ラジオドラマ原稿『モヒートが飲みたい気分』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2023年5月2日オンエア分)
バーのカウンターに一人座っている男。
氷が溶けて音が鳴る。
僕は彼女を持っていた。
1時間経っても彼女は現れなかった。
2時間前に送ったLINEは、まだ既読にならなかった。
飲み終わったジントニックの氷が溶け始めていた。
原因は3日前だった。
女「週末の休みはどう過ごす?」
男「君はどうしたいんだい?」
女「あなたがどうしたいか聞きたいの?」
男「僕はなんでもいいよ。君がしたいことなら」
女「それってなんでもいいじゃなくて、どうでもいいじゃない?」
男「どうしてそう突っ掛かるんだ?」
女「それって私が悪いってこと?」
男「急に機嫌が悪くなったじゃないか」
女「もういい」
それから彼女とのトーク履歴は僕だけの一方通行になった。
このことを友人に話すと、
一人は「運が悪かったね、彼女の機嫌が悪い日だった」と言い、
一人は「間違いなく君が悪いね」と言った。
そしてマスターはこう言った。
マスター「一人の友人とはあまり付き合わない方がいいかもしれないね。もう一人の友人は大切にするべきだ。そして自分で考えるべきだ。どちらの友人の話を聞くか。君はなぜ彼女と付き合っているのかを」
続けてマスターはこう言った。
マスター「君は何が飲みたい?」
僕は少し考えて、
男「そうだなあ、モヒートが飲みたい気分だ」
マスター「ちょうどベランダで育てたミントがいい感じなんだ」
男「それはいいね」
マスター「当たり前だけど、注文してくれるのは嬉しいものさ」
と言ってマスターは笑った。
そうか。
そして僕は彼女との週末を思い出した。
男「美味しいチャイニーズレストランを教えてもらったんだ。今度食べに行かない?」
男「今日は天気が良いしドライブしないか?海沿いを走ったら気持ちいいと思うんだ」
男「雨の日は仕方ない、ポテトチップスを全種類買ってコーラを飲みながら映画を観よう。ピザを頼んだっていい。配達員の人には少し申し訳ないけどね」
女「お散歩いいね。いってみたい美術館があるんだ」
女「今日はできるだけベッドの上にいるって決めた。本読んだりスマホいじったり、一緒にぐうたらしましょ」
女「イタリアンが食べたい気分かも。こないだ行ったところで別のパスタを頼んでみたい」
僕らはよく注文し合っていた。
マスターに注文や提案をしないのなら、
僕はこのバーにいる必要がない。
僕は彼女にLINEを送ることにした。
「君としたいことリスト」
と最初に書いて、箇条書きでいくつも書き出した。
僕がモヒートを飲み終わったとき、
それは既読になった。
おしまい
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