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シン・長田を彩るプレイヤー~地球規模の人口移動による地域の課題を本気で考える地方大学職員~(後編)

前編では、新長田の魅力や外国人児童に対する日本語教育の課題などについて語っていただきました。
後編では、新長田で多文化共生活動をするにあたって意識していることや、趣味の漫画と多文化共生の共通点などについてお話しいただきます。

多文化共生活動の取り組みで心掛けていること

-内橋さん-
私の所属している大学には教育学部があって、保育士や幼稚園教諭・小学校教諭を育成しています。
その学生さんたちが社会に出るときには外国にルーツを持つ子どもがクラスにいるのが当たり前で、さらに割合が増えている時代になります。
 
私は大学で授業も担当しているので、学生さんたちが前もって外国にルーツを持つ子どもたちについての知識をたくさん身に付けられるように、その子どもたちがどういうことで困るのか、どういうことをケアしてあげたらいいのかなどを、授業を通して伝えています。
そういうことを学生に教えて現場に出すというのが本来的な地域貢献、社会貢献なのかなと思っています。
こうした研究内容をダイレクトに授業の内容に反映させるというのが私の一番の活動といってもいいかもしれませんね。

-記者-
新しく先生になる方々は、そのような知識や意識を持って教師になられて、現場でそれを活かしていくんですね。

多文化子どもカフェの様子

-記者-
多文化共生の活動において特に意識していることはありますか?

-内橋さん-
長田には多文化共生に関連するNPOとか団体が既に結構ありますよね。
震災の前後くらいにできた団体が多くあって、この分野で長く活動されている方がたくさんおられます。
なので、この方たちが既にやられていることを、また一から模索していくのではなく、先輩方によく教えていただいて、それを補うようなことをしていきたいと思っています。

-記者-
補うようなことというのは、例えばどのようなことですか?

-内橋さん-
地域の人たちが蓄積してきた活動の中に、既に結構なトライアンドエラーが含まれているので、そこを学ばずに新しく始めるっていうのは人類の文化や歴史の無駄だなと思っていて…
だから、まずはそれをよく見て学んで、それぞれの団体でやられていることを繋いでいけたらと思っています。
 
例えば、子どもたちって、生活の中で学校、JSL、学童保育、塾、NPOの放課後支援など、色んなサービスを渡り歩いているんですけど、どこでどれくらい学習が進んでいるのかというのはそれぞれで把握できてないんです。

※JSL …「Japanese as a Second Language」(第二言語としての日本語)の略。学校等で、日本語を母語としない子供に日本語を習得させ、学校での学習活動に参加するための能力育成を目的としたカリキュラムが実施されています。

-記者-
連携がなければ、それぞれの場所で完結になっちゃいますもんね。

-内橋さん-
そうそう、そういうのを繋げられたらいいなと思っています。
というか、長田の多文化共生分野では、みなさんがずっと前から先進的に取り組まれているので、「新参の私が大きい顔できないです」っていうのを言いたいわけです(照)

漫画との出会いと夢

-記者-
趣味へのこだわりの部分もお伺いできればなと思います。
漫画好きと伺ったのですが、好きになったきっかけはありますか?

-内橋さん-
たぶん小学校4年生の時に、家族の仕事の都合で1年間海外で暮らしていた時ですね。

-記者-
どちらに行かれていたんですか?

-内橋さん-
上海とイギリスのケンブリッジにそれぞれ半年間住んでいました。
当時の上海は、まだまだ日本人が少なくて。
1校しかなかった日本人学校も家から遠かったので、現地の小学校に行っていました。
中国語の勉強もしていなかったので学校の勉強は当然何を言っているか分からず、クラスメイトと話すこともできず…

-記者-
そんなすぐに中国語を話せるようにもならないですよね。

-内橋さん-
兄弟もまだ幼かったので、話し相手も少なくて。
そんなとき父親が、駐在の日本人が帰国するときに置いていった本や漫画を集めてくれて。
その中の1冊の漫画を繰り返し読んで。
その時くらいから漫画を読む習慣がついたんだと思います。

-記者-
日本語に飢えている中で、漫画と出会って。

-内橋さん-
そうですね、今考えたらそうかもしれない。
今では将来自分で漫画を作りたいと思っているくらいです。

-記者-
漫画を将来作りたいというのは、自分で描かれるということですか?

-内橋さん-
絵はそんなに描けないので、原作とか原案みたいなのを作りたいなと思っていて、それもアニメ化したいなと思っています!
新長田が舞台のアニメを作りたいなと思っています。
オムニバス形式のものにしようと思っていて、1つはなんとなく固まった案はあるんですけど、あと2つくらいエピソードがほしいなーと思っています(笑)

-記者-
そうなんですね!
すごく楽しみなので、完成したら教えてください。

-内橋さん-
ぜひぜひ!

あなたにとっての漫画、そして多文化共生とは

-記者-
最後に内橋さんにとって、漫画とは、そして多文化共生とは、どういったものでしょうか。

-内橋さん-
わたしにとって漫画とは、日々の営みそのものって感じですね。
人生のほとんどの時間を漫画と共に過ごしたと言ってもいいくらい漫画を読んできたので。
情緒・知識・感動…成長に必要なものの多くを漫画から吸収したと思っています。

そして多文化共生とは、ですが、
漫画って誰かの視点で物語が進みますよね。
誰かの人生のある時間を一緒に体験しているみたいな。
もともと質的調査の極地である文化人類学をやっていた私が多文化共生について関わるというのは、やっぱり個別の誰かの人生、生活、感情、変化、こういったものに注目したいということになるんです。
どんな人の人生も、もちろん私の人生も、記者さんの人生にもドラマがありますよね。

-記者-
はい。

-内橋さん-
ルーツに限らず、いろんな人の人生のドラマを知っていきたい。
あれ?こんなこと言っていると、まるで人が好きみたいな感じがしてきますね?
ずっと、人が嫌いなのに文化人類学なんてやり始めてしまった…って思っていたのに(笑)

前後編の2回に分けて、神戸常盤大学・内橋さんのインタビューをお届けしました。
 
漫画を通して、誰かの人生のある時間を一緒に体験するように、多文化共生活動を通して、ルーツに関わらずいろんな人の人生のドラマを知っていきたい…
そんな漫画好きである内橋さんならではのお言葉がとても印象的でした。
今後も内橋さんの活動に要注目ですね!


(追記)

2022年4月に、内橋さんから神戸常盤大学の多文化共生関連の新たな動きについても教えていただきました。

大正筋商店街にある子育て総合支援施設KITの夕方の学習支援「てらこや」では、
神戸市の国際交流や多文化共生の推進などを行っている神戸国際コミュニティセンター(KICC)との連携で、日本語のフォローもできる学習支援体制構築の準備をしており、
4月からすでにKITに来ている数名の子どもたちを対象に、駒ヶ林小学校のJSL教室とも連携をとった支援を開始しているようです。
他にも国際保健室の定期開催など、多彩な活動が繰り広げられています。