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シン・長田を彩るプレイヤー ~フィルムの歴史をつなぐ映画資料館長~(前編)

今回は、神戸映画資料館の館長を務めておられる安井喜雄さんを取材しました。
神戸映画資料館は、アスタくにづか1番館2階にあるフィルムアーカイブ施設で、映画フィルムや書籍、ポスター、機材などが保存されています。
安井さんは、時代とともに消失していく古いフィルム映画たち、今では“幻”と化した映画を数々発掘し、フィルム映画の魅力を発信し続けています。
映画資料館を始めるまでの道のりや、フィルム映画へのこだわりについてたっぷりと語っていただきました!


映画に魅了された学生時代


-記者-
はじめに簡単な自己紹介からお願いします。

-安井さん-
これまで大阪で上映活動をやっていて、2007年にここに来ました。
ですからここに来て15年ぐらい経つんかな。
もともとは大学の中で、映画研究会っていうクラブに入っていたんですよ。
そのころから映画を作ったり上映したり。

-記者-
もともと映画に興味があったのでしょうか?

-安井さん-
ありましたね。
学生のときは映画にハマって映画ばっかり観てて、勉強は全然してない(笑)

-記者-
なにか映画が好きになったきっかけはありますか?

-安井さん-
子どもの時からディズニーの映画をよく観ていて、学校の授業でも映画を観たりとか、
とにかくしょっちゅう映画を観ていたんですよ。
まあでも具体的に好きになったのは中学、高校あたりかな。

普通の映画館でやるのは娯楽映画とか大衆向けの映画が多いんやけど、高校生くらいになると芸術的というか、難しい映画も観るようになったんです。
ATG(日本アート・シアター・ギルド)が、興行的には難しいけども優れている、世界中の映画を上映していたんですよ。
その中にポーランドやイタリアなど、珍しいヨーロッパ系の映画が結構あったりして、芸術的な映画とか、そういうのが好きになってしまいました。

大学生になると観るだけではなくて、制作や上映もするようになって。
学校のなかで上映するだけじゃ面白くないので、「日本映画鑑賞会OSAKA」というグループを作って、大阪市内のホールで上映もしてましたね。

-記者-
何人ぐらいの規模だったんですか?

-安井さん-
スタッフは数人やったけど、お客さんは十数人から300人くらいまで。
そのころはいろんな場所で開催してましたね。
当時はビデオもDVDもないし、ネット環境で映画を観ることももちろんできなかったので、観たい映画があれば自分らでフィルムを借りてきて、上映して観るしかなかったんですよ。
1960年代終わりごろから、自主上映グループが全国各地にできたんです。
僕がやってたのもその一つなんですけども。

-記者-
観たい映画を上映してみるとは、今と全然違いますね、衝撃です!

-安井さん-
学校を卒業してからは、テレビの制作会社に就職しました。
そのあとなんとか映画に関わることをやろうと言って、学生時代の仲間と集まって。
それで「プラネット映画資料図書館」という名称で事務所を借りて、仕事の傍ら映画上映や資料収集もやってたんです。

映画が生み出すまちの交流


-記者-
資料はどのように集められてたんですか?

-安井さん-
当時はコレクターが何人もいて、コレクターからいらないものを安く譲ってもらってたんですよ。
その頃から集めてたら、資料が積もり積もってきて。

-記者-
コレクターの方とたくさん繋がりがあったんですね。

-安井さん-
そしたら倉庫がいっぱいで手狭になって、どうしようかって困ってたんです。
そんな頃に、新長田で町おこしに携わっている方と知り合ったんです。
まちの活性化に映画が役立つんじゃないかと、考えて動いてくれた人がいたんです。
その当時、この辺りには空き区画がたくさんあったんですよ。
最初は上映する気はなくて、空き区画を倉庫にできればええなと思って話してました。
でも倉庫だけでは、まちの活性化には繋がらないって言われて(笑)
それで映画の上映もして、お客さんの交流の場をつくろうということになって、今に至ります。

シアタールームの横には喫茶店も併設されています。

-記者-
マニアックな作品や、幻の映画と言われるようなものも集められていますが、それも今まで好きになった映画が関係しているのでしょうか?

-安井さん-
フィルムが消滅してしまって、観たい映画がなくなってしまっていることが多いんですよ。
これはなんとかせなあかん、失われた映画をできるだけ見つけ出して上映したいなと思って、一生懸命やってます。

-記者-
なるほど。
ここには1万8000本ぐらいフィルムがあって、国内の民営では最大級とお聞きしたんですが、学生の時からコツコツ貯めたものが、今こちらにあるのでしょうか?

-安井さん-
そうそう。
データベースに登録してるのが1万8000本で、まだ登録してないのもあるから実際には2万本以上あるんです。

映画フィルム

-記者-
そんなにたくさんあるんですね!
資料収集の活動を一緒にする仲間とかを探して・・・

-安井さん-
いや、前はコレクターとかいっぱいいたんですけどね、最近は昔みたいなコレクターはいないなぁ。
今はネットの時代になったから、珍しいのがみんなネットに出るんですよ。ヤフオクとか。
だから僕も毎日ヤフオク見てます(笑)
たまに珍しい、世の中にないものが出てくるんです。

フィルム映画へのこだわり


-記者-
仕事のなかで、こだわりや特に大事にしてることはありますか?

-安井さん-
フィルム上映にこだわってる
昔、映画館はみんなフィルムやったけど、みんなデジタルに変わってしまったので、フィルム上映できる場所がだんだん減ってきたんですよ。
でも、もともと映画はフィルムだし、古い映画はフィルムしかないから、デジタルになってないやつも結構あるんです。
それやったら、フィルムを探し出して、フィルムで上映しないと仕方がない。

-記者-
改めてフィルムの良さってどういうところだと思いますか?

-安井さん-
これはみんなに聞かれるけど、味があるとしか言えない。
昔からずっとフィルム映画を観てるから、 フィルムじゃないと映画を観た気がしない。
今はデジタルで撮影して、デジタルで上映してるけど、なんか画面がシャープで、綺麗すぎてね。

-記者-
画面の色味とかが違う感じですか?

-安井さん-
そうそう。
視覚効果で。科学的にどう違うか言われたら僕もよう説明せんけど、なんか最近のは映画観た気せえへんなって思うね。

―記者―
仕事のやりがいはどのようなところでしょうか?

―安井さんー
なんでしょうね・・・あまり「仕事」だとは思ってへんかな。
自分で映写もやるけど、フィルム映画を映すときはテクニックもいるし、やりがいがあるかな。

―記者―
すべて安井さんがされているということですか?

―安井さん―
今のとこね。
デジタル上映の時はほかの人に任せてるけど、フィルムの時は基本的に自分でやってる。
自分のとこのフィルムはちょっと傷ついても仕方がないで済むけど、借りてるやつは傷つけたら弁償しなあかんからね。
大変なことになるんよ・・・

―記者―
フィルムを扱うのはかなり難しいのですね。


フィルムは非常に繊細で、上映は誰にでもできるものではなく、テクニックがいることに驚きました。デジタル映画が増える中で、フィルム上映にこだわりを持ち、フィルムの魅力をもっと届けたいという安井さんの熱い思いに感動しました。
後編では、昨年からはじめた配給という新しい取り組みや、地域の人々に愛される資料館となった経緯をお届けします!
(編集:ほーちゃん・まっつー)