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【インタビュー(3)】平野成美さん(多文化コーディネーター) 〜「外の世界」と子どもたちを繋げたい

*マスクをしていない写真は全てコロナ禍以前に撮影

▼1. 日常編 2. 立志編 3. 未来編

【未来編】

これまで、なるみさんの現在と過去のお話をお聞きしてきました。今回は最終回として、なるみさんの将来についてお聞きしたいと思います。

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―これまでの多文化コーディネーターの仕事を通じて、嬉しかったことはありますか?

小学生でタイから日本に来た生徒との思い出です。
当時、日本語は話せず、タイ語しか話せませんでした。
私もタイ語はわからないので、身ぶり手ぶりでコミュニケーションを取るしかなくて。

最初のうちは泣いちゃったり、帰りたそうにしてたり。
私は「大丈夫だよ、ここにいていいんだよ」というメッセージを伝え続けました。

そんな大げさなことをしたわけではなく、例えば絵を描いて「これ好き?」と身ぶりで聞いて。
好きなものがわかったら、次はそれに関連した絵を描いて、また聞いていく…とか、その程度だったんですが。

そんなことを続けていたある日、お昼の休憩時間のことです。
うちの教室はどこでお昼ご飯を食べてもいいんですが、その子が自分の横を指して、「ここで食べてよ」と合図してきたんです。
「ここにいていいんだよ」という私のメッセージが伝わって、その子からも私の場所を示してくれたように思えて、嬉しかったです。

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―それは感動しますね。逆に大変だったエピソードはありますか?

そうですね、やはり海外ルーツの方々がコミュニケーション不足で困っていることに接する時でしょうか。

例えば、普通学級から特別支援学級への選択が、保護者が十分な情報を得られないままなされていたケースがありました。

その海外ルーツの保護者には「手厚く指導できますよ」とか、「ゆっくり自分のペースで勉強できます」などの一面的な情報しか伝わっていませんでした。特別支援学級への変更後、再び普通学級に戻ることが可能か、また進路選択でどのような違いが出てくるのかなども含めて、十分な情報を得たうえで判断できていなかったことが気になりました。

ただ、学校や家庭の事情もさまざまなので、どの程度までこちらが進路について提案すべきかなど、悩むことも多いです。

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―それは難しい問題ですね。
必要な支援や情報が十分に行き届いていない中で、海外ルーツの方々はどうやってYSCグローバル・スクールのことを知るんですか?

海外ルーツの子どもの保護者間の口コミや、学校の先生が繋げてくださったりするケースが多いです。教育委員会・市役所・国際交流協会などからご紹介いただくこともあります。

最近では、家族に日本語が母語だったり、かなり読み書きできたりする人がいて、ネット検索してホームページから問い合わせをくださるケースも増えてきました。

―今後、なるみさんはどのような活動をしていきたいですか?

私が繋がっている外の世界が、子どもたちがいま繋がれる世界でもあるので、外の世界とのつながりを広げていきたいなと思っています。

例えば、このスクールで初期に出会った子どもたちが、大学に進学したり就職したりするような年齢になっているんですよ。

このまえ卒業生から電話があって、「仕事するの楽しいよ」って言うんですね。
「YSCにいた頃は勉強もよくわからなかったけど、今は仕事が楽しい。業者から委託を受けて仕事をしてて…。あ、先生、『委託』って意味わかる?」だって(笑)。

卒業生の姿って、今の子どもたちの「少し先の未来」なんですよね。
そうした卒業生の言葉って、私たち大人からの言葉とはまた違った意味を持つと思うので、今スクールに通っている生徒たちと卒業生とが何らかの形で出会ったり、話したりできる機会を作れたらと考えています。

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―子どもたちのことをもっと理解するために、我々は何ができますか?

コロナ禍では難しいかもしれませんが、「定期的にあえて『アウェー』な場所に行ってみる」ことですかね。

大学生時代にボランティア活動しているとき、ブラジル人コミュニティのパーティーに誘われたんです。行くのを迷っていたら、教官に「ぜひ行くべきだ」と言われて。
行ってみたら歓迎はしてくれたんですが、なんだか自分が場違いな感じがして…(笑)。

早く帰りたいなあと思ってしまったのですが、きっと今、そんなふうに毎日感じている海外ルーツの子どもが、日本のあちこちにいるはずなんですよね。

時々アウェーな空間に身を置くことで、その気持ちを少しでも想像できるように努めてみてはどうでしょうか。

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―なるほど。最後に、今これを読んでくださっている読者の方には何を伝えたいですか?

海外ルーツの子どもたちを取り巻く課題があるということを、まず知ってほしいです。
そして、必要なサポート環境が整えば、輝ける子どもたちだということも。

理想を言えば、学校だけでなく、各都道府県に数カ所、誰でも学べる日本語教育の専門機関が公共の予算で運営されていて、必要な子ども全員が対面やオンラインで学べるようになったらいいのかなと思っています。
今はまだ、どの都道府県の、どの市区町村に住むかで教育環境が大きく違ってしまいますが、それでは不公平だと思うんです。
たまたま当スクールに通える子どもたちだけがラッキー、ではあってほしくないな、と。
そうした環境を整備するにはどうすれば良いのか、一緒に考えてもらえたら嬉しいです。

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それから、どうしたらより多くの人がこの問題に関心を寄せてくれるのかは日々悩んでいます。やはり「出会い」なのかなとも思うんですが…。

私の場合、困っている子どもや大人と接した体験があって、その人たちの顔が浮かぶことが、この活動への原動力になっているんですね。
「何かしたい」と思っている方はたくさんいると感じるので、もう一歩踏み出せるようなきっかけ作りができたらなと思います。

そのためにも、子どもたち自身が発信できる機会をこれから増やしていきたいです。
スクールでの様子が垣間見られるTikTokも始めました。

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なるみさんは自然体で、「困っている人がいるから助けたい」と行動に移すことができる素敵な女性でした。
「信頼できる大人になりたい」という言葉も印象的でした。きっとこれからも、海外ルーツの子供たちの居場所になってくれることでしょう。

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構成・執筆:住友商事プロボノチーム
編集:青少年自立援助センター YSCグローバル・スクール
写真:森佑一

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