とっつぁん
高校時代の友達に
殺人マシン
との異名を持つ小田っち(仮名)がいた。
彼はとにかく喧嘩が強かった。実践空手を含めていくつかの格闘技を習っていて、全国大会で上位に入賞するほどの実力者だった。
彼は普段は温厚だけど、喧嘩を売られると必ず買うし引かない。そして必ず相手を倒すのだが、表情一つ変えずに、スマートに倒すから汗をかくこともない。
小田っちは元々「殺人マシン」という異名を持っていたわけではない。小田っちに「殺人マシン」の異名がついたのはあるきっかけだった。
そんな僕らが通う学校は学年の1/3近くがヤンキーで、近隣でも有名だった。
その中には「狂犬」と呼ばれる危険な生徒が居た。彼は授業中だろうと気に入らないヤツを連れ出してボコボコにシメてしまう。しかも誰に対しても容赦なくシメてしまうから、「狂犬」と呼ばれるようになったのだが、彼はそう呼ばれていることに満足していた。
だから、彼の仲間は狂犬を怒らせないように機嫌取りをしながら、外では「俺を怒らせたら狂犬が来るゾ!」と息巻いていた。
高校2年の秋に事件が起きた。
僕と小田っちがふざけながら廊下を歩いていたら、小田っちの肩が廊下の反対側を歩く生徒にぶつかった。
「き、狂犬…」
一瞬、僕は震え上がった。
「てめぇ、何してんや?殺されてぇのか?謝れよ!」
狂犬とその愉快な仲間3人がいきなり戦闘モード全開で、イキってきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
咄嗟に僕と小田っちの分を含めて2度謝った。すると狂犬は刺すような視線を小田君に向けた。
「おぉ、小田!テメェも詫びろ!土下座して
謝れや」
小田っちはそれに対して、狂犬に顔を近づけて言った。
「はぁ?そんなもんしねぇよ!」
狂犬の目つきが更に鋭くなった。
「死んだゾ、テメェ!」
狂犬が小田っちの胸ぐらを掴んだ
「やっちゃえ狂犬!」
愉快な仲間たちは狂犬を煽る。そのときの奴等を今でも思い出す。周りから怖がられていきがってた狂犬の仲間たちは、狂犬の前ではチワワに見えた。
小田っちの胸ぐらを掴んだ狂犬は、力任せに引っ張った。すると流石の小田っちも大きく引っ張られた…と思ったらその勢いに合わせて狂犬の顎めがけて肘打ちをくらわした。
バコッ‼️
という衝撃音とともに狂犬が膝から崩れた。そして崩れる狂犬に合わせて頭を両手で抱えると、右膝を狂犬の顔面に打ち込んだ。
ガンッ‼️
顔面に膝蹴りをモロに喰らった狂犬は口や鼻から血を流して突っ伏した。
「ひゃぁ!」
狂犬の愉快な仲間たちの表情が真っ青になった。表情一つ変えずに狂犬を倒した小田っちはその日以来、
「殺人マシン」
と呼ばれるようになった。
そして狂犬は小田っちを見つけると「兄貴」と呼んで頼るようになった。
小田っちが殺人マシンと呼ばれるようになっても、小田っちは小田っちだった。
ただ、生徒だけでなく先生もみんなが小田っちを怖がるようになった。
そんなある日の5時間目にあった英語の授業中、小田っちこと殺人マシンは寝ていた。
小田っちは昼ご飯を食べると眠気に勝てない。午後の授業で彼が起きていたのを見たことがない。
この日もいつものように寝ていた。先生も小田っちをそっとしていた。
すると突然、小田っちが
「ルパぁ〜ん‼️」
と叫んだ。一瞬、教室の中の時間が止まった。同じクラスの狂犬も息を飲んだ。
黒板には筆記体で書かれたワードが途中でアホな方向にはじけていた。多分突然の叫び声に教師が驚き、チョークが折れたのだろう。
そして先生が振り返ったときに、僕ら生徒も我に返って小田っちをみた。
小田っちは難しそうな表情をして寝ているけれど、
「絶対に捕まえてやるからな…ムニャムニャムニャムニャ」
と寝言を言っていた。
この日から小田っちは
殺人マシン
から
とっつぁん
の異名を持つようになった。そして小田っちは、自分が何故「とっつぁん」と呼ばれていたのかを教えてもらえないまま、高校を卒業した。
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