見出し画像

15: 逃げられない国の住人たち F

加藤隆弘(かとう・ たかひろ)
九州大学大学院医学研究院精神病態医学 准教授
(分子細胞研究室・グループ長)
九州大学病院 気分障害ひきこもり外来・主宰
医学博士・精神分析家

『みんなのひきこもり』(木立の文庫, 2020年)
『メンタルヘルスファーストエイド』(編著: 創元社, 2021年)
『精神分析と脳科学が出会ったら?』(日本評論社, 2022年)

いま私は、木立の文庫で刊行予定の原稿を執筆中です。
このnote連載が土台となっています。
題して『逃げるが勝ちと心得て――精神科医がすすめる「うつ卒」と幸せなひきこもりライフ』
★タイトル! 出版社と激論中!! 二転~三転~ワクワク展開になっています

前著『みんなのひきこもり』で試みた趣向を踏襲して、
巻頭で「にげられない」シーンのバリエーションをお示しします。

今回はその新シリーズの2回目となります!

☆『みんなのひきこもり』に引き続いて
 おがわさとしさん〔京都精華大学マンガ学部教授〕が
 私の原稿を読み込んで「ひとコマ漫画」として描いて下さっています!!

母親との絆

——30代後半の独身女性Fさん


〇 サラリーマンで酒癖の悪い父親とやさしい主婦の母の元で生まれ育ったFさん。両親が不仲で小学五年生の時に父親が突然姿を消し、以後、母と弟と三人暮らし。病弱であった母は、逃げた父に関して言及することは一切なく、Fさんもずっと父の秘密に触れられずにいましたが、母が時々夜中一人で泣いていることをFさんは知っていたのでした。

〇 母はパートをしながらかろうじてFさんを育て上げましたが、Fさんが高校を卒業して地場企業で働き始めたのを機に、憔悴しきった様子で仕事を辞めました。3歳年下の弟は障がいがあり就労が困難で、いまもFさんが一家の大黒柱として母と弟を支えています。

〇 結婚を考えた交際相手がいなかったわけではありませんが、母から「あなたが生きたいようにすればよいのよ!」と言われれば言われるほど、家庭を捨てるようで申し訳ないという気持ちが強まり、デートよりは家庭を優先する生活のため、交際自体が長続きしないというパターンが続いています。

――なぜFさんは原家族から逃げずに、献身的に、母親と弟のためにすべてを犠牲にしているのでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?