友達になったきっかけ
僕が小学校に上がって間もない頃の日曜日、
その日は一日中雨が降っていた。
だから僕は買ったばかりの傘を持って友達と公園を駆け回っていた。
そして夕方、自宅に帰るなり母が玄関に駆け寄ってきた。その表情は不安と焦りと、他にもいくつもの感情が交錯している様子だった。
(もしかして、雨の中公園を駆け回ったせいで泥だらけになった服を見たから?これから怒られるのか…)
半ば観念して謝ろうとしたとき、
「あんた、4年◯組のN君のこと知ってる?」
突然そんなことを聞かれて、ちょっと意味がわからなかった。
「えっ?遊んだことはあるけど、、、」
本当にその程度だった。「どうしたの?」と母に聞いたら、
「N君がさっき電車に撥ねられたって…輸血のための血が必要だから、N君と同じ血液型の子がいたら教えて欲しいって。」
生憎、我が家にはN君と血液型が合わなかった。
N君は雨の降る日曜日の午後、線路を渡った先にある友達の家に遊びに行くときに、
買ったばかりのファミコンが雨に濡れないように抱えながら、学校で指定の黄色の傘をさして出かけた。
外は雨足が強く、車の音や人々が行き交う音は雨が地面を打つ音によって掻き消された。その音は遮断機の警報音すら掻き消していたのかもしれない。
N君はファミコンをお腹に抱えて、黄色の傘でそれが濡れないよう前に傾けて足元に視界と音を頼りに歩き、線路に差し掛かった。
N君は遮断機のないところを選んで、線路へ進入した。
そのとき、たまたま通過した電車に跳ねられてしまった。
その日の深夜にN君は亡くなった。
それから8年経ち、僕は中学3年になっていた。
修学旅行で訪れた京都のホテルで、僕たちのクラスの部屋では23時から怪談大会をはじめた。
各自が持ち寄った不思議な話を披露した。僕は転校生で、クラスは知らない人ばかりだったから、みんなの話を新鮮だった。
その中でKという人が叔母が体験した不思議な出来事を話していた。
叔母は昔から霊感があり、霊を見るだけでなく話しかけられたりもする体質らしい。その叔母が買い物で訪れた街で踏切を渡っている時に、突然足を引っ張られる感じがした。
足元に目をやると足首を子供の手が掴んでいた。そして地面から子供の顔が浮かび上がってきて、
「ねぇ、寂しいから、一緒に来て」
と言っていた。
叔母はこの少年が地縛霊で、寂しさから自分を引き込もうとしていると感じ、
「あなたとは一緒に居られない」
と冷たくあしらっていたけれど、足首を掴む少年の手はより力がこもり、叔母は踏切から抜け出せない。
そしてとうとう電車がやってきて、叔母は跳ねられそうになったところで電車が緊急停止。
すると少年は「ちぇっ」と言って消えていった。
叔母は電車を緊急停止させた理由が、地縛霊の仕業だと説明しても理解されず、鉄道会社から厳しく叱られた、と。
この話を聞いてみんな
「ありえん、作り話やろ?」
と言っていた。
けれど僕には心当たりがあった。
それは8年前にそこで亡くなったN君。
後でKの叔母に確認してもらったところ、特徴が類似していた。
でも不思議だったのは「寂しい」と言っていること。
そこで幼馴染に連絡して聞いたところ、少年が亡くなった後、家族は少年との思い出の詰まったこの街、そして少年が亡くなったこの街に住んでいるのが辛いという理由で、遠くへ引っ越してしまっていた。
今も彼はその踏切で一緒に居てくれる人を求めているのだろうか?
Kとは修学旅行での出来事を機に友達になり、中学卒業して別々の高校へ進学しても友情は続いている。
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