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肩胛骨は翼のなごり

 宮崎駿氏が絶賛だから読む、ということではないけれど、
読み終えた後、好きだろうな、宮崎駿氏が読み終えた時の表情もなぜか想像することができた。
 これはすごくいいの。もしまだ読んでなかったらぜひ読んでと読書友達に勧められた。出会うのを待っててくれたんだね、ありがとうと本に言いたい。


肩胛骨は翼のなごり
デヴィット・アーモンド 
山田順子訳
東京創元社

 まずね、東京創元社さんの出す児童文学、実はすごく好き。
ここは割と、出してくれてありがとう!という本が多い。

 

書誌情報は↑で。

 お父さんとお母さんと主人公のマイケルは古くて、そしてかなりくたびれてる、いや少々?汚い?簡単に言えばちょっとしたいわくつきの家に引っ越すところから物語は始まる。
 お母さんは出産間近で、かなり手をいれないと、ある意味、清潔で子育てに向いている家の環境ではないところでの出産と新たな生命の子育てに不安を感じているのではと思う。それはその通り、けど大方がそうであるように、お父さんの方はそこまで不安には思っていない。
 手をたくさんいれないといけない家だけれど、どこか手を加えて整えていくことにロマンさえ感じているのではと想像させられる。
(なんとそこに住んでいた元家主のアーニーじいさんは、かなり老人で身近に全てを終わらせようとしていたのかベッドと便器をなんとダイニングに置いて生活をしていた。便器下のには床に丸い穴をあけて!!)
 アーニーじいさんの家のは、不動産屋が”ガレージ”と呼ぶボロ小屋があった。なんにでも興味を持っている男の子なら誰でも覗くだろう。いくら危険と言われても…。
はたしてそこに入ってマイケルが目にしたものは、横たわる男の人。
 男の人はなにが望みだとマイケルに問う。生臭い域とアオバエを食べて生きている感じ。なにか欲しいものがあるかとマイケルが訊ねると、欲しいのはアスピリンと「27と53」と答える。

 ここから、マイケルと生まれて死にそうになってしまっている赤ん坊と、学校へ行かず、お母さんに勉強を教えてもらって一日過ごしている、縛られない生き方をしているミナ、そして、このガレージの男との交わる不思議なでも、とても確かな時間が始まる。

 読んでいた好きな登場人物はミナとミナのお母さん。
肩胛骨は翼の名残りだと話すお母さん。お父さんも好き。
あと数少ない場面だけどお医者さまも好き。

 お医者さまとマイケルが後半で会話するウィリアム・ブレイクの詩のシーンなど最高にいい。
ミナとマイケルのシーン、この二人と男のシーンも。どれをとっても不必要なページがないほど完璧に作られていた。

本書では ウィリアム・ブレイクの詩がいくつか登場する。

 本書60pにマイケルにこう話すシーンがある
「学校教育がどんなにあんたを損なっているか、よくわかるわね。
わたしは絵を描き、色を塗り、本を読み、観察しているところ。お陽さまと空気を肌で感じとっているところ。ブラックバードの声に聞きいってるところ。自分の心を開いているところ。ハッ!学校なんて!」

さて、なぜミナがマイケルにこう返答することになったのか。
興味深くない?

このあとミナはウィリアム・ブレイクの詩を読む

その詩とは「The School Boy」 
ぜひ詩集を探してみてください。

男の名前、その正体。
赤ん坊のシーン。そしてつけられる名前。

妙にねじれず素直な描写だと称した宮崎氏の言葉通り。
するすると読め、まるでマイケルやミナがご近所さんに思える不思議。

わたしたち大人が忘れてはいけないあの時を思い出す一冊です。



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