虚(うそ)から出た実(まこと)〜「八犬伝」映画感想文〜
映画「八犬伝」、ようやく観にいけました。
もともと南総里見八犬伝が好きだったこともあり、昔滝沢秀明さん主演の新春ドラマ「里見八犬伝」の思い出も強かったのです。当時のドラマは伏姫が仲間由紀恵さん、玉梓が菅野美穂さん、浜路が綾瀬はるかさんなどなど非常に豪華。今でもテーマ曲が耳に残っています。
これまでも人形劇やドラマ、映画など度々映像化されてきた南総里見八犬伝。今回、最新VFXを使って、満を持しての映画化です。
「仁義礼智忠信孝悌」の玉に導かれて出会う八剣士の物語は、神秘的でワクワクして、観る者を瞬く間に「虚」の世界へ引き込んでいきます。正義と悪がはっきり分かれている世界だからこそ、「八剣士がんばれ」といつの間にか心で応援していますし、悪が裁かれるのが痛快でなりません。そして、様々な境遇を持つ八剣士がようやく全員集結するのが、「虚」パート一番の盛り上がるシーンと言えるでしょう。個性豊かなヒーローの集結はいつの時代も盛り上がりますし、今大人気の「鬼滅の刃」の柱のルーツは八剣士なんだろうなと。実際初めて私が「鬼滅の刃」の柱合会議のシーンを観た時、「あ、南総里見八犬伝ぽいな」と思ったのでした。仁義礼智忠信孝悌の玉こそありませんが、柱たちは後天的に痣が発現しますものね。
しかしながら、今回の映画「八犬伝」の主人公は剣士ではなく作者の滝沢馬琴。ここがこれまでの映像化とは違うところです。
28年の歳月を、家族や葛飾北斎との絆を軸に駆け足で巡っていくのが「実」パート。渡辺崋山の「正義は『虚』であっても、それを貫いて一生を終えれば、その人の人生は『実』になる」という言葉が、私にはとても印象的でした。
それと対になる言葉が、鶴谷南北の言葉です。辻褄合わせの虚を描くのは無意味な努力と、馬琴と真っ向から対峙します。南北は「東海道四谷怪談」の作者だけあって、馬琴にとって呪いとなるような言葉をかけるのもまた印象的でした。
渡辺崋山の言葉が光なら、南北の言葉が闇のように、馬琴に響いていたのだと思います。
虚(うそ)から出た実(まこと)。
本好き、そして映画好きの筆者にとって、素晴らしい本やエンタメは、現実に生きる私たちの心の支えとなってくれることを、身に沁みて知っています。
作品として真摯に作り上げられた虚は、それに感化されたものの人生において実となる。
本やエンタメなどのフィクションの醍醐味って、まさにそこにあるのではないでしょうか。