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幸せってなんだっけ?(青山拓央『幸福はなぜ哲学の問題になるのか』を読む)

ポン酢しょうゆのある家

幸せ」ってなんでしょうか?

そのシンプルだけど深い問いに、明石家さんま軽やかに答えていました。

♪幸せって何だっけ?何だっけ? ♪ポン酢しょうゆのある家さ ♪ポン酢しょうゆはキッコーマン

ただの醤油のCMソングのようですが、実は幸せの本質が含まれていると思うのです。

このCMが流れたのは1980年代というバブル全盛期。おなじテレビCMでもリゲインは「24時間戦えますか」と歌っていた時代です。

日本航空機墜落事故を便の変更で偶然免れ「生きてるだけで丸儲け」という名言を残した明石家さんま。彼が歌う「幸せって何だっけ?」は小学生だった私の胸にも響くものがありました。

ポン酢しょうゆのある家。それは家族で鍋をつつく習慣のある家。確かに幸せかもなあ、と(おそらく)多くの人が受け止めて、この歌はヒットしました。

さて、お立ち会い。明石家さんまが幸せはポン酢しょうゆのある家だと歌うのは良い。しかし「家族の団欒、それこそが幸せである」と言い切られるととどうでしょう。すごく気持ち悪いのではないでしょうか。暗にそういった家族を持ってないあなたは幸せではない、と人生を否定されているかのような。

そこで「いや、絶対的なものでない。人によるのだ」と言われてもなんだか腑に落ちない。だって自分も確かにポン酢しょうゆの家族に幸せの匂いを嗅いだのだから。

幸せをどう捉えるか

幸せは、定義されると気持ち悪い。そして、人それぞれだ、と言われても腑に落ちない。そんな性質を持っているようです。

幸せは、捉えにくい。それは、なぜか。

青山拓央『幸福はなぜ哲学の問題になるのか』幸福とは何かを、そしてなぜその問いに十全な答えがないのかを考えさせてくれる哲学の本です。上の問いに取り組む道筋を見せてくれました。

幸福についての問い

1.幸福とは何か?
2.いかにして幸福になるか?
3.なぜ幸福になるべきか?

幸福について少なくともこの3つを問うべきだと著者は言います。この3つの問いはつながりあっていて、どれかに答えようとすると他の問いにも答えることになります。

一番知りたいのは2の「いかにして幸福になるか?」ですが、そのためには1の「幸福とは何か?」が必要になり、「幸福とは何か」という問いに誠実に取り組むとそこだけで時間切れになるのが、これまでの歴史だそうです(明確に答えられてしまうと気持ち悪くなるのはポン酢しょうゆ問題で見たとおり)。近年の心理学はあえて1を不問にして2に取り組むことで成果を上げつつある、とのことです。

3の「なぜ幸福になるべきか?」は一見自明で答える意味のない問いですが、具体的に何が幸福かを考えると、それがなぜ必要かを個別で問わなければならなくなります(例えば健康や金持ちになることが幸福だという主張には、なぜ健康や金持ちにならねばならないかを問いたくなる)。

現代哲学における幸福の議論

1.快楽説(主観)
2.欲求充足説(主観)
3.客観的リスト説(客観)

現代哲学には「幸福とは何か」を考える代表的な説が3つあります。快楽欲求の充足客観的な幸せ。この3つは共振していて同時に実現させることを多くの場合、人は無意識的に狙っています。

幸福の区分

1.充足
2.上昇

世の中には「いかにして幸福になるか」が書かれた本が多くありますが、ほとんどが充足と上昇の2種類です。

充足とは、今あるものの価値を認識し味わうことで満ち足りた気持ちになること。

上昇は、収入や地位、技能や健康状態などを向上させること。

世界の見方を変える方法と、世界のあり方を変える方法である、とも言えます。充足だけでは社会を良くする原動力は失われ上昇だけでは何かに追われ続けて疲弊してしまいます。

その丁度良いバランスを取る方法を、アリストテレスは「中庸」と言いました。それは実践的な習慣の洗練によって得られるものです。

ある人にとって最適な上昇と充足とのバランスの取り方は、その人固有の資質や環境や運に大きく左右されるため、日々の成功と失敗の中で習慣を洗練させていく以外に、良いバランスの取り方は見つからない

さあ、ここまでが、この本の「はじめに」に書いてある内容です(なんて濃い!)。

感想

最後に私の感想をすこし。著者の青山拓央さんは私と同じ年齢のようです。40歳代というのは「結果論にも夢物語にもならず幸福について考えることができる、望ましい年齢」と感じてこの本を書いたとのこと。

ミヒャエルエンデ「モモ」、宮崎駿「風立ちぬ」、手塚治虫「火の鳥」、筒井康隆「モナドの領域」など青山さんが引いている作品が一つひとつ私の琴線に触れ、勝手にシンパシーを感じました。

出会うべき時に、こういった良書との出会いがある。これこそが俺の幸せだなあ、とつくづく思うのです。


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