神戸新聞が力を注ぐ取り組みの一つに、災害報道があります。原点は1995年1月17日午前5時46分に発生し、6434人が死亡、3人が行方不明となった阪神・淡路大震災です。戦後初の都市直下型地震でした。
以降、震災の記憶や教訓を発信し続けながら、国内外の他の被災地にも記者が足を運び、被災の実情を伝えています。近年は各地で大規模災害が頻発する傾向にあり、南海トラフ巨大地震や首都直下地震も想定される中で、その取り組みに終わりはありません。
一方で震災から28年がたち、神戸新聞でも当時を直接知る記者は少なくなりました。私、ぶらっくま(1999年入社、神戸出身)も震災後の入社です。世代交代は世の常ですが、記憶の継承が社内でも重要になっています。
われわれの災害報道の原点を忘れないために、社内で読み継がれている記事や詩があります。今回はその3編をご紹介します。
社説「被災者になって分かったこと」
震災3日後に掲載されたこの社説を執筆したのは、論説委員長だった三木康弘氏。倒壊した自宅の下に生き埋めとなった父の生死が分からない中、ワープロをたたき始め、途中で訃報に接しながら書き上げました。
以降も、神戸新聞の社説は長らく災害だけをテーマにし続けました。2001年10月には「第1回 石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」の「公共奉仕部門」の大賞を、三木氏と、論説委員室による「阪神・淡路大震災からの復興に向けての論説、評論活動」が受賞しました。
当時の受賞理由には「(前略)新聞の論説として市民の視点を強く保持し続けて、市民にとっての『われわれの新聞』となっている(後略)」とあります。神戸新聞社は震災で本社が全壊し、新聞発行の危機に直面しました。震災は会社にとっても、社員一人一人にとっても「われわれの災害」でした。
この受賞の4カ月前に、三木氏は帰らぬ人となっていました。がんに侵され余命3カ月の宣告を受けながら、その後も1年半余、論説記者として書き続けました。生前、反響を呼んだ先述の社説については触れたがらなかったといいます。「まだ家族が見つからない人が大勢いた。配慮が足らなかったんじゃないだろうか」と。
三木氏の社説のエピソードについては、2010年1月にフジテレビ系列で放送(2016年1月に再放送)されたドキュメンタリードラマ「神戸新聞の7日間」(原作は神戸新聞社著、角川ソフィア文庫「神戸新聞の100日」)でも描かれました。
陳舜臣氏寄稿「悲しみを超えて」
「阿片戦争」「秘本三国志」「小説十八史略」などの中国歴史小説を著した直木賞作家で、神戸出身の作家・陳舜臣氏(1924―2015)が、震災から9日目の朝刊1面に寄稿した一文です。
「神戸市民の皆様、神戸は亡びない」と語りかけた文章は、避難所などで不安な日々を過ごす被災者を励ましました。自らも被災した陳氏は、前年に病に倒れた影響で利き腕が動かず、左手で原稿を書いたといいます。
私は入社後も長らく、この文のタイトルを「神戸よ」と記憶していました。それほど、このシンプルで力強い見出しは印象的でした。
そして最後の「新しい神戸は―」からのくだりは、何度呼んでも胸に迫ります。そこには「人間中心」の復興を願う陳氏の心情が反映されているように思います。新しい神戸は、人間を大切にする街になっているか―。陳氏からわれわれに託された永遠の宿題です。
本紙を励ました詩「おい神戸新聞が来たぞ」―
震災で社屋を失いながら辛うじて、災害協定を結んでいた京都新聞の協力で発刊を続けていた神戸新聞社に贈られた詩です。贈り主は当時、東京都立中央図書館に勤務していた詩人の中原道夫さん。2022年、神戸新聞本社を訪問してくださった時の記事があります。
額装された作品は今も、本社編集局フロアの会議室に飾ってあります。
丸いテーブル(楕円形ですが)があるこの会議室は通称「丸テ」と呼ばれ、夕刊と朝刊の紙面メニューを決める会議に使われています。「どんな新聞を作ろうか」と皆で考えながら毎日、壁にかかったこの詩を目にしています。
読者からも激励の手紙
震災後、神戸新聞本社や支社・総局には3千通を超える激励の手紙が届きました。兵庫県内だけでなく、北海道から沖縄県まで全国各地から寄せられた封書、はがき、ファクスの励ましが社員たちの大きな力となりました。
その一部は現在、神戸市中央区の本社ビル内の商業施設「カルメニ」2階の「ニュースポート 神戸新聞報道展示室」に展示しています。かつてJR三ノ宮駅前にあり、震災で全壊した神戸新聞本社(旧神戸新聞会館)編集局にあった柱時計などの品や、震災・防災報道の歩みなどもご覧いただけます。
ニュースポート 神戸新聞報道展示室
入館無料
開館時間は午前10時~午後5時
休館日は土日祝日、年末年始
(※見学対応により入館いただけない日があります。事前にお問い合わせください。10名以上の団体の場合は事前にご予約の上、お越しください)
問い合わせ・予約
神戸新聞読者本部 お客さまセンター
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