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1人酒場飯ーその40「町中華とは鑑である、神田の町中華酒場」

ここ最近、ふと思ったことがある。

『町中華』という言葉が流行りだしたのは過去の事だったか、それとも前からあったジャンルが大衆化して一般知識として染みついていたものが再発見されたのか、はたまた昔ながらのものを今風に言い直して流行らせたのか・・・とにもかくにも分からないがここ最近、静かな注目を浴びているのは確かである。

昔懐かしい街の中華屋さんの暖簾を潜れば、まるでそこは時代の波から取り残されたような孤島のような空間。

綺麗というか何というか、ぼんやりと広がる昔を刻んだ壁に赤いカウンター。TVから流れる野球中継。何故か中華なのに置いてある洋食メニューっぽいものを注文し、和気藹々と酒を呑む一団の一方で、静かにラーメンをすする常連客のいる摩訶不思議な世界。そこは人生が重なり合う人生の縮図だ。

そして、現在『町中華』は若者達も誘い、新たな文化として花開いている。日本で独特に進化しているのに、中華の味を伝承しているお店も多い。

安さと味と、心の底からの娯楽感が町っぽいに違いない、いや、絶対にそうだ。そうなんだ。東京だけじゃないぞ、日本各地に散らばっているんだぞ、これは俺達の、庶民の古城なんだ。

そんな時代を生き抜いてきた町中華の中で僕が出会った町中華で思い出深い味がある。

その時、僕は社会人になりたての時だった。町中華という言葉も知らない青二才は好きな芸人のライブで思いっきり笑って胃袋をすり減らしていた。

JR神田駅北口の呑み屋が集う路地の奥まった場所にひそっと大きな赤い看板とゆらりと光る赤提灯。ツキがある、紅い看板の文字は『ツル』と『カメ』で『鶴亀』。縁起よし、存在感良し。

すっかり誘われてしまい、透明なガラス越しに店をふっと覗けば厨房を真ん前で見ることが出来るカウンターとサラリーマンが集うテーブル席が何席もあり、吹き抜けた広い店内と感じる熱気にまたワクワクしてしまった。

 大衆食堂な町中華居酒屋、これがまたいいのだよ。この響きが。僕が陣取ったのは確か入口直ぐのカウンターを一望できる隅の席だったはずだ。鮮明に中華鍋が揺れ、炎が躍る場面が目に浮かんでくる。

 頭に残った味。それはビールを片手に味わった落花生。それはただの落花生、つまるところピーナッツではなく、店で手作りした特別な一品だった。まさか町中華で一番最初に強烈な一撃を貰ったのがピーナツとは恐れ入った。

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実に皮目は香ばしく、身もつまみにはちょうどいい。絶妙な塩気と奥に香る中華ならではの薬味の香りを楽しみながら、その余韻をビールで流す。感じるのは手間と光る技術。この1つで期待は跳ね上がっていった。

ピーナツとビールで喉の準備を整えたら、お次は町中華たる皿を頼もうじゃないか。何品か注文した中でも2品の記憶は今でも新しい。

鳥を美味く食べる中華の大定番、棒棒鶏とシンプルこそ我が王道、モヤシ炒めだ。棒棒鶏は細く切るんじゃない、豪快に柔らかい大ぶりな肉をざく切りにしている一皿。この柔らかい鶏肉とタレが合う。万々歳の美味さ。

何といってもモヤシ炒めは手早さが命だ。具材は変化球ではなくニラともやしの二枚だけ。火をどれだけうまく通し、食感を活かしきるが鍵だ。シンプル故に王道、王道故に奥深し。

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すぐに姿を見せたもやし炒めは白と緑が鮮やかに、艶やかに映える。シャキッとした歯応えと香ばしさはやはり火力と鉄がかけた魔法だ。実に大衆の極みって感じだった。

何より満足なのはそのあとだ。全てで5品、6品食べても3000円以下のお手軽な金額で胃袋を満たせるのは大衆食堂の極みだ。

大衆文化の極み、町中華。まだまだ懐は深いだろうよ。

今回のお店
鶴亀(本店)
住所 東京都千代田区内神田3-21-2
お問い合わせ番号 03—3251-0552
定休日 日曜 祝日
営業時間 月~金 16時~24時
     土   16時~22時


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