行ってはいけない
僕は心霊現象が苦手だから、肝試しは無理だ。
そうなったのも、昔住んでいたマンションでの不可解な体験からだ。
そのうちの一つはこの前話した通り。
本当にたくさんあって、それらはいずれお話ししようと思ってます。
けれど、
その中には人に伝えている最中に嘔吐してしまったこともあるほど強烈な話もあるので、
慎重に、言葉を選んで話そうと思う。
そんなわけで肝試しは絶対に行かないようにしている。
でも、たまたま通過しているところが心霊地帯だったことでエライ目にあったことが何回かある。
その中で絶対にいきたくない場所がある。
1.千駄ヶ谷トンネル
ここへ初めて行ったのは、大学4年のこと。
ある大手飲料メーカーの就職説明会がこの近くの会館で行われるため、前日に下見に行った。
僕は方向音痴で、大学受験の際に迷子になって受験出来なかったという悲惨な経験をしていたので、初見の場所には事前に下見に行くようにしている。
就職説明会の前日の昼間に、僕は千駄ヶ谷駅で降りて会場へ向かって歩き出した。
就職説明会の開催通知に書かれてある地図は「丼」に似たデザインだった。
それじゃあわからないから、駅前の地図に照らし合わせて確認してみたら、何となくわかってきた。
「こっちだ!」
と言って振り返って歩き出したら、早速道を間違えた…
駅から5分もかからないはずなのに、ずっと彷徨い歩いていた。
「こんなに遠いなら、明日は相当早く家をでないと間に合わないかも…」
そんなことを呟きながら歩いていたらトンネルがみえてきた。
どうやらこのトンネルの先に会場があるようだ。
トンネルの入り口には
千駄ヶ谷トンネル
と書いてあった。
さほど長いトンネルじゃないし、車の交通量は多いわけじゃなさそうだから、排ガスを浴び続けるわけじゃないから、とりあえずこのトンネルを通ることにしよう。
そして僕は千駄ヶ谷トンネルに入った。
トンネルは薄暗いけれど、就職説明会の開催通知に書かれた地図や住所は読むことができる。
僕はそれを読みながらトンネルの中を歩いていた。
トンネルを入って中盤に差し掛かった辺りから、突然、腰から背中にかけて重みを感じ、さらに足腰の力が抜けていくような感覚を覚えた。
最初は気のせいだと思っていたけれど、明らかにいつもと違う、慣れない感覚に襲われている。
歩いているつもりなのに、足の力が抜けていく感覚のせいか、腰や背中に乗りかかるような重みのせいか、全然前に進まなくなってきた。
そして身軽にしているのに開催通知を持つ手すら重くなってきた。
(つらい…)
気持ちが重苦しくて、思考がネガティブな方に傾いていく
(助けて、つらい…悲しい…)
トンネルの出口が見えているのに、そして前へ進もうとしているのに全然辿り着かない。
(もうダメだ…)
そう思った瞬間に、膝が地面に着いてしまった。とっさに両手を地面についたけど、力が抜け切っていたせいでパンツの膝が擦り切れて、膝と掌から出血した。
立ちあがろうとしているのに、力が入らない。
(死にたい…)
もうそんな感情に襲われていた。その時、突然背中を
バンッと叩かれた。
大丈夫か??
振り返るとスーツを着た30代くらいの男の人が話しかけてきた。
歩けるか?
そう言って、僕を抱き起こして
「肩に捕まりなさい。」
と言って僕を抱えてトンネルの外に連れ出してくれた。
トンネルの出口までほんの数メートルだったけど、僕にとっては物凄く遠く感じた。
しかし、その人のお陰で出口までの数メートルが本当に近いものに感じられた。
「ありがとうございます」
トンネルを出るとみるみると力が戻ってくる感じがした。
男の人はトンネルの中で突然倒れた僕をみて、思わず車を急停車して僕を助けてくれたようだ。
トンネルには無造作にとめられた白い営業車があった。
僕はその人の背中めがけて何度も頭を下げた。
数日後、テレビの心霊特番を観ていたら見覚えのあるトンネルが出てきた。
〜最恐 心霊トンネル〜
として千駄ヶ谷トンネルを紹介していたのだ!
それを観て思わず腰が抜けた。
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