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72時間

「好きなテレビ番組は?」と問われれば、きまって「ドキュメント72時間」と答える。
 72時間=まる3日間、同じ場所ないしテーマで定点観測をする。芸能人もスターも登場しないこのNHKの番組を、わたしはこよなく愛している。
 この番組によってさまざまな見知らぬ別世界をのぞき、画面越しに多くの人に出会ってきた。金輪際、接点を持つことのないであろう人々が、スタッフとたまたま場所と時間を共有したことによって、わたしたちに訥々と人生模様を語りはじめる。等身大の言葉が、どんな脚本の台詞より響く。
 街ですれ違った人、電車に乗り合わせた人の誰一人として〝エキストラ〟や〝モブ〟などでなく、それぞれに事情を抱え、喜んだり悲しんだりしながら生きている生身の人間なのだ。そんな至極当然のことに思いが至るようになったのは、この番組を視聴するようになってからだ。大げさにいえば、「人間愛が詰まっている」番組といえよう。他者に無関心となりがちな現代にあっては貴重な存在だ。
 年の瀬恒例の視聴者投票にも、例年参加している。投票フォームの自由記入欄にはいつも「秘仏の御開帳を取材してほしい」と書きこんでいるが、叶っていない。年に1日や2日しか公開しない秘仏もある。50年に一度、33年に一度のようなタイミングを取材できれば、映像資料としても貴重だ。地元の檀家はもちろん、仏像ファン、藁にもすがる思いの人まで参集するから、撮れ高は心配ないだろう。
 先日の放送回はこれに近いテーマで、佃島の細い路地の奥にある小さな祠が舞台だった。
 行動圏からアクセスしやすい場所なので、近々訪ねてみたいと思っている。


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