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映画『先生の白い嘘』について思うこと、性教育について

この映画が話題になるきっかけとなったインティマシーコーディネーターの件。
性被害がテーマのこの映画を撮影するにあたり、主演女優が監督にインティマシーコーディネーターを要望したにも関わらず、監督は「間に人を入れたくない」という理由で断り、それをあろうことか美談のようにインタビューで語ったことでむちゃくちゃ炎上している。

恥ずかしながら私はインティマシーコーディネーターについて、存在は知っていたが具体的にどのような仕事なのかはあまりわかっていなかったので、この件をきっかけに少し調べてみた。

一番具体的でわかりやすかったのはこれ↓

https://gendai.media/articles/-/102735?imp=0

2022年の『エルピス-希望、あるいは災い-』という連続ドラマでインティマシーコーディネーターが導入され、そのときの話を織り交ぜながらインティマシーコーディネーターがどのような役割を果たすのか丁寧に説明されている。

この記事を読んだ上で、上記のドラマの“インティマシー・シーン”といわれる性的描写の部分をアマプラで見てみた。

そのシーンで映っていたのは頭からデコルテまで、足は膝からつま先まで、あとはブランケットが掛けられていた。キスシーンもあり、性的な描写ではあるものの、夜10時枠のドラマでは何度か見たことのあるようなシーンで、かなり過激という印象はなかった。

これを見て私は率直に「これくらいの描写からきちんとインティマシーコーディネーター入れてるんだ!すごい!」と感心した。
それと同時に「性被害がテーマでエルピスより遥かに過激で苦しい性描写があるであろう『先生の白い嘘』こそ絶対入れた方が良くない?は?女優さん要望したんだよね?意味わかんないんだけど!!!!」とむちゃくちゃ腹が立ってきた。

また、公開前のインタビューで監督が「美鈴(主人公)の気持ちがわからない」と言っていたり、公式HPのストーリーのところに「早藤を忌み嫌いながらも、快楽に溺れ、」という記述(現在は削除済み)があったりと、まだ原作をしっかり読み込んでない私でも「監督、原作読んだ?」と聞きたくなるような炎上トピックも目に飛び込んできた。

これ以上批判するなら一度観ないといけないなと思った。本当は、お金を出してこの映画を観ること自体が今回の件を肯定しているようで複雑な気持ちもあった。しかしその後も様々な記事を読んで、出演者の、特に主演の奈緒さんのこの映画に対する覚悟と真摯な姿勢に感銘を受け、観に行くことにした。

観に行くことを決めた奈緒さんのコメントはこれ↓
https://news.yahoo.co.jp/articles/043e24d6115511a2cfc44e2eb4a088896a72b4b9

観た上でやっぱり私はこの映画はインティマシーコーディネーターを入れるべきだったと思う。日本には今インティマシーコーディネーターは2人しかいないので、入れたくてもスケジュールの関係で入れられないこともあるかもしれない。でも、「入れたかったけど都合がつかなかった」のと「間に人を入れたくなかったから入れなかった」では、全く違うよね。

7月5日に映画公式HPで“『先生の白い嘘』製作時におけるインティマシー・コーディネーターについて”という題で製作委員会が「これまでの私共の認識が誤っていた」「配慮が十分でなかった事に対し、深く反省」という声明文が発表された。だから私はこの件に関しての批判はこの文をもって終わりにする。
この炎上をきっかけに、インティマシーコーディネーターの必要性がもっと周知され、俳優さんの尊厳が守られますように。

上記の声明文はこれ↓

(俳優の高嶋政伸さんのエッセイでもインティマシーコーディネーターについて触れられていて、とても良かったので参考までに↓)
https://www.shinchosha.co.jp/sp/nami/tachiyomi/20240327.html

※以下 性被害の描写を含みます

性暴力の被害者がその後も加害者に従っているのは、「私が受けたのは被害ではない」と思い込むための逃避である、決して受容ではない。
また、そういう目に遭ったとき「自分が招いたことなんだ」「自分がそれを選んだのかもしれない」と思い込もうとする悲しい防衛本能が働く。自分が人間としての尊厳を奪われたことを受け入れたくないのである。

私も性被害を受けたこと、受けそうになったことがある。

学生時代、友人だと思っていたその人は、前触れなく突然迫ってきて、拒絶したにも関わらず力づくで押さえ込んできた。大きな声を出して抵抗した。しかし本気の男性の力は途方もなく強く、怖くて諦めそうになった。それでも必死の抵抗の末に何とかすり抜けて逃げることができたが、男性の力に圧倒され、手が震えたのを覚えている。

だけどその出来事を周囲に訴えてどうにかしてもらおうとは当時の自分では考えもしなかった。「男の人と二人きりになった自分が悪いよね」と思うようにし、何もなかったかのようにその人とも程々に友人関係を続けた。自分がこの人に襲われかけたなんて受け入れられない、なかったことにしたい。逃避である。受容なんて有り得ない。
いまだに最悪の記憶として鮮明に残っているし、あの瞬間の恐怖は一生忘れないと思う。未遂だったからやった方は忘れてると思うけど。

今回の炎上の件も同じで、主演女優がインティマシーコーディネーターを入れてほしいと要望を伝えたにも関わらず断られ、インティマシーコーディネーター無しで性暴力のシーンを撮影し、公開初日の舞台挨拶で「私は大丈夫です」だなんて、この一連の流れがまさに性加害じゃないか、と思う。あ、また批判しちゃった。

こういった無自覚な性加害が沢山ある世の中で、私は2歳の娘に何を伝えていけば良いだろうか。
私が高校生の頃にいきなり家族や周囲から「それは性被害だよ、声を上げなさい、戦いなさい」と言われたとしても正しくそれを理解して受け止め、被害を訴えることはできなかったように思う。

幼い頃からきちんと自分の身体は自分だけのものであること、人に簡単に触らせてはいけないこと、嫌だと少しでも感じたら断ること、危険を感じたらすぐに大きな声で助けを求めることなど、年齢に応じて地続きになった性教育をしていきたい。そして娘が困ったとき、私が助けを求める先でいられるようしたい。そんな思いをしないのが一番だけど。

また、相手のパーソナルな部分をしつこく聞いたりむやみやたらと人に触れたりしないことなど、知らず知らずのうちに自分が性加害者にならないよう日々の振る舞いを意識していきたいし、娘にも伝えていきたい。まだたまに「今のまずかったかな」と思って反省することがあるので、急いで修正・更新していこう。

< 余談 >

今回の映画で風間くんは擁護のしようがない性犯罪カス男を演じているのだが、バラエティ番組などですごく人が良いことを知っているので、むちゃくちゃ嫌で怖い役だけど観てられないほどは怖くはなかった。
カスみたいな台詞を吐いているときも嬉しそうにマイル修行をしてる風間くんが頭の中を過ぎり、俳優としては不本意かもしれないが没入しすぎずに観ることができたので私としては有り難かった。
身長が高くて強面の俳優だったら、トラウマでその人の出てる映像をこれから全く観られなくなってたと思うわ。


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