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【レポート】香露の会で9号酵母の神髄を余すことなく体感する!

    今回の記事は日本酒会のレポートです。
    香露の会です!


開催までに

    主宰はTwitterで知り合っているあろすさん。丁度先週の6月23日(土)に開催しました。
    開催の諸々については色々協議した結果なんですが、まぁそれはいいでしょう。
    不肖ながら、香露は飲んだような飲んでないようなといった良く覚えていない体であり、実質的に初めて飲むようなもの。なので一番最初に手を挙げたのは僕でした。しかし理想的なアテを用意できる筈もなく、あろすさんのアドバイスを受け駅前のデパ地下でアテを調達することに。

僕を除く3名。どこで誰が立っているかは申しません

    開催場所は僕のお家です。これもかなり迷った上での決定でした。あろすさんとは比較的近所に住んでいたこともあり、かつ開催する立地としてそれなりに行きやすい場所のため僕が場所を提供することにしました。
    あろすさん、僕を含め参加者は4名でした。写真は誰が誰なのかも敢えて申しません(苦笑)

瓶の色以外に緑が少なかったので助かった……

    アテは持ち寄ってきた方もいたのでそちらもありがたくいただきました。ぬか漬けも美味しゅうございました。

見たまえ諸君、この鮮やかな蘇芳色を
   
専用のタレと塩ゴマ油で。生姜を入れるのは甘え。

    また、事前にあろすさんは生の馬刺しを用意してくれましたね。滅多に食べることの無い代物……胸が高まります。

こう並ぶと壮観だよなぁ。

   さて、香露は熊本県酒造研究所様による日本酒。研究所の体裁なんですよね。ただ、香露の会の酒紹介の前にその前に香露とは何かの説明を軽くさせて頂きます。


香露とは?



    僕が思うに、香露とは熊本の日本酒そのものなのだと思います。
    そもそも、熊本は赤酒と呼ばれる酒が多く作られてきました。赤酒とは、米を発酵させるまでは清酒と変わりませんが、もろみの段階で酸化を防ぐための木灰を入れる違いがあります。

瑞鷹株式会社様より引用。やっぱり赤いよね。


    上の画像通り、いや名前通り、赤い色合いが特徴の酒です。現在でも熊本の酒蔵では広く造られており、お屠蘇では定番みたいですね。
    熊本藩といえば熊本城を築いた加藤清正ですが、彼が朝鮮半島より伝わったとされる技術を用いて作らせた赤酒を豊臣秀吉に献上したこともあり、熊本藩では赤酒が藩の奨励品として保護されてきました。同時に、赤酒以外の他藩で作られた酒は「旅酒」と呼ばれ禁止されていたとか。
    しかし時は流れ明治時代になると、西南戦争が原因で熊本の産業は大きく痛手を負うこととなりました。これを機に県外から清酒が大量に入るようになり、それが受け入れられるようになると、自然と熊本県は赤酒から清酒へと転換を余儀なくされました。ですがこれまで赤酒しか造ったことのない熊本県は、清酒造りに苦心することとなります。
    明治36年(1903)、この頃、野白金一という人物が若干29歳の若さで熊本局鑑定部長に就任しました。この野白氏が熊本県の清酒業界を改革するため熊本各地を回ることとなり、熊本の清酒の品質向上に貢献することとなります。
    そのさまは「赤酒退治」と呼べるものであったそうで、「赤酒を造る蔵で、赤酒を造る杜氏が清酒を造っても、熊本の清酒は進歩しない」と説いて酒蔵を巡っていたそうです。
    明治42年(1909)、熊本県内の酒造組合で株式会社熊本県酒造研究所という法人を立ち上げ、野白氏がその初代技師長に就任。新しく自社の清酒の銘柄名を県内から公募することとなります。かくして清酒『香露』が誕生することとなるのです。
   
野白氏はのちに熊本酵母(香露酵母)と呼ばれるきょうかい9号酵母を世に出し、やがてこれは鑑評会などでは「YK35」(註:山田錦のY、熊本酵母または香露酵母のK、35%精米の35を合わせた言葉)を構成する要素として清酒業界で一世を風靡しました。他、麹室の空気を換気するための野白式天窓、醪を入れた袋を吊り下げて圧を入れずに酒を搾る袋吊り法(または首吊り法)、現在のサーマルタンクの原形となった二重桶方式を発明するなど清酒業界に多大な功績を残しています。ここまで来ると、「酒の神様」と讃えられるのもむべなるかな。
    以上のことから、熊本県の日本酒の歴史、発展、協力、その全てがこの香露に詰まっていると言って過言では無いのです。   


香露の会酒感想。

    では、以上を踏まえて実飲と参りましょう!

レトロな雰囲気のラベルに野白先生が右下に

野白金一先生 熊本県近代文化功労者顕彰記念 雫取り大吟醸
    吟醸香。リンゴ系の香りが華やかに。香りにレモングラス系の要素もあるか?
    旨みの方が勝るか。ただし全体的に味は淡い印象。引っ掛かりが無く、滑らかな舌触り。
    酸味は控えめ。アル感で切れる。余韻にも爽やかなハーブ感。


顕彰酒だけあり、野白氏の赫奕たる事績が記されています

    結論としてはこの野白先生大吟醸が抜きん出て美味しかったですね。これは参加者の皆様も同じ意見でした。
    部屋の空気が変わるかのように華やぐ吟醸香、リンゴを思わせる香りに、余韻に至るまでハーブの香り……徹頭徹尾いい香りが支配する酒でした。引っ掛かりのない舌触りと寸分足りとも隙がありません。
    雫取りとは自然に滴り落ちた雫を取ったものという意味。先程も述べた通り野白氏が発明した袋吊りよるものでもあり、顧みるに「野白先生、ありがとうございます!」と頭が下がるようなお酒でした。
    
    続いて参りましょう!

大吟醸で角瓶は珍しいよなぁ

大吟醸
    青リンゴ、メロン系の香りが華やかに。
    舌触りは滑らか。乳酸の味わい。甘味より旨みの方が若干強め。苦味はほぼ皆無。アル感で切れる。後味にハーブ。
    実は乾杯酒はこちらでした。レマコムでキンキンに冷えた段階でも結構上立香が立っており、温度が上がるにつれより顕著になっていきました。余韻にカカオっぽさもあり、熟成していくとチョコレートにそのうちなるのかな?とも思いましたね。

こちらはブルゴーニュ型の瓶。蔵元近くの風景かしら?

純米大吟醸
    赤りんごの香りが華やかに。
    甘味強め。旨味は甘味より控えめ。苦味も同じく控えめ。
    ですが酸味は強めで、プラム的な酸味が出ています。大吟醸と比較して、酸味が全体的に目立ったのかな?と思う一品でした。大吟醸と比較して、今どきの酒といった風情があります。

「玖」は漢字で9という意味。9号酵母だもんね。

    さて、ここからは熟成の具合も確かめて参ります。特別純米酒です!

特別純米酒(2022、右)
    米感。麹感のある香り。
    旨味が乗る。舌触りは滑らか。
     酸味は控えめだが、嚥下すると響きやすい。藁のような跳ね返り。

特別純米酒(2020、左)
    紹興酒の香り。香りは穏やか。
    甘味より旨味強め。酸味は穏やか。アル感で切れる。

    全体的に旨味が乗った食中酒タイプで、どの温度帯でも楽しめる余地があります。バランスは2022のほうがいいのかもしれませんが、熟成させるとより香りが紹興酒や醤油を思わせるものとなり、面白さがましてきます。

真ん中微妙に色が違うよなぁやっぱ

    続いて立春朝搾りです。立春朝搾りは毎年2月の立春の日に出てくる日本名門酒会様企画のお酒たち。

立春朝搾り(2022、右)
    涼やかな香り。リンゴ系か。
    甘味の方が旨味より強め。
    そこそこの酸味。ガス感はあるが柔らかい。あと渋味がある。

立春朝搾り(2021、中)
    熟した香り。 紹興酒感がある。リンゴ感も多少あるかな?
    旨味の方が甘味より強め。
    酸味は結構あるが、2022BYと比較して熟成を考慮してもこちらが強いか。ガス感も生きている。あと多少渋味。

立春朝搾り(2020、左)
    熟した香り。紹興酒感。黒糖、ブランデー。リンゴ感というかプラム感。
    麹感のある味わい。酸味は控えめ。多少ガス感の残滓もある。


    こちらは今年度から3年連続で垂直飲みしました。
    全体的にリンゴの果汁を思わせるような酸味がある酒ではありましたが、熟成させるとより個性が出てきます。
    生熟系なだけあり熟成酒好きが喜ぶ味でしたね。香りは熟成していましたが、深みのある甘味が生きていると言いますか。ただここで面白いのは、2020BYのに比べて2021BYのほうが相対的に熟成が進んでおり、かつ他に比べて酸味が強い傾向が見られたことですかね。酒質の違いが顕著に出た例です。


香露の文字は箔推し。闇の中でも銀色に輝くのだろう。

特別純米(2020BY)
    古酒の香り。カラメル、醤油。
    柔らかい旨味が広がります。甘味はそこそこで、酸味もあまりありません。
    飛び切り燗→ぬる燗のかたちで燗につけたら理想的にバランスになりましたね。酸味も柔らかく、程よく藁の含み香も覚えます。
    どうやら瓶詰めしてから更に寝かせたものみたいで、熟成前提で酒質が設定されているっぽいです。そしてこの酒は何より……

邪道を正道とするは酒の力なり

    バッテラに塩ゴマ油を付け、常温帯の特別純米で合わせると最高の組み合わせに!

    香露の熟成した味わいと塩ゴマ油のコクが融合し、鯖の風味と酢飯の酸味が味に立体感を齎し、独特の深みを演出しています。
    なお、僕が即席で試した組み合わせでした。バッテラに塩ゴマ油という組み合わせ自体そもそも有り得ませんし、ミスマッチに思えるでしょうからね。型に囚われないのが僕の日本酒スタイルです。



まとめと謝辞

    香露の会は大変充実した日本酒会となりました。改めて、当日我が家に来て下さった方々、ありがとうございます。
    香露は全体的に、どこか懐かしさというか、親しみやすさを覚える酒ではありました。香りの出し方も、上立ちのリンゴ香、含みのハーブ香と後を引く余韻があり、それでありながら苦味もあまりありません。大味になることもなく、中庸の味わいを演出しています。あろすさんがこの酒を基準に据えて日本酒を見ているそうですが、なんとなく頷ける話です。
    食中酒としても、熟成させて育てても面白く、飲み手がその酒をどう解釈するかで無限に楽しめるという意味では、懐の広さを覚えますね。

    日本酒の世界の深さをまたより一層知ることができました。改めまして、ご馳走様でした。
    


参考文献
株式会社熊本県酒造研究所HP


瑞鷹株式会社HP(画像も引用させて頂きました)

他、あろすさん提供の香露関連資料(諸事情につき非公開)

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