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【読書記録】本「ザリガニの鳴くところ」は、深い。大自然で生きること。


きっかけ

この本はいい!っておすすめ本によくあがっていました。
翻訳本だからか、文庫なのに1400円!
でも、これで救われるのなら読んでみようか、ミステリー。

……。

正直ね、これ重かったです。
すごく孤独感が強いし。
逆に、救われないかもしれない。
人生を楽しく生きていきたいだけ人は見ないで。
そう言いたいです。

ようこそ、沼地へ。

少女の成長物語として

この本の主人公は、〝カイア”という名前の少女。
貧困地区に生まれ、社会と切り離されていました。
物語には彼女が6歳~64歳の出来事が描かれています。

ある日を境に、
彼女の周りの人間たちがいなくなっていきます。
文字が読めない少女。
だんだん孤独に包まれていきます。
それでも自然の中で生き抜く彼女は脆くて強い。

文字を教えてくれた〝テイト”という青年もいますが、
彼も大学生になると一時的に離れてしまいます。
その寂しさから遊び人の〝チェイス”で心を満たそうとしました。
でも、満たされません。

彼女は少女から女になっていきますが、
愛が伴っていないので、いつも悲しみを抱えています。

恋愛小説とか、少女の成長物語としてみると表面的にはハッピーエンド。
でも、真実を知ると普通にハッピーとはいえず
墓場まで持っていくような秘密が見えてきます。
ここが、ミステリー小説なのでしょう。

私は、素直にハッピーになりたかったのですが、
そう生きていくしかなかった彼女と一緒に歩いてきたので、
何とも言えない気持ちになりました。

この小説の世界はずっと薄暗い。なんだろう。
自然の光はすごくある感じがするけど、心情がほの暗い。

光が当たったのは、少女の初恋あたりだけかもしれません。
おびただしい黄色いプラタナスの葉が飛び立った場面だけ。
あそこは映画のワンシーンみたいで好きでした。

ミステリー小説として

話の流れが、殺人事件からスタートです。
その犯人捜しをしていく合間に合間に
容疑者の少女〝カイア”の物語が進みます。

犯人は誰か?というのは、ネタバレになるのでいいません。
保安官が捜査していく段階で、少しずつ証拠や証言が出てくるので
一緒に犯人捜しをしているような気分にもなってきます。

私は最初あの男が怪しいと思っていましたが
結局、最後まで出てきませんでした。
そういうのも、ミステリーの魅力でしょう。
一緒に推理を楽しみながら最後まで読んでいけますから。
ちょっとした謎や秘密は物語に必須です。

両親の行方は?
恋の相手は?
犯人は?
ザリガニの鳴くところって何?

それは読んでからのお楽しみです。

社会派小説として

この物語には、
人種差別、経済格差、戦争問題、
自然破壊、教育格差、婦女暴行など
現代のいろいろな問題に通じる描写が書かれています。

日本に住んでいるとここまで露骨じゃないので
ピンっと来にくいですが、
実際こんな世界はあるはずで考えさせられました。

人は、己の立場によってマウントをとりがち。
私だって、無意識に距離をとると思います。
〝カイア”が目の前にいたら多分、鼻でわかります。
次に見た目。そして、口元。
いくら愛があっても、人は見た目で判断するでしょう。

〝テイト”には、なれないけど、
〝テイト”でありたいと願ってしまいます。
誰かをとことん信じ抜き、愛し続けられる人に。

感情的になりすぎず、
今の社会との接点を上手に渡してあげられて、
自立を促し、社会に溶け込めるように促せる
本当の愛情と知恵を持った人に。

偽善者なのかもしれません。
自分が本を読んでいるだけの人だから。

もしかしたら私の中には
〝チェイス”のような遊び心しかないのかも。
社会に適応している、軽い人間。
ただ、知りたいと願う好奇心の塊。

自然文学として

昔は、自然の描写というものが邪魔でした。
私は人の物語だけを追っていました。
それが、私の読み方でした。

今は、自然の描写の中に、心情が入っているのがわかります。
それを読み解くのも醍醐味と教わりました。
だから、そうやってこの本を読むとすごいです。
自然と心がシンクロできます。

これをスッとやっちゃう人たちが映画やマンガを作るのですね。
文字を絵にできる人たちが。
そういう読み方も面白い。
すこし、自然描写と戯れてみます。

そのマットレスに身を沈め、最後の日の光が壁を滑り落ちていくのを見つめた。太陽はいつもと変わらず沈んだあともしばらく明るさを残し、室内に光のプールを作った。そしてほんの短いあいだ、でこぼこのマットレスや、そこかしこに積まれた着古しの服に、外の木立よりも鮮やかな輪郭と色を与えた。

ザリガニの鳴くところ p21

そのマットレスとは、行方不明の母が使っていたもの。
シーツがはがされたマットレス。
主人公の寂しい気持ちと沈む夕日。
部屋の木漏れ日の光が心情とマッチするように感じました。

秋が近づいていた。常緑樹はどうだかわからないが、プラタナスはちゃんとそのことを感じ取り、薄灰色の空に幾千もの金色の葉をきらめかせていた。

ザリガニの鳴くところ p170~p171

ここは、少女の初恋がはじまりそうな場面に差し込まれていました。
金色の葉が象徴的でした。

テイトはボートを止めて少し後退した。彼が見つめていると、青灰色の波に囲まれたカイアとチェイスが、まるで飛びながら求愛する二羽のワシのように円を描いてまわりはじめた。次第に輪を縮めていく二人のうしろで、航跡が狂ったように渦を巻いていた。

ザリガニの鳴くところ p251

水上で繰り広げられる三角関係。
女をとられそうな男の想いが、狂った渦に見えるのでしょうね。

この本の作者は、動物学者さんだそうです。
だからなのか、野生の動物たちの様子や自然の描写が沢山でてきます。
これは、私には表現できないな~って思いました。

ザリガニの鳴くところ

いろいろな読み方ができる本書です。
だからこそ、みんなが勧めるのがわかりました。

本って、それぞれの人生の軌跡を重ねられます。
ただし、自分が見たいようにしか、読めません。
だからこそ、何通りも読み方があって
それを強制することはできません。

あなたが、誰であろうとこの本なら
どこかに引っかかります。
そして、考えさせられます。

果たして、自分ならどうするか?と。
きっと、死生観にもつながります。
あなたなら、一生「秘密」を保持できますか?


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