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虫めづる露子姫の言葉が、現代人の心を打つ〜Netflixアニメ「陰陽師」〜

Netflix のアニメ 「陰陽師」が配信となっています 。
夢枕獏の原作小説が大好きなだけに、正直、最初は「どうかなあ」と思いながら見ていました。
なにせ・・・
安倍晴明の髪に、金髪のインナーカラーが入ってる!
式神の蜜虫(みつむし)が・・・全く喋らない・・・。
何よりライバル陰陽師の蘆屋道満(あしやどうまん)が、女性!?!?!?
※原作だと蘆屋道満は、白髪と無精髭のおじいさん設定です。
そのキャラクタービジュアルが、私が原作小説を読んでいて想像していたものとは結構違っていたため、かなり驚きました。

私の安倍晴明イメージに非常に近いのが、野中深雪さんデザインのこちらの安倍晴明。
夢枕獏 他「陰陽師・安倍晴明トリビュート 妖異幻怪」より

ですが、回を重ねるにつれ、
この改変も、令和版陰陽師のアニメとして、結構ありだなあ
と思いながら見るようになりました。
原作エピソード「ものや思ふと・・・」(夢枕獏「陰陽師 付喪神ノ巻)の内容改変である第4話「恋すてふ」第5話「ものや思ふと」のストーリーに、「そうきたか!」と驚かされました。まさかこんな泣けるお話になるなんて。

恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
-壬生忠見-

小倉百人一首41番

しのぶれど 色にいでにけり わが恋は 物や思ふと 人のとふまで
-平兼盛-

小倉百人一首40番

そして、原作の中でも私が好きなお話「むしめづる姫」が、とても素敵なエピソードになっていました。

以下、Netflix のアニメ 「陰陽師」第6話のネタバレに触れますので、気になる方はご注意ください。



「むしめづる姫」は、夢枕獏の原作では、「陰陽師 龍笛ノ巻」に収められています。
実際に存在する日本の古典「堤中納言物語」の「虫愛づる姫君」がモデルです(出典:夢枕獏「『陰陽師』のすべて」)。
同じ題材をモデルとして、多くの人が知っているヒロインに、「風の谷のナウシカ」のナウシカがありますよね。

さて、平安のナウシカたる露子姫、非常に好奇心旺盛で、当時の常識にとらわれず、自分の好きなことをとことん追求するお姫様でした。
姫の着る格好ではなく、男性が着る束帯を身につけ、お歯黒をせず、虫を愛で追いかけている露子姫。
そんな周りとは全然違う露子姫は、周囲からの評判はよくありません。
「気持ち悪い」
「虫しか愛でられぬ『むし姫』」
と、陰口を方々で言われてしまいます。
そこで、露子姫の父親が娘の身を案じて、陰陽師・蘆屋道満のもとになんとかしてほしいと縋りに行きます。
そこで、道満は、「蠱毒(こどく)をやればよい」と指示するのでした。
蠱毒とは、平安時代の呪詛の方法で、壺にたくさんの虫をいれて共食いをさせ、生き残った1匹を憎い相手の呪殺に使う、という恐ろしすぎるものです(何から何まで禍々しい、間違っても真似してはいけません)・・・。

父上が、私の幸せを願ってくれているのはわかるけど、
私は私らしくありたい。

Netflix「陰陽師」第6話「むしめづる姫」より、露子姫のセリフ

ここで、令和の今アニメにする上で秀逸な改変だと思ったのは、
「蠱毒の中身が虫ではなく、露子姫への悪口を集めて作ったものだった
ということです。

ぬしへの陰口、誹り、罵詈雑言。
そういった人の心の鬼を食い合わせて生まれたのがその黒丸よ・・・。

Netflix「陰陽師」第6話「むしめづる姫」より、蘆屋道満のセリフ

誰かを妬み、嫉み、そこから生まれた人の心の鬼
それが悪口であり、呪いの源であると。
まさに、悪口が多く飛びかう顔の見えないSNS時代において、何とも刺さる設定だと思うのは私だけでしょうか

そして、その事実を知った時の露子姫は。

みんな本当の私など、少しもわかっていない!
そりゃ悲しいわよ!
傷つくわよ!
けどそんな人たちが何を好き勝手言おうが、
私の人生は左右されないわ!

Netflix「陰陽師」第6話「むしめづる姫」より露子姫のセリフ
Netflix「陰陽師」第6話「むしめづる姫」より露子姫

他人が好き勝手言おうが、私の人生は左右されないわ!」と言い切る露子姫がとにかくかっこいい。
原作の露子姫も大好きでしたが、一層大好きになりました。

ネットが発達し、SNSが発達し、今やスマホやPCをひらけば無限の世界が広がっているような錯覚に陥ります。
そして、誰かに悪口をかかれてしまったら、それが世界の全て人の意見の様に感じてしまいます。
しかし、それは広大な世界の、ちっぽけな一部の人間の意見に過ぎません。
露子姫のように、他人の好き勝手な評価を自分の枷にすることなく、自分らしい人生を歩んでいきたいものだと、心からそう思います。
自分の人生の責任を負えるのは、他ならぬ自分自身ですからね。


このNetflixアニメ「陰陽師」では一貫して、誰しも自分の心に鬼を持っている。それが妬み、嫉み、などといった感情であり、それを育ててしまうと人を「鬼」にしてしまうと。
まさに、「人は心一つで、鬼にも仏にもなりまする」(出典:劇場版「陰陽師」より)ということなのだと思います。

活躍の眩しい他者や、自分の思い通りにならない他者に対して、自分と他者との境界を明瞭にすること。
「夜と霧」のフランクルが説いたように、「物事に対して自分がどんな意味を与えるのかは自分次第」であり、
「嫌われる勇気」で有名なアドラーが説いたように、「他者の評価や存在を気にして生きるのは、他者の人生を生きることになること」なのだと。

Netflix版「陰陽師」の露子姫は、フランクルやアドラーの考えを持ち合わせて自分の幸せを大切にする、現代に通ずるヒロインなのではないでしょうか。

Netflixアニメ「陰陽師」。
夢枕獏「陰陽師」シリーズファンとしても大いに楽しませていただきました。
ありがとうございました。

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