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なんでこんなにも多い?!。兵庫が「ため池王国」と呼ばれる理由

兵庫県には全国最多のため池があります。特に集中するのは西部の播磨地域と、淡路島です。中には管理が行き届かず、荒れたままの池もありますが、いずれも農業用の水を求めてきた先人の苦労の跡として眺めれば、違った光景に見えてきます。最近は水を貯めるだけでなく、生き物たちの命を育み、住民らの憩いの場になるなどの役割も注目されています。そんなため池と人々との暮らしを播州人3号が紹介します。

全国のため池のうち、5分の1が兵庫に集中していると言われています。
少し古い記事ですが、兵庫県の調査結果です。

ため池の数 全国の市町村別
淡路市1万3301カ所、洲本市7013カ所
農業用、小規模で多く築造

 全国の市町村別の「ため池」数で、淡路市と洲本市が1位と2位を占めることが、兵庫県洲本土地改良事務所が2014年度に実施した調査で分かった。南あわじ市も8位で、淡路島内全3市が10位までにランクイン。同事務所は「淡路島が誇るため池の文化をあらためて見直し、次代へ伝えていく必要性を感じた」とする。
 同事務所は14年度、島内のため池の歴史や逸話などを紹介する冊子「淡路ため池ものがたり」を作成。その過程で、ため池の市町村別の数を調べた。
 調査では、公開されている都道府県別のため池数がおおむね1万カ所以上の兵庫、広島、香川など6府県を対象に市町村別の数を確認。結果、淡路市には1万3301カ所、洲本市には7013カ所あり、突出して多いことが分かった。
 県内ではほかに三木市(4066カ所)が3位、南あわじ市(2483カ所)が8位、神戸市(2311カ所)が9位。都道府県別で全国1位の兵庫県(約3万8千カ所)の中で、約6割を淡路島(3市計約2万3千カ所)が占めていた。
 同事務所によると、淡路島にため池が多いのは、全国平均と比べると降水量が少ない▽大きな川がなく、川からの取水が困難▽急峻(きゅうしゅん)な山間部が多く、大きなため池の築造が困難―などの理由から、農業用水を確保するために小さなため池が数多く造られたという。
 ただ、「少子高齢化による農業従事者の減少で、ため池に関わる住民が少なくなっている」と同事務所の担当者。今後は安全面にも配慮した管理の技術、文化の継承が課題になっているという。

(2015年4月7日付朝刊より)

兵庫の3市がトップ3を占め、いかに集中しているかが分かります。
よく見ると、政令指定都市で唯一、神戸市が9位に入っています。
神戸市内で多いのは、三宮などのある中央区ではなく、西区や北区で、ともに農業の盛んな地域です。

ため池の大半は小規模なものですが、巨大な池もあります。
神戸市に隣接する稲美町の加古大池を訪れると、ため池のイメージが覆ります。

加古大池 兵庫県稲美町
濃緑の水がめ 田園潤す

 濃緑の鏡が地上に横たわる。のぞき込むのは誰か―。
 満水面積が49ヘクタール。兵庫県内最大のため池「加古大池」(兵庫県稲美町加古)にたたえられた水が、農繁期の田んぼに水を注ぎ込む。6月上旬には特産の大麦の収穫が終わり、田植えが進んでいる。
 東西約20キロ、南北約15キロに広がる段丘状「印南野(いなみの)台地」。干ばつ地域で、古くから水の確保に悩まされてきた。江戸時代初期に造られた加古大池が乾いた大地に水を送り、周辺約300ヘクタールの耕作地を潤す。時代とともに整備を重ねて「防災ダム」の機能も備える。川に水が一気に流れないようにするという。
 輝く水面を走るのはカヌーやウインドサーフィン。苦闘の歴史を経た〝鏡面〟に今、憩いを求める人々が映る。

(2017年6月10日付朝刊より)

写真に写る民家と池の大きさを比べてください。
甲子園球場の約12倍の広さです。

水辺の景色はもはや海のようです。
加古大池では、ウインドサーフィンなどの〝マリン〟スポーツも盛んです。

そんなため池王国が大きく揺るぎます。

全国最多3万8000カ所は水増し?
兵庫のため池 1万カ所消滅
大半の市町、現地確認せず報告

 「ため池王国」兵庫県の地位が揺らいでいる。県内には全国最多の約3万8千カ所のため池があるとされてきたが、県が改めて精査したところ、3割近い約1万カ所が実際には存在しないことが判明。各市町から報告を受ける際、消滅した池などが〝水増し〟でカウントされていたという。2位以下とはまだ差があるものの、県は「数だけでなく、管理体制でも全国トップを目指していく」としている。
 ため池は雨の降る量が少ない瀬戸内海地方で江戸時代以降、多く造られた。離農や耕作地の放棄などで減少傾向が続くが、現在も全国で約19万カ所あるとされる。兵庫県内では1971年に5万5千カ所以上あったと記録され、大きな河川のない淡路島が全体の4割以上を占めた。
 県はこれまで各市町からの報告を集計し、兵庫のため池数としてきた。昨年4月時点で3万7652カ所を数え、2位の広島県(約2万カ所)、3位の香川県(約1万4千カ所)を大きく引き離し、「日本一のため池王国」として大々的にアピールしている。
 ところが、2017年4月に三田市でため池の堤防が決壊し、近くの会社や民家が浸水した事故が発生。県はため池の現状を調べる一斉調査に乗り出し、自治会長や農会長らに池の場所などを尋ね、航空写真で照合するなどした。
 その結果、土砂に埋まってなくなっていた池や、宅地などになってしまっているケースが相次いだという。県農村環境室によると、把握できていなかった池は全て、用水によるかんがい農地面積が0・5ヘクタール未満の「特定外ため池」で、個人農家などが使っている小規模なものだった。
 特定外ため池は全体の約8割を占め、これまでは池の管理者に県への届け出義務がなかった。調査する市町が県に報告する際も現地には行かず、「多くの市町が昭和20~30年代の調査結果を基にしていたのが実態」(同室)という。
 一斉調査の結果は集計中だが、減少数は県全体で約1万カ所になるとみられる。これまでの約1万3千カ所だった淡路市も精査の結果、減るのは確実で、担当者は「行き方も分からないような山の中にもあり、全てを確認するのは現実的に不可能だった」と釈明する。
 ため池の決壊が相次いだことなどを受け、国も対策の見直しを進めている。18年の西日本豪雨で広島県福山市のため池が決壊し、土砂に巻き込まれた3歳の女児が死亡したことなどを受け、国は今年4月、「農業用ため池管理保全法」を制定。全ての農業用ため池の届け出を義務化し、違反者には10万円以下の過料が罰則として設けられている。
 同室は「小規模なため池でも、下流域に人家や施設があり、決壊時に危険性の高いものから把握を進め、老朽化対策に取り組んでいきたい」としている。

(2019年6月1日付朝刊より)

一斉調査の結果はこうでした。

県内ため池 2万4400カ所
全国最多のまま

 兵庫県は、今年4月時点の県内のため池数が2万4400カ所と、1年前の3万7652カ所から約1万3千カ所減ったことを明らかにした。全国最多は変わらず、2位広島県の1万9772カ所より5千カ所近く多かった。
 2017年4月、三田市で40年以上使われていなかったため池が決壊し、近くの会社や民家が浸水した。この事故を受け、県は各市町とともに昨年度、航空写真を基に地元の農区長らへの聞き取り調査を進めていた。

(2019年7月2日付朝刊より)

3割以上減りましたが、全国1位の座は守られました。
不十分な確認などが原因だったようですが、実際に池が決壊し、浸水被害が出るなどしている中で、管理の徹底が求められます。

ため池の水は、周辺で暮らす人々の命をつないできました。
そんな感謝の気持ちも込められているのでしょう。
稲美町で続く儀式を紹介します。

豊穣願い みこしを池に
稲美・天満神社で〝投げ入れ儀式〟

 稲美町国安の天満神社で8日、秋祭りが本宮を迎え、当番地区の氏子がため池にみこしを投げ込む「みこし渡御(とぎょ)」が行われた。水しぶきがはじける豪快な儀式に、大勢の見物客が歓声を上げた。
 平安時代、九州・太宰府に向かう菅原道真が、鳥居前の天満大池で手を清めたという言い伝えなどから、五穀豊穣(ほうじょう)を願って行うようになったとされる。12地区の氏子が持ち回りで行い、今年は六分一地区が担当した。
 本殿での神事の後、みこしを担いだ法被姿の若衆32人は獅子舞に誘導され、ため池に移動。みこしを約3メートル下の水面に投げ入れると、自分たちも次々と飛び込んだ。みこしは計3回投げ込み、池の中では「ヨーイヤサー」の掛け声を上げながら練り回した。

(2017年10月9日付朝刊より)

写真では半分水の中に沈んでいますが、投げ込まれているのはみこしです。
そして氏子たちが飛び込んでいるのは海でなく、池です。

▢ ■ ▢ ■ ▢ ■

池の機能も見直されつつあります。

1404小野市前ノ池辻本

まずは太陽光発電です。地上ではパネルを設置する用地の確保が難しいこともあり、ため池の水面にパネルを浮かべた太陽光発電所が相次いで誕生しています。

発電効率の良さや山林開発の必要がないなど地上に設けるよりメリットは大きいようで、高温になると発電効率が落ちる発電パネルが、水冷効果で発電量が陸地より増えたという実験結果もあるようです。

▢ ■ ▢ ■ ▢ ■

ため池には魚や昆虫が生息し、周辺には植物なども多く、飛来した天然記念物のコウノトリも相次いで目撃されています。

コウノトリ201001撮影笠原
(加古川市内、2020年10月撮影)

2021年4月には、淡路市内でコウノトリのつがいが設けた巣で、ひながふ化しました。但馬地域以外では兵庫県内初となり、こちらも近くにため池が多く、豊富にえさがあることなどが影響しているとみられます。

昔ながらの行事も見直されています。
農閑期にため池の水を全て抜く「かいぼり」という行事です。
テレビ番組などでご覧になった方も多いでしょう。

かつては池の水質浄化などを目的に広く行われていましたが、農業者の高齢化や手間が掛かることなどから姿を消しつつあったようです。

水を抜くことで、普段は見えない池の中を点検できる▽貯水能力や水質の向上、外来種駆除にもつながる―などのメリットもあり、一部の自治体がかいぼりに対する補助制度を設けられています。栄養豊かな泥をかき出し、海に流すことで瀬戸内海の養殖ノリの色落ちや漁獲量の減少を防ぐ効果も期待されていると言います。
子どもたちの参加も多く、水面の下で豊かな生態系が保たれていることを確認する機会にもなりそうですね。

<播州人3号>
1997年入社。駆け出しのころ、ため池の多い東播磨地域で勤務しました。道路を造る前から池があったためでしょうか、郊外の道は池を避けるように延びます。そのため一定の方角に運転しているつもりでも、予想外の場所に行き着くことがありました。特に夜間は目印が少なく、誤りに気付いて戻っているつもりが、さらに目的地から遠く離れてしまうことも。カーナビが普及していない時代の話です。

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