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僕、粕田朔世。何度転生してもチャーンを回避できない 第3の夢

いつも通りの晴れた午後、僕はこれまでと同じ条件で在宅勤務の僕の部屋で、PCの前に座っていた。
それまでと違っていたのは、これまでの教訓が記憶されていたことと、 BさんがKaigeeにとって正しい顧客を定義し、その顧客に届けるためのメッセージを精査してマーケティングと営業活動を行った結果、Fさんの会社がKaigeeにとって正しい顧客となって契約をしていたことだった。

Kaigeeにとっての正しい顧客とは、会議の効率化だけでなく、会議での発言や質問の質を向上させたいと願っている顧客だ。Kaigieeが競合サービスと異なる点は後者の機能が充実しているところにある。

エンドユーザーへのトレーニングをしっかり行い、わかりやすい動画マニュアルなども提供したおかげか、オンボーディング終了後、エンドユーザーはもちろんFさんからもKaigeeの操作方法についての質問が寄せられることはなく、エラーや不具合の問い合わせもなかった。
プロジェクトマネージャーが上流で正しい顧客に販売し、CS担当しての僕が正しくオンボーディングする。上の方針と現場の活動が噛み合っているという手応えを僕は感じ、感動すら覚えた。これなら契約更新はまったく問題ないだろう。

何事もなく月日は流れ、更新確認のビデオ会議当日。僕は密かに成功事例の取材をFさんに打診してみようと考えていた。・・・のだが、またしてもFさんから解約を告げられた。

Fさんに解約を決めた理由を聞くと、一番の理由はKaigeeの定着率の低さだった。
ちょっと待ってくれ。僕は教訓を活かしてエンドユーザーに直接トレーニングを行い、操作ができるようになったことをこの目でしっかりと確認したのだ。そしてオンボーディングの定義であった、選抜した部署での利用率もクリアしたのに、定着率が低いとはどういうことなんだ?

自分は間違っていないのにどうして・・・?そんな感情を押し殺している僕にFさんがいくつか定着率が低くなった原因を教えてくれた。

UXの点では、Kaigeeを使用するのに少し準備の時間がかかるということ。
また、記録した議事録は基本的にはすべて公開され、社内であれば誰でも閲覧できるようになっているが、他の部署には見せたくなかったり、上層部にはまだ見せたくないといったことがあり、すべて閲覧できてしまうということがKaigeeを利用しない理由になっていたのではないかということだった。
加えて、発言や質問を評価されるということへの抵抗感や、利用できる当月のデータ容量が上限に達してしまい、ある会議では議事録機能を使えないということもあったそうだ。容量は追加購入できるのだが、容量超過のアラートがKaigeeの担当窓口であるFさんに通知されず、結局追加購入することはなかったということだった。

「そんなことならもっと早く言って下されば・・・」という声が口から出かけたのを、僕は寸前で飲み込んだ。
オンボーディング終了から今日まで、時折寄せられた問い合わせに対応し、それが徐々になくなっていって以降、僕は今Fさんが言ったことを自分から知ろうとしなかったのだ。
準備にかかる手間というUXも議事録のアクセス権限も容量超過の通知も、社内のエンジニアに相談すれば改善・対応できることだ。でも、その改善・対応の時間は、契約更新直前では少しも残されていない。僕がもっと早くこれらの顧客の状態を知ることができていれば、このチャーンは防げたんじゃないのか。

ゆっくりと、『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』に書いてあった原則を僕は思い出し、それは教訓となって僕の中に蓄えられていった。

7.絶えずカスタマーヘルスを把握・管理せよ

カスタマーヘルスとは製品を使用する顧客の状態だ。それを様々な手段を使って測定しなければならない。
顧客の状態測定には、システムへのログイン率、機能の使用率などが使えるだろう。製品への関心や興味の持続を測るなら、定期的に送るニュースレターの開封率やCTRも使えそうだ。カスタマーサポートに電話やメールを送ってくる件数も一つの指標になるが、僕は問い合わせがなくなっていることを、問題なく使えていると解釈してしまったのだ。どうしても使いたくて社内説得して導入したツールでもなければ、顧客から要望の声は寄せられない。便りが無いのは元気な証拠、ではないのだ。
カイギーの機能やパフォーマンスに関する問題や不具合があっても、CS自らがそれを取りにいかない限り、顧客の使いづらさや機能不足を知ることはできない。

また、Bさんからは人がリアルに動けばその分コストがかかるのだから、できるだけ効率的にCS業務を行うようにと言われていたこともあって、顧客とのコミュニケーションを怠ってしまい、それにとって顧客の関与度や満足度を低下させてしまったかもしれない。

辛い経験から得られた教訓を噛みしめていると、僕はまた新しい夢を見たのだった。

未知なる目標に向かっていくプロジェクトを、興して、進めて、振り返っていく力を、子どもと大人に養うべく活動しています。プ譜を使ったワークショップ情報やプロジェクトについてのよもやま話を書いていきます。よろしくお願いします。