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蓄電池設備の用途について(記事3)

ここからは、商用ビルや病院など大型施設に備え付けられている電気室について書いていきます。
その設備の一部に、蓄電池設備が使用されていますので、そこも書いていきます。

〇受変電設備について


大型設備も家庭と同様で、変電所から送られてきた電気を電柱を介して受け取っています。
そして電気室の受電設備へと送られていきます。
受電設備から変電設備へと、と長々と書いても分かりにくいと思いますので、電気室の単線結線図を載せておきます。
電気室には盤(キュービクル)と呼ばれる金属の箱がたくさん並んでいて、その中に各機器や電線などが配置されています。

昔は開放型といって、こういった盤の中に各機器や銅バーを入れていなかったので、外からでも見えました。
下の写真は開放型の電気室です。

ですが、今はこれらの機器を盤の中に収めているので、外からでは見えません。
ですから、単線結線図を見て理解するしかありません。
しかし単線結線図では少し分かりにくいと思いますので、もっと簡易的な図を載せておきます。

さらに簡潔にすると、下の図になります。

これが受変電設備(受電設備及び変電設備)と呼ばれる設備です。受電設備は電力会社からの高圧電力を受電する設備です。建物内で起きた事故等の影響を電力会社等へ波及させないための設備という意味合いが強いです。変電設備は、受電した高圧電力を降圧します。そうすれば建物内の各装置が使用できますので。建物内設備のために適正な電圧に調整する設備という意味合いが強いです。そういった観点を持ったうえで、以下を読み進めて頂ければと思います。

電力会社から6,600 Vで受電した電気は、配線や各機器を通ってTR(トランス、トランスフォーマー、変圧器、呼び方はいろいろ)まで送られます。
そしてTRで400 Vや200 V、100 V程度に変圧されます。
通常時はその電気を一般負荷及び非常・保安負荷の両方へ送っています。
UGSからVCT、DS、VCB、その下流の各VCB、LBSとTRの1次側までが高圧系統になります。
そしてTR2次側から一般動力盤、一般電灯盤、保安動力盤、保安電灯盤が低圧系統になります。
一般動力盤、一般電灯盤、保安動力盤及び保安電灯盤にはブレーカーがいくつも有ります。
そしてそこから建物各所へと低圧電力が電線を伝って送電されていきます。

一般動力盤
モーターを回したり比較的大きな電力が必要な負荷へと供給される電力です。
3相400 Vや3相200 Vで供給されます。
エレベーターやエスカレーターを駆動する際にはモーターを回す必要があります。
また水道水を上層階へ送るために回すポンプも、モーター駆動です。

一般電灯盤
文字通り電灯用や小規模の電力で賄える負荷です。
単相200 Vや単相100 Vで供給されます。
天井などについている照明や、コンセントに送られます。
コンセントに差し込んで使用する機器であれば、通常は単相100 Vで十分です。

〇保安動力盤・保安電灯盤
消防負荷と呼ばれているものです。
火災報知器、消火ポンプ、誘導灯、非常照明、非常用エレベーター等です。
もし停電が起きた際には、非常用発電機が自動的に起動するようになっています。
そして発電機から生み出された電気が非常・保安負荷へと供給されます。
基本的には一般負荷へは供給されません。

さて。前段がかなり長くなりましたが、ここからは蓄電池設備が電気室のどこに使われているのかを書いていきます。

①操作電源・制御電源用
②非常照明用・誘導灯用
③非常用発電機始動用
④無停電電源装置(UPS)用

大きくは、これらに使用されています。

その前に、蓄電池設備の簡単な概要だけ書いておきます。

〇蓄電池設備の概要(簡易)

蓄電池設備の構成品は大きく2つです。
・蓄電池
・蓄電池を充電する充電器
・直流負荷へ直流電力を供給できる充電器
(充電器は同様のものですが、機能を分かりやすくするために2つに分けて書きました。)
下の写真の中央の盤が、直流電源装置です。

直流電源装置の単線結線図を下に添付しておきます。
見やすいように、ブレーカー等消してますが。
メインはあくまでも蓄電池です。蓄電池は使わなくても少しずつ電力を放電してしまいます。満タンに充電して使わずに置いておいても、少しづつ放電し残量が減ってしまうのです。
ですから、こういった設備に使用する蓄電池は、絶えず充電をかけ続けます。そのための充電器です。
下の図の整流器と記載してある箇所が、充電器です。

先ほどの電気室で、変圧した3相200 Vの電気をこの蓄電池設備に送っています。
上の図の交流入力、という端子台(□の箇所)に電線を接続して受電します。
蓄電池設備では受電した交流の電気を、充電器内部で直流の電気に変換して蓄電池にずっと送っています。
そして蓄電池から負荷へと電力を供給しなくても済むように、直流の電気が必要な負荷へも電気を供給しています。
あくまでも蓄電池残量を満タンにして停電に備えることが充電器の最大の目的です。
ですが、通常時でも直流電力が必要な負荷もあります。
充電器で作った直流電力を蓄電池と負荷へと供給してやれば、蓄電池残量は常に満タンだし負荷も問題ありません。
よって充電器には、蓄電池を充電し続けながら負荷へも電力を供給できる容量(電力供給能力)が要求されます。
蓄電池の電圧は、直流100 Vが多いです。産業用では鉛蓄電池がよく使用されています。
鉛蓄電池は1個が2 Vのものしか作れません。
ですから100 Vにするためには、鉛蓄電池を50個直列に接続して、2 V×50個=100 Vの組電池とするしかありません。
少し高めの電圧にするために、54個を直列にして108 Vとすることも多いです。
この辺りは、別の項で書きます。

通常時、充電器は交流の電気を受電して、それを直流120 V程度に変換しています。
蓄電池自体の電圧は100 Vなので、通常時は充電器からの120 Vの電気がそのまま蓄電池と負荷へと流れ込みます。
停電時は、充電器が停止します。
すると蓄電池よりも電圧が高いものが無くなるので、蓄電池は放電することができます。
よって蓄電池から負荷へと電力供給できるわけです。
停電が起きるとすぐに蓄電池から負荷へと電力供給されますので、負荷の瞬断はありません。
ですから、重要な負荷を接続しておけば安心ということです。

みなさんがお持ちのスマートフォンと似ています。
スマートフォンには内部に蓄電池(リチウムイオン)が内蔵されています。
蓄電池残量が減ってきたら、充電ケーブルを差し込んで蓄電池に充電しますよね。
充電しながらでも、さまざまなアプリ等はスマートフォンの画面上で操作できるはずです。
アプリ等が、蓄電池設備で言うところの負荷になります。

スマートフォンの充電が終われば、充電ケーブルを引き抜いてもスマートフォンは正常に動作し、アプリ等も使えます。

ここからは、蓄電池設備の使用例を書いていきます。

〇蓄電池設備の使用例

①操作電源・制御電源用

電気室で電気を受電する際にも、家庭用と同様に過電流を検知して遮断する機能や、漏電を検知して遮断する機能が必須です。
ですが高圧電気を扱う電気室では、少し勝手が違ってきます。
6,600 Vほどの高圧回路だと、流れる電流値も大きくなります。
当然ですが、その電流を流しても焼き付かない遮断機が必要です。
必然的に、家庭用よりもサイズが大きなものが必要になります。

そして厄介なことに、高圧の電気では電路を簡単に開放できません。
アーク放電(電弧放電)が関係しています。
アーク放電とは気体放電現象の一種です。
電極間に電位差が生じると、その間の空気が電離してプラズマ状態になってしまいます。
その結果、本来であれば電気が流れない状態の空気中を電気が流れてしまいます。
実際に高圧電路が通電中に電路を開放しようとしても、このアーク放電のせいで開放できません。

ですから、開放できる仕組みが必要になります。
設備の管理者が電路を開放したいときは手動で。また短絡事故などが起きて過電流が流れた時には自動で電路が開放される仕組みが必要です。
また電気会社からの電圧が低下した場合にも回路を遮断します。
6,600 Vで受電していれば、5,100 V程度に低下した状態がしばらく(2秒以上)続くと回路を遮断します。
(電気室によって設定が違うので、電圧や秒数はあくまで参考値です。)
そこで使用されるのが、アークを消して(消弧)安全に回路を開放できる遮断機です。
ガス遮断機、オイル遮断機、真空遮断機等いくつか種類があります。
よく見るのは、真空遮断機です。
このタイプは、電極を真空バルブ内で開閉させます。
アークは真空中では拡散する特徴があるので、アークは形をとどめることができずに消弧されます。
そして真空は絶縁性能が優れているために再びアークが発生することを防いでくれます。

しかしこれらの遮断機は、ブレーカーのように自身で事故電流を検知する機能がありません。
よって過電流継電器という過電流を検知する機能をもった継電器とセットで使われます。

同様に、地絡継電器で漏電を検知した場合も遮断機を開放します。

また、受電電力の電圧低下は、不足電圧継電器という継電器で検知します。これらの継電器を動かすためには、電源が必要になります。
製造メーカーによりますが、交流電源と直流電源のいずれかが必要になります。

〇遮断機動作電源の回路


下の図は、VCBと過電流継電器、CT(変流器)です。
UGSから送電されてきた高圧電力が、VCTを通過した後に達するところです。

VT(変圧器)と不足電圧継電器を除いた複線図は、以下のようになります。

過電流が流れた場合、過電流継電器がそれを検知します。
継電器が動作すると、継電器の中の電磁石が作動してあるスイッチをONにします。
それが遮断機の引き外しコイル(TC、トリップコイル)の回路のスイッチです。
通常時はこのスイッチはOFF状態です。
つまり開いていますので、遮断機の回路は開状態です。
当然遮断機のTCへ電気は流れません。しかし継電器が働くと、TCへの回路が形成されて電気が流れます。
TCに電気が流れると、遮断機が開きますので建物内への電気の供給が止まります。
このTC引き外し回路の電源も、交流電源と直流電源のいずれかが必要となります。

これらの継電器の制御電源および遮断機の引き外し電源として使用されているのが、蓄電池設備となります。

また、高圧盤や低圧盤には盤の表面にパイロットランプがついています。
これの点灯用の電源としても、蓄電池設備が使われています。

蓄電池設備は、多くは蓄電池と充電器を1対物として1つの盤に収めています。蓄電池が大きくて一緒の盤に収まらない場合には、それぞれ別置きにしています。この蓄電池設備を、一般的には直流電源装置と呼んでいます。

※不足電圧継電器についての補足
理解されている方は、読み飛ばしてください。
一応、不足電圧継電器がなぜ必要なのかについて記載しておきます。
高圧部分で不足電圧を感知しても、遮断機を開放する必要がないのでは?という疑問が浮かぶかもしれないので。

高圧部分で不足電圧を感知したということは、送電側(電力会社等)で何か問題が起きて電力を供給できなくなった可能性が考えられます。
この事故は、送電線に落雷が落ちたり自然災害の影響などで、瞬間的なものかもしれませんが。
2秒以上も続くなら、それ以上続く可能性もありますし、そもそも負荷が落ちます。
ですから不足電圧を2秒ほど検知した場合は、遮断機を開放して外部との電路を断ちます。
不足電圧継電器は遮断機を開放するのと同時に、非常用発電機の起動信号にも利用されます。
つまり遮断機が開放した後に非常用発電機が自動的に起動し、必要な箇所へ電力が供給されるわけです。
ですが、建物全体をカバーできるわけではありません。あくまで設計された非常用の負荷だけです。

さて。
発電機が運転中も遮断機が開放していると、発電機は建物外部にも電力を供給しなければなりません。
これは発電機にとってはかなりの負担です。
発電機は備え付けの燃料で運転継続しますから、建物内の必要な負荷だけに電力供給をして、運転可能時間をできる限り伸ばしたいのです。

送電側の電圧が確立されたことが確認されると不足電圧継電器がそれを検知します。
その後は発電機停止、そして遮断機投入し受電という流れになります。

高圧系統のVCBの下流側、各TRの1次側にも遮断機と過電流継電器、地絡継電器があります。
その系統だけで過電流を検知した時にはその系統の遮断機だけを開放すれば、残りの正常な系統は給電を継続できるからです。
これらの操作用・制御用電源としても、交流電源もしくは直流電源が使用されています。

②非常照明点灯用

建物内の天井には照明がたくさん設置されていると思います。
これは、通常時は普通に点灯しています。
ですが停電時には、消灯してしまいます。
建物内は昼間であっても照明がないとかなり暗いです。
壁だけで窓がない部屋なら、暗闇になってしまいます。
天井の照明をよく見ると、点灯している照明の脇に小さな電球があると思います。

これが非常照明です。この非常照明は直流電源装置を電源としていることが多いです。最近では非常照明自体に小型蓄電池を内蔵していることもありますが。通常の照明への回路と非常照明への回路の間には不足電圧継電器が付けられています。イメージ図は以下です。

通常時は電灯盤からの電力が一般照明に供給されて、照明が点灯します。
非常照明回路のスイッチは開となるため、非常照明は点灯しません。
ですが停電が起きると電灯盤からの電力供給が止まります。
その結果、不足電圧継電器(27)が動作し、分電盤内の非常照明回路のスイッチを閉じます。
よって非常照明が点灯するわけです。

蛍光灯は交流・直流のどちらの電力でも点灯します。
LED灯は直流が必要ですが、大抵はLED灯内部に交流を直流に変換する装置がついています。
ですから、照明器具には交流・直流どちらを送電しても点灯するようになっています。

建物内に非常用発電機が設置されていれば、発電機起動後は通常照明へ電力が供給されることが多いです。
すると不足電圧継電器が電圧を感知し、再び通常照明が点灯します。

誘導灯は、出口を案内するための電灯です。
下の写真のものです。

これも非常照明用と同様です。

③非常用発電機始動用


これについてはあまり記載するまでもないかもしれませんが、一応書いておきます。
発電機にはディーゼルエンジンとガスタービンエンジンの2つのタイプがあります。
これらを起動するためには、エンジンについているスターターを回してエンジンをある程度の回転数まで回転させる必要があります。
ある程度回転したエンジン内部の燃焼器室内に霧状の燃料を吹き付けて点火プラグで点火させると、エンジンが勢いよく起動するためです。
このスターターを回すための電源として、蓄電池が必要になります。
比較的小型の発電機なら、エンジンと蓄電池が一緒に収納されています。
ですが大型の発電機になると、必要な蓄電池の大きさも大きくなります。
というのも、スターターを回すために瞬間的にですが100 A~1800 Aが必要になるためです。
エンジンサイズにより変動しますが。
ですから、エンジンが大きい場合は、その近くに直流電源装置を設置することがあります。
当然ですが、蓄電池は絶えず充電器で充電されています。
エンジンと一緒に格納されている場合は、充電器も一緒に格納されています。
非常用発電機は始動してから電力を供給できるまで、約40秒ほど必要です。
病院などで急速な起動が必要な場合でも、10秒は必要です。

④無停電電源装置(UPS)用

これまで、停電停電と何度も書いてきました。
ですが、最近では停電なんてそうそうないですよね。
しかし実際には、人間が気づかないほど短い時間の変化は起きています。
瞬時電圧低下、瞬時停電、です。
・瞬時電圧低下・・・・0.02秒~2秒間、供給される電圧の低下(とは言え、復帰はどんなに早くても0.07秒以上かかる)
・瞬時停電・・・・・・1分以内の電力会社からの電力供給停止

これらが起きる原因としては、電線への落雷が多いです。
仮に2秒間だけ電圧が低くなったところで、何か影響でもあるの?と思うかもしれません。
ところが、電気機器にとっては大問題です。
電気機器は、たいていは動作できる電圧が決まっています。
例えば、動作電圧が100 Vとすると、動作範囲は±10 %までなら動作するのが普通です。
90 V~110 Vまでなら動作できます。
瞬時電圧低下が起きた場合に、電圧低下が90 Vを下回り、その状態が0.06 秒続くとこの機器は動作を停止します。
サーバーなどでこの状態が起きると、データが失われたり最悪破損したりします。
そんなときのために、蓄電池を内蔵した無停電電源装置(UPS、uninteruptible power supply)が設置されていることが多いです。
UPSは、停電してから0.05 秒以内には機器に安定した電力を供給できます。
これも蓄電池のおかげです。

一般的なUPSの単線結線図は、以下になります。

もう少し見やすくしたものが、以下です。
余計なブレーカーとか、削除してますけど。

〇UPSの動作

UPSの動作を、簡単に説明しておきます。
動力盤からの電力を、交流入力として受電します。
そして整流器で交流を直流へと変換し、蓄電池を充電します。
また、インバータでは直流電力を交流電力へと変換します。
そしてその電力を負荷へと供給します。
つまり、インバータ自体を負荷と考えた方が分かりやすいかもしれません。
通常時は整流器からの直流電力で動き、停電時は蓄電池からの直流電力で動きながら直流電力を交流電力に変換する装置がインバータ、ということです。

※バイパス入力は、補助的なものです。
インバータ故障した際に、自動的にバイパス入力ラインから負荷へ電力供給するように切り替えます。(上の図の緑色のライン)
そうすることで、負荷への給電を停止することを防ぎます。
その後、メンテナンスバイパスライン(上の図の紫色のライン)に手動で切り替えて、インバータの故障個所を修理します。
直ったら手動でインバータ給電(上の図の青色のライン)に切り替えることで、負荷を停止させることがありません。


停電が起きれば、整流器は停止しますので、蓄電池からインバータへと電力供給が始まります。
非常用発電機が起動すると、今度はそれが電源となりUPSへ電力を供給し、UPSを介して負荷へと電力を供給します。ですから、UPSを設置していれば負荷が停止する危険性を下げることができます。蓄電池が健全な状態なら、という条件付きですが。

UPSは蓄電池内蔵のため、サイズも大きくコストもかかります。
ですから、短時間の瞬低対策として瞬時電圧低下補償装置を設置していることも多いです。
補償時間は、0.3 秒から1  秒間です。

このようにして、電気室の中で蓄電池設備が使われています。

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