだけをしており、それも利用につながらなかった要因かも知れないということを聞かされた。
なんてことだ。僕にできることはまだまだ沢山あったじゃないかという悔やしさが込み上げてきた、悔しさのせいか頭痛を感じたかと思うと、突然PCのディスプレイがぐねぐねと歪み始めた。痛みと歪みはだんだん大きくなっていった。

その時、次のような教訓が導き出された。これらは僕の失敗についてよくよく考えてみた結果だった。

1.オンボーディング終了の状態を定義し、顧客と合意しておくこと

2.導入部署とエンドユーザーが異なる場合、エンドユーザーに対してトレーニングを行うこと

3.ツール担当者が対応できないときでも、エンドユーザーが参照できるわかりやすいコンテンツを用意しておくこと

1の教訓にはいろいろな状態が定義できるはずだ。
今回はカイギーを使用している社員数や割合をオンボーディング終了の定義にできた。一気に普及させられないなら、こうしたデジタルツールの使用に好意的な部署から始めるという手も打てた。もしくは、カイギーの価値を感じてもらいやすい機能の使用率なんかも良かったかも知れない。使用期間を決めてアンケートを取り、その回答内容によって継続利用を決めてもらうということもできたろう。
僕は単に製品を使えるようになればオンボーディング終了と考えていたのだが、それはとても短絡的な考えだったのだ。僕は『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』に、「オンボーディングを開始していいのは、このような成功指標を明確に定めたときだけだ」と書いてあったことを思い出した。
2と3の教訓も迂闊だった。CSにとっての顧客は直接相対している導入担当者だけじゃない。その先にいるエンドユーザーが製品の使用価値を感じなければ、製品を使用し続ける支持を得られるわけがない。

これらの教訓をもとに、自分が直接できることの施策や、顧客に働きかけて間接的にでも影響を与えられる施策を色々と考え、二度と忘れることができなくなったとき、不思議なことが起きた。
万華鏡のように全てが変わったかと思うと、僕は新しい夢を見ていたのだった。

未知なる目標に向かっていくプロジェクトを、興して、進めて、振り返っていく力を、子どもと大人に養うべく活動しています。プ譜を使ったワークショップ情報やプロジェクトについてのよもやま話を書いていきます。よろしくお願いします。