ラジオドラマ原稿『美しい文字の君』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2023年11月28日オンエア分)

バーで飲んでいる男女。

女「男なんてみんな同じよ」

テキーラトニックを3杯飲んだ友人の彼女は決まって僕にこういう。

女「だってさ、どんな男にだっていいところもあれば、悪いところもある。結婚して一生連れ沿ってみたらプラスマイナスゼロになる。そういうもんよ」

彼女はそう言いながら、4杯目のテキーラトニックを頼んだ。

男「本当に、男はみんなおんなじなのかい?」

真面目に酔っ払っている彼女をからかうように僕はそう問いただす。

女「おんなじよ。男女の問題なんてもんは、相手じゃない、いつだって自分の中にしか問題はないの。いつか理想の相手が現れて、そうすれば上手くいくんだろう、そう思っているやつはだれと付き合ったってうまくいかないの。つまり相手の問題じゃない、自分の問題よ」
男「そういう割に君は、どこかに良い男いないかなあ、なんて言ってるじゃないか」
女「願望は自由でしょ、私は理想を求めてるわけじゃないの」

4杯目のテキーラトニックを一口飲んだ彼女はだんだん哲学めいてくる。

女「理想の男なんていない。あなたも分かってる?理想の女なんていやしないんだから。美人だったら性格が悪い。そういうもんよ」
男「性格の良い美人だっていると思うけど」
女「性格が良くて美人だったら、料理が下手ね」
男「性格も良くて美人で、料理も上手い人だっているんじゃないかなあ。ちょうどいま僕の隣に」
女「だったらそいつは酒癖が悪い」
男「ふははは」
女「そういうもんよ。どこかに悪いところはある。そんなときになにを許せるか、譲れないことは何か、それは相手にじゃなくて、自分の問題ってわけよ」

彼女は少し前に付き合っていた男と別れたのだった。

女「ねえ、あなたはどんな女が理想?」
男「…そうだなあ」

僕の気持ちは一つだった。

男「美しい文字を書く女性かな、書道を習ってた、とか」
女「へー字が綺麗な人が好きってこと?どうして?」
男「心を一つにして墨を擦る。姿勢を正しくして一気に書をしたためる。こういうのってどんなことにも通ずると思うんだ。偏見かもしれないけど、書道をしていた美しい文字を書く人って、なにをするときでも、集中力がすごくて魅力的だなって」
女「なるほどねー」

と言って彼女は4杯目のテキーラトニックを飲み干した。

男「そろそろ、帰りますか」
女「そうね」

そのときマスターが話しかけてきた。

マスター「お二人が飲んだテキーラ、ボトルにした方がお得になるので、そうさせていただきました」

親切なマスターが、半分になったテキーラのボトルを僕らに差し出し、そう提案してくれた。

男「ありがとうございます」
マスター「では、こちらお名前をお願いいたします」
女「私が書いてあげる」

マスターからテキーラのボトルとマジックを受け取ると、
彼女は姿勢を正して、僕の名前を書き始めた。

女「おっけ、どう?」

テキーラのボトルには、とても美しい文字で僕の名前が書かれていた。

おしまい

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