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【組織のなかに「しっくり」を生む】AKINDの岩野翼さん(ミライ経営塾Wondersメンター紹介②)

3名のメンターと12の神戸市内の企業が、デザイン経営の視点で事業成長を目指す実践型のプロジェクト「ミライ経営塾Wonders」、第2回メンター紹介は株式会社AKIND(アカインド)の岩野翼(いわのたすく)さんです。

アカインド岩野さん 写真

神戸新聞:キックオフセミナーでは「カルチャー・マネジメント」「文化は戦略に勝る」「組織文化の構造に注目して磨き上げる考え方の紹介」など、かなり「文化(Culture)」ということばが出てきました。「文化」に注目したイノベーションや組織変革のお話がとてもおもしろかったです。

岩野さん:社会変化を踏まえたVUCA時代において、どのように事業成長を実現できるのかというテーマを見据えた際、「何をすべきか」という戦略の議論が多いと思います。しかし変化の多い、今の時代に百発百中の戦略はないと考えるため、「どうやるのか」という視点で、柔軟に対応できる組織を支える体制・仕組みづくりに対するアプローチの必要性をベースに講演しました。

 昨今では、「従業員のモチベーションをどうあげるか」という個人へのアプローチが注目されている一方で、「チームのパフォーマンスをどうあげるか」というアプローチに関しては、まだまだ改善の余地があるとも思います。

神戸新聞:なるほど。「“個人のパフォーマンス”だけでなく、“チームとしてのパフォーマンス”の改善について」たしかに強調されていましたね。「チーム」として機能しづらい原因は何でしょうか。

岩野さん:ひとつには担当業務の専門化があげられます。新規事業への挑戦などでは、部門を横断した取り組みや、組織を俯瞰したアプローチが求められる一方で、既存事業で各部門が個々の業務をこなせば、まだまだ収益を生むことができている状態です。そうなると経営者が新たな挑戦の必要性を訴えても、既存の担当業務の優先順位が上がってしまい、専門化された個々の業務に終始する傾向が強くなってしまいます。そうした中、個人の視点を超えて、戦略を実行する上でチームとしての相乗効果を高められるかが組織として重要なポイントとなります。

チームのパフォーマンスを上げるためには、組織と向かう方向性や大切にすべき価値観を共有することが大切です。AKINDでは、組織のビジョン・ミッション・バリューを従業員の共通概念として、普段の業務の中で実装させられるかにこだわっています。

神戸新聞:キックオフセミナーでおっしゃっていた「具体的な日々の業務」と「ビジョンやミッションとの差」を埋める重要性ですね。

岩野さん:はい。この問題は組織内での働き方を支える環境や制度にも直結します。これらの環境や制度を整備する上で、世の中の「標準」を踏まえながら修正を重ねていくことは大切ですが、他社と同じレベルに合わせるだけでなく、「組織のビジョンやミッションを実現する上で、求められる制度や環境は何か?」を問いかけることも重要になってきています。やり方が変わるともちろん結果も変わる。企業の差別化のためには組織の差別化が課題であると捉えています。

神戸新聞:こうしたチームとしての働き方を効果的に機能させるための調整が、なぜこれほどまでに必要になったのでしょうか。

岩野さん:近年では、インターネットやスマホの普及により、消費者がパワーを持っている時代と言われて久しいですが、さらにそのエンパワーメントは加速され、現在では働く人もパワーを持つことができる時代になったことが一因だと考えられます。

具体例をあげると、終身雇用制度や給与・福利厚生すべてで企業が面倒見ていた時代から、副業解禁されたり、従業員がSNSで企業について発言するように、働く側が力をもった時代になったということです。これまでは「たまたま新卒で入社した社員」も定年まで1つの企業文化しか知る機会が与えられなかったものが、副業や転職で多様な文化を知る選択肢ができてしまうというのも働き手の環境変化の一例と言えます。

これまで、消費者が求める価値を企業が提供することに努力をしてきたように、企業側は、働き手が仕事に求める意義や意味に対して応えることの重要性が高まっている時代とも言えます。

神戸新聞:そうした世の中の変化を感じるようなきっかけや体験などがありましたか。

岩野さん:AKINDの創業時には、B2C(business-to-consumer)向けのブランディング・プロジェクトに関わることが多かったのですが、最近特に「すでに消費者は満足してしまっているのではないか?これまでの延長で、商品やサービスから差別化や独自性を高めるアプローチだけに関わることに、どこまで意味があるのか?」という、自身のプロフェッショナルの意味について自問自答するようになりました。むしろ、昨今のSDGsのような流れの中で、消費者の中にはモノを買わない選択肢も増えてきています。

ビジネスやサービスに対して、サーキュラー・エコノミーへの転換などが求められる時代において、「利益を優先して云々」「コスト削減を云々」だけでなく、「どのように新しい価値を提供するのか」「どのように廃棄物を出さないような仕組みを構築するか」などの意識を新しい共通言語として実装しながら、組織を通じて、事業を未来に向けて変革していくというようなアプローチの必要性を感じるようになりました。つまり事業を進化させるには組織を変革しないと実現が難しいということです。組織を通じて、事業を未来に向けて変革していくというようなアプローチの必要性を感じるようになりました。つまり事業を進化させるには組織を変革しないと実現が難しいということです。組織が変わると長期的に企業の戦略のあり方も変わります。そして、組織文化の醸成を通じて、「働くこと」の満足度をあげるほうが社会全体の幸福度が上がるのではないかという考えに至り、組織開発や組織デザインにかかわっています。

神戸新聞:どのようなステップで、中長期のことを考えるとよいでしょうか。

岩野さん:中長期的な観点で持続可能な事業成長を目指す上で、最近3P(profit, people, planet,)と言われていますが、AKINDが考える三方よしの視点としては「プロフィッタビリティ」「ヒューマニティ」「ソシアビリティ」を意識しています。

プロフィッタビリティ(profitability):経済的恩恵が公平に分配され、継続的に経済が循環する収益モデル。未来に投資をできるための利益をどうやって確保できるのか ※コストダウンではない方法で
ヒューマニティ(humanity):お客様からどのように暮らしを豊かにしてくれるのかという期待値。これを従業員にも感じてもらえるようにするにはどうするか
ソシアビリティ(sociability):会社は社会の公器であると捉えた上での、自社事業の社会的背景。社会からどのような貢献を企業は求められているのか。

こうした3つの視点を重要視します。プロフィット(利益)がなければ仕組みをつくったり、人材育成はできませんし、製品やサービスの社会的意義が強くてもお客さんに実感知がなければ継続できません。

神戸新聞:ソシアビリティは「企業と社会の関係性」でヒューマニティは「企業と顧客の関係性」ということですね。冒頭の話とつながりました。

岩野さん:はい。人間は誰もが個人として存在していますが、絶えず他者との関係において存在しているという前提のもと、物事の意味や解釈は関係性によって変化するという視点が大切となります。その上で、組織開発を行う上で、多様なレイヤーの人々と解釈のずれを最小限にしながら、意味を共有できるかが大切です。

同じ人間であっても、相手との関係性によって発言や行動が変わります。だから実証主義的に「あの人はこうだだから云々」「このルールはダメだった」というように個別・細部にとらわれた改変ではなく、人は集団によって変わるという前提でチームとして機能させる。そこをどう見出すかがポイントです。

社員一人ひとりを見ればちゃんとやっているのに集合体になると機能していないということはよく起こりうることだと思います。具体的には、計画や方針がうまくいかないのは役職的な問題であるのか、本社との物理的な距離などが問題かを考えることなどです。

神戸新聞:なるほど。そうした問題の積み重ねを紐解いたり、これからすること(ミッション)の確立するためにも、「そもそも」の部分(ビジョン)の言語化をご講演されていたのですね。

岩野さん:最近の言葉でいうパーパスという考えに近いですが、「そもそも自分たちの存在意義っていったい何だっけ?」の部分について、経営者は社員に発信していたにも関わらず、伝わっていないこともしばしばあります。

チャレンジしやすいよう意識や目線あわせを言語化して進めていくことが大切ですが、一方で「言葉遊び」の罠にハマってしまい、機能しないような状況もよく見受けられます。大切なのは、企業の存在目的であるWhyを意味する「ビジョン」、企業の戦略方針であるWhatを意味する「ミッション」、組織での働き方の作法であるHowを意味する「バリューズ」の3つの要素が持つ意味を物語として繋ぎ、経営層からマネージャー層、現場リーダー層、全従業員が腹落ちし、日々の業務の中で生かせる状態をつくることです。

神戸新聞:とても納得しました。岩野さんは神戸の土壌について、どういった考えがありますか。

岩野さん:豊かな自然環境のみならず医療産業都市としての都市機能もあり、次のESG投資に適した地だと思います。サーキュラーエコノミーへの挑戦は、事業の持続可能性を高めることにつながる傾向をふまえると、震災後の都市インフラの再生のあり方やバイオガスなどの取り組みなども強みだと思います。

地域の中堅中小企業が元気になれば地域の経済が潤い地域の資産になるため
そうした三方よしの地域経済圏をつくりたい
という思いを持っています。そうした地元企業で働く人の生活が地域に根付いていることも多いため、いまの時代、まさにここに価値が生まれると感覚的に思っています。

また、地域でのビジネスは、東京と比べて人材の母数が少ないため、経営者は人材を育てることに投資をする必要があります。そのため、このような組織文化や組織開発のアプローチは、より地域の企業に求められているのではないかと考えています。

神戸新聞社:企業の組織をうまくつくることが、神戸の人や土壌、文化の流れをふまえた持続可能な社会づくりにまさにつながっているのか!と感じました。Wonders参加企業へのメンタリングの最中も「弊社にもあてはまりすぎる」と思うことが多々あるため、肌感覚的にしかすぎませんが組織のデザインニーズはひそかに高いのではないかと思いました。

岩野さんありがとうございました!引き続きよろしくお願いいたします。

AKINDさんのこれまでの事業事例など、ぜひ下記公式サイトよりご参照ください。

岩野 翼/Tasuku Iwano
株式会社AKIND CEO;Founder
英国のBrunel Universityブランディング&デザイン戦略修士課程修了。2014年にブランド&カルチャー・マネジメントに特化した株式会社AKINDを創業。人文科学的アプローチ「Sense-making」という手法を用い、事業戦略や組織開発における複雑な課題に対し、事業活動と組織文化をつなぎ、関わる人々が自分の意思で前に進めるような「しっくり」を生み出す。通期的にクライアントに伴走し、中長期的なブランド・組織の成長を支える仕組み・体制を共創している。

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