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ニューメディア開発協会×ベネッセこども基金 共同プロジェクト発表会vol3特別支援学校発表「心温まる、子ども目線でのアバターロボット実践成功事例」レポート

2023年3月23日、アバターロボット実践成功事例の第3回発表会を開催いたしました。
2022年12月の第2回発表会に続き、今回も新たな実践成功事例として、特別支援学校11校による13の取り組みが紹介されました。いずれも、現場の先生方が様々な工夫を行い、子どもたちが笑顔になる取り組みばかりです。今回はその一部をご紹介するとともに、現在進めているメタバースの活用事例についてもご報告いたします。

■共同プロジェクトのねらい

2022年、病気療養の子どもに向けたアバターロボット活用やメタバース活用研究を行っているニューメディア開発協会と、院内学級や特別支援学校での取り組みを進めてきたベネッセこども基金は、両者の強みと知見を生かした共同プロジェクト「病気療養の子どもがアバターロボットで学校生活に参加し『笑顔』になる。学び、体験のモデル拠点校支援事業」を発足しました。

全国の特別支援学校と連携し、アバターロボットを活用した事例研究や実践を進め、2023年3月までに、特別支援学校16校で30以上の実践の成功事例が生まれました。くわえて、新たにメタバースを活用した学びのモデルにも取り組んでいます。

■実践から得られたこと

発表会では、モニター校の先生からの発表とあわせて、1年間の実践の感想も伝えられました。

「アバターロボットをどう使うかを考えることによって、教員も考え、動き、それによって人とのつながりができたり、生徒との関わりもできたりした」「高3の卒業で、アバターロボットを通じて卒業証書を受け取った生徒と保護者が、とても喜んでいたことを聞き、実践して良かったと感じた」など、実践の効果や成果が語られる一方、「校内でどう広めていくか」といった課題も挙がりました。

また、「子どもたちはすぐ受け入れてくれたが、先生は引いてしまう」と、苦労したエピソードを話していた先生は、「外の世界をしっかり知った上で、今必要なもの、主流なものを使って、子どもたちを教え育んでいく力が、教員に求められているということを、この1年通じて感じ、本当に楽しかった」とし、プロジェクトに参加した意義と成果を伝えてくれました。

発表会に参加してくださった先生方と記念撮影

■特別支援学校11校によるアバターロボットの日常活用事例

今回の発表会では、「“特別”ではない日常の利用」として、モニター校となった特別支援学校のうち11校から、「学校イベント」「課外学習」「健康管理」「交流」「その他学校生活」「進学支援」という6カテゴリーで、13の事例が紹介されました。なお、ご紹介した全事例は、以下のサイトでも動画をご覧いただけます。
●テレロボ学校 利用事例/各校の取り組み

日常での利用を想定した、6つのカテゴリー

事例1:「自走式アバターロボットとお買い物」京都市立呉竹総合支援学校/京都市立桃陽総合支援学校連携(課外学習)

目的:障がいの状態に応じた体験活動の実施利用システム:自動式アバターロボット「temi」

京都市立呉竹総合支援学校の取り組みは、京都市立桃陽総合支援学校と連携した課外学習の事例になります。肢体不自由養護学校としてスタートした同校は、現在は総合支援学校として京都市の南部地域を担当しています。また、日頃から、地域への働きかけを大切にし、地元の商店街と連携した活動も行っています。

今回、心臓や呼吸器の障がいで外出が難しい高等部の生徒を対象に、近くの商店街へ自走式アバターロボット「temi」を持ち込み、生徒が学校からタブレット端末で操作して、店舗で買い物を行う体験活動を実施しました。

生徒は、商店街の4店舗で、野菜やお菓子など自分の好きなものや家族から頼まれた食材を購入しました。発表では、学校で生徒たちがタブレットを操作している様子や、商店街をtemiが走行している様子などが動画で紹介されました。体験した生徒からは、「学校から出られなくても、好きな食べ物を買うことができた」「色々な人と挨拶ができた」「観光地に行ってみたくなった」といった前向きな感想が聞かれ、「安心感や自信、社会性を育む効果があった」ことが伝えられました。

今回の実施にあたっては、まず生徒がアバターロボットを身近に感じられるように、temiに名前を付け、普段から一緒に過ごすように心がけた他、教員間で操作練習や、操作する生徒の見やすさを配慮した打ち合わせを念入りに行いました。また、地元商店街には事前に企画説明に行ったことで、当日はスムーズに体験をすることができました。
 「買い物学習時には、ロボットの操作や機能をはじめとした課題もあるが、学校の外に出ることが難しい生徒の体験の幅を広げ、経験値を増やすことができる」という成果がありました。

事例2:「テレロボで買い物に行こう!」:秋田県立秋田きらり支援学校(課外学習)

目的:ロボットを通して買いたいものを自分で注文する、店員とやりとりをする利用システム:アバターロボット「OriHime」

秋田県唯一の肢体不自由特別支援学校である秋田県立秋田きらり支援学校は、全県の病弱教育をサポートしています。コロナ禍や冬期は学校外へ出かけることが難しいことから、アバターロボットを使った買い物を計画しました。

利用したのは、高等部1学級の生徒たち。教員が、OtiHimeをマクドナルドの店舗に持って行き、教室からポテトなどを注文しました。大型モニターテレビに接続し、学級の生徒全員で画面を共有したため、実際に注文したのは1人の生徒であっても、「買えた」という達成感を感じることができたそうです。

この事例でも、「生徒自身が『自分で注文した』『買い物をした』と実感できるようにするための準備が大事」とし、事前に隣接する医療療育センターの売店の協力のもと、生徒たちはOriHimeを使った遠隔購入の体験を行っていました。
 また、店舗に対しても、事前に教員がOriHimeを持参して訪問し、店員の方にやりとりのイメージを持っていただいたそうです。こうした下準備の結果、当日のやり取りは、教員ではなく生徒が画面越しに行うことが可能になりました。

 同校では、「状況によって本物の体験が難しい場合、持ち運びができるアバターロボットの活用は非常に有効だった。同時に、学校以外の方々の理解と啓発にもつながったと感じている」と、実践の効果を報告しました。

事例3:「可搬型アバターで『家から冬をさがしにいこう』」:大阪府立刀根山支援学校(課外学習)

目的:公園で冬を探す利用システム:アバターロボット「Telepii」、アプリ「TelepoTalk」

大阪府の病弱支援学校である大阪府立刀根山支援学校からは、本校訪問教育部の実践として、アバターロボットを使った散策の課外学習が報告されました。

心臓移植後、復学までの間は外出できず、在宅療養をする小学1年生が、アバターロボット「Telepii」に公園に行ってもらい、遠隔で公園の様子を自由に見る授業を受けました。子どもからは、「夏や秋と違って、木に葉がない」「外が好きだから、少しでも様子が見られてうれしい」といった発言が出た他、現場にいた先生が見落としていた蕾を発見したそうです。また、偶然、国語で学習した郵便車や電車などの働く車も見ることができ、積極的に話をし、楽しんでいる様子が感じられ、保護者の安心にもつながりました。
「教科書の絵だけでは反応が薄かった子どもが、この体験では自ら他の教科とつなげたり、公園の冬をたくさん発見したりし、子どもの主体性に気づくことができた」とコメントがありました。


この授業での注意点は、モバイルバッテリーが不可欠であること、接写にはロボットの持ち方や置き方などにも工夫が必要なことなどです。一方で、モバイル性が高いTelepiiであれば、片手で持ち運び可能なため、色々な視点で見たい子どもの要望に応えやすいというメリットがありました。

事例4:「諦めていた高校進学をアバターが実現に向けPUSH」:大阪府立光陽支援学校(進学支援)

目的:原籍校の進路学習に参加
利用システム:アバターロボット「kubi」、iPad、「Telepotalk」

生徒の進学への意欲にもつながった成功事例が紹介されました。肢体不自由と病弱の併置校である大阪府立光陽支援学校では、長期入院をしている中学3年生の生徒が、原籍校の進路学習に参加し、その後の学習や進学への意欲を高めたという事例です。

 対象となった生徒は、野球部で活躍していた中学2年生時に病気が判明し、治療にも学習にも向き合うことができず、進学にも後ろ向きでした。そんな折、原籍校の先生から進路学習にロボットを使って参加しないかと提案があり、kubiを通じて参加をすることになりました。「当日はスライドを一生懸命見ながら、志望動機を考えるなど、今まで見たことのない姿で主体的に参加していた」と先生が話すように、この実践をきっかけに原籍校の授業にkubiで参加し、休み時間に友達と話をするようになりました。
 その結果、「一度は諦めていた高校受験に挑むことを決め、見事合格を勝ち取った」と、先生が嬉しそうに報告してくれました。

 このケースでは、原籍校と日頃から密な連携を図り、互いの状況を共有して理解し合いながら進め、良好な関係性を築いていたことも大きなポイントです。また、生徒に対しても、アバターの活用を始め、教員から色々な選択肢を提示して可能性を広げることが重要です。

担当した先生からは、「今回の実践は、子どもたちだけでなく、関わる全ての人の笑顔につながり、笑顔の輪が広がるということを実感した。様々な課題や壁にぶち当たることもあるが、目の前にいる子どもたちのことを一番に考え、そのために今できることから始めてみるのが大切」というメッセージが伝えられました。

■そのほか多様な成功事例のご紹介

そのほかにも、9つの素晴らしい事例が集まりました。動画で各校の取り組みをご覧いただけますので、詳しくはこちらの動画をご参照ください。

【学校イベント】

・「アバター校長先生と話そう!」京都市立桃陽総合支援学校

アバターロボット「kubi」を使い、普段話す機会のない校長先生とリモートで話すことにより、「自分も学校の一員なのだ」という帰属感が生まれました。

・「先生の人手不足解消!? アバターでテスト監督」大阪府立刀根山支援学校

アバターロボット「kubi」を試験監督にした事例。教員の人手不足対策だけでなく、「視線を気にせずテストに集中できる」という効果もあったそうです。

・「アバターでの始業式出席、Teamsとのコンビネーション利用で参加一体感増大~つながる森川実践編~」沖縄県立森川特別支援学校

Teamsと、2台の「kubi」を活用し、院内から生徒が始業式に参加。院内の生徒だけでなく、本校の生徒のお互いが身近に感じることができました。

・「アバター de つながる!遊べる!楽しめる!」和歌山県立みはま支援学校

文化祭などのイベントに、「kubi」や「temi」でリアルタイム参加。自走式の「temi」を使うことで、会場内を移動し、他校の児童生徒の作品をじっくり鑑賞することができました。

・「テレロボにより病室からの販売会受付係を実現」千葉県立四街道特別支援学校

高等部の生徒が、病室から「kubi」を使って販売会の受付を行いました。「kubi」は軽くてコンパクトなため、使う場所を選ばない点も利点だったそうです。

【課外学習】

・「テレロボでコンビニ見学」埼玉県立けやき特別支援学校

生徒から「コンビニの裏側見学と買い物体験をしたい」という要望を受け、360度カメラ「RICOH THETA」と「temi」を使って実施し、主体的な学びにもつながりました。

【健康管理】

「temi 保健室に行ってきて」鳥取県立鳥取養護学校

生徒が大好きな「temi」を使い、保健室に健康観察カードを届けてもらいました。養護教諭とのコミュニケーションを図るのにも役立っており、生徒の楽しんでいる様子が伝えられました。

【交流】

「笑顔の花が咲く、テレロボで『あっち向いてホイ』」長野県若槻養護学校

「kubi」を介しての「あっち向いてホイ」を通じて、楽しみながらコミュニケーションを取り、人とつながるきっかけを作っていくことを目指しました。

【その他学校生活】

「リモート図書館 ~自走式アバターで図書館を自由に動いて好きな本を借りよう~」京都市立桃陽総合支援学校

「temi」と「kubi」を使った図書館貸し出しシステムを実践したところ、貸し出し冊数が格段に増え、主体的な取り組みになり、児童も意欲的になったそうです。

各学校の先生の工夫が込められた9つの成功実例

■メタバース空間を使った学校自慢や作品展示を実践

発表会の後半では、ニューメディア開発協会の林充宏が登壇し、共同プロジェクトのひとつとして進めているメタバース活用の最新状況を報告しました。

この活動は、メタバース上に各学校の自慢や児童生徒の作品を展示できる「学校島メタバース」を作り、アバターで参加できるというもので、モニター校の協力のもと、118点の作品が展示されています。林は、「特別支援学校におけるメタバース活用で、これだけの規模のものは、国内外でほぼないという評価をいただいている」と話し、大きな注目を集めていることを伝えました。

学校島メタバースの様子

学校島メタバースでは、ワープセンターを経由して、各学校の「先生学校自慢島」や「子ども宝物自慢展示」などへ、自由に行き来が可能になっています。秋田県立秋田きらり支援学校では、生徒によるクイズ大会などが行われ、子どもたちがメタバース空間を楽しんでいる様子も紹介されました。

また、参加した先生からは、「コロナ禍もあり、ここ2~3年はなかなか病弱教育のことを学んだり話したりする機会がなかった。そんな中、他校の先生と、実践的な話をメタバースサロンで話したり、メタバース空間で他校の児童生徒の作品を鑑賞したりすることができた」といった感想も寄せられました。
 林は「最終的には電子とリアルを分けるのではなく、融合させることが重要」と話し、来年以降も引き続き、プロジェクトを継続していくことを報告しました。

■まとめ
「病弱教育では、情報を共有し仲間を増やしていくことがカギになる」

 最後に、京都女子大学教授の滝川国芳氏から、このプロジェクトの総評がありました。
滝川氏は、まず「病弱教育の一番の大事な点は情報共有」とし、「全国の先生が手を組んで取り組む、仲間を増やして一緒に考える」ことの大切さを訴え、このプロジェクトで実現していくことへの期待感を伝えました。
また、「子どもたちが積極的に関わるために、各学校の先生方が事前準備や工夫を行っていた」と、各学校の取り組みを高く評価しました。そして、「子どものニーズを一番身近で感じているのは学校の先生。今日の話の中にもあったが、ICTが先にあるのではなく、ツールや教材としてあるということを、もう一度みんなで考えながら、これからも続けてやっていきたい」と呼びかけ、総評をまとめました。

なお、当プロジェクトは来年度も継続します。2023年度は、これまでの体制も含めて進化させ、より笑顔の子どもたちを増やしていきたいと思っております。成果は発表会などの形でご報告し、皆様と共有していきますので、引き続きご支援をよろしくお願いいたします。

■共同事業に関するお問い合わせ

一般財団法人ニューメディア開発協会 新情報技術企画グループ
担当 平出、林 NMDA-SJG@nmda.or.jp

※共同事業や今回の事例に関するご意見・ご質問等は、上記のニューメディア開発協会までお願いいたします。各学校へのお問い合わせはご遠慮ください。

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