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真面目な会社員が裏社会に超接近した話

私がまだ新入社員だった頃、仕事の関係で警察署に留置されている被疑者の面会に行きました。
「真面目だね」と人から言われて20余年。そんな表社会しか歩いたことのない私が、裏社会に超接近したドキドキ日記でございます。

面会に出向いたのは、私と私の上司(以下、上司A)、私たちとは別の事業所に勤務している上司(以下、上司B)の3人でした。

当時、私たちが向かった警察署では、被疑者一人につき面会可能なのは1日2組までと決まっていました。面会は先着順だったので、かなり時間の余裕をもって向かいました。警察署が遠かったので朝の4時起きでした。

ところがいざ現地に行ってみたら、警察署の都合で午前中は当該被疑者と面会不可であると。午後にもう一度来るように言われました。なんだって…。返して、私の睡眠時間。

午後になり、面会受付会場に向かいました。受付会場といっても、警察署の2階の奥にある小さな小さな部屋でした。奥行きは5メートルくらい、幅は2メートルあるかないかの狭いスペースに、学校にあるような机が二つと、頑張れば5人くらいが座れる長椅子が置いてありました。

どうやら身分証明書が必要らしいということで、私たちは免許証をそれぞれ出し合って確認しました。それを見て上司Aが、
「みんなゴールドじゃなくてブルーですね。あはは。」
と言い、それを受けて上司Bは、
「この間、急ぎの用事で郵便局に向かっていたらちょいとスピードが出ていたみたいで、違反きられちゃいましたよ。なんであんなところにいたかなぁ。ったくもう。」
とボヤいていました。実は先程から待合室の薄い壁を一枚隔てた向こう側で、ずっと警察の人たちの気配がしていたので、全部警察に聞こえているんじゃないかなぁ。
なお、自分の名誉のために言っておくと、私は免許をとってまだ5年が経っていなかったのでブルーでした。

さて、そんな調子で受付開始の時刻を待っていると、若い男性二人組がやってきました。彼らの会話の様子と私の視界の端に映った二人の身なりからして、まずやんちゃな人であることは間違いなさそうでした。下手したらヤのつく人か、反グレか。裏社会に通じていてもおかしくなさそうな空気をまとっていました。

長椅子にはすでに私たち3人が座っていて、一応二人くらいなら座れなくもないスペースが空いていました。たぶん電車だったら、少なくともどちらか一方は立つことを選択するくらいのスペースです。でも、彼らはパーソナルスペースなど気にしないのか、私の真横にどっかと腰を下ろしました。私との距離は10㎝も空いていなかったと思います。

いま私は裏社会(推定)に人生で最も接近している……。

全身に緊張が走りました。一方彼らはそんなこと露知らず。手に持っていた週刊誌・ア〇芸を開いて、「△△組は××だってよ」なんて会話をしていました。裏社会(推定)はア〇芸から情報を入手するんですね。

ア〇芸談義に花を咲かせている若者二人の横で、私たちはまるで貝になったように、一言も発さずただ静かに待っていました。
受付開始時刻になったところで、一人の女性警察官が待合室に入ってきました。
「一番目にお待ちの方」
と言われたので、私たちは立ち上がりました。警察官の指示に従って書類に記入し、免許証を提示します。
私たちが書類に記入している時、たぶん若者二人組は書類を覗いていました。小声(といってもこちらにも聞こえてくるくらい)で、「□□(会社名)らしい」とヒソヒソしていましたから…。

私は不安に駆られました。警察さん、ここは警察署だからってあまりにプライバシーガードがゆるゆるではありませんか?

書類への記入と身分確認が終わると、警察の人に呼ばれて待合室のドアが開きました。ついに面会室かと思いきや、また小部屋が現れました。というのも、面会室への荷物の持ち込みは禁止なので、その小部屋にあるロッカーの中に手荷物を全てしまわねばならないのです。

さあ、今度こそ面会室に入ります。

面会室のドアが開くと、ドラマで見たのと同じような光景が広がっていました。窓のない薄暗い部屋の手前には、面会者用の丸椅子が3つほど置かれていました。その正面に厚くて大きなガラスがはめ込まれ、顔の高さくらいに声が通る用の小さな丸が円形に空いていました。

ドラマとちがう所というのは、容姿端麗な役者ではなく、どこにでもいそうな青免許所持のおじさん×2と、どこにでもいそうなこれまた青免許の20代女性という組み合わせであることでしょうか。

私たちはそれぞれ丸椅子に腰かけました。少しして警察官に誘導され、グレーのスエットを着た被疑者がやってきました。伸びた前髪のせいでハッキリと顔が見えたわけではありませんが、当時の私と同じくらいかそれよりも少し若いくらいの青年だということは分かりました。

上司Aが被疑者に要件を伝えます。この被疑者によって私たちの会社が被害を被っていたので、その件に関する伝達事項を淡々と語りかけていました。(被疑者は別件で逮捕されていました。)
被疑者は話を聞いているのかいないのかよく分からない様子でした。

一番困ったのは、被疑者が目の前に座って話しかけているおじさん2人ではなく、なぜか端っこに座っている私の方を見てきたことでした。私が若くて世間知らずそうに見えたのか、年が一番近そうだからなのか分かりません。
私の脳裏をかすめる「こっち見んな」という懐かしのネット用語。とにかく気まずかったので、微妙に視線を外すか焦点を合わせないようにして、上司A、Bが話し終わるのを待ちました。

その後、無事に面会を終え、私たちはしばらくぶりに娑婆の世界に舞い戻ってきました。外は明るく、すがすがしく、とても開放感がありました。


警察署からの帰り道、私たちは少し遅めのお昼ご飯を食べに蕎麦屋へ入りました。4人掛けのテーブルについたとき、まだ新入社員だった私は上座下座のことで頭がいっぱいで、ものの見事にトチ狂ったのでした

このときは、上司Bが、私の直属の上司A&私を迎える構図だったのですが、「新入社員だから私が一番下座に座らなければ!」という思いが強すぎて、上座に上司A、下座の奥側に上司B、その隣の一番下座に私が座るという、奇妙な座席配置(下図参照)になってしまいました。

正しくは右の図のはず(上司Bは私の直接の上司ではない)。気まずいことしてすみませんでした。

やっぱり私って真面目なんでしょうね。めっちゃ裏目に出てるけど…。
これも含めて、今では良き思い出です。

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