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獣医療の新たな形「Lifelog Based Medicine」の確立を目指して

ペットに関わる様々な分野のトップランナーの皆さまにお話を伺うAnimal Professional対談。第7回は、株式会社RABOで猫用首輪型デバイス「Catlog」の事業に携わる獣医師・小川篤志さんをお迎えし、小川さんが目指す獣医療の新たな形「Lifelog based medicine」(生活記録に基づく医療)についてお話を伺いました。

■猫の生活を可視化する首輪型デバイス「Catlog」

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小林:小川くんとの出会いは、2011年に僕が発起人の1人となって立ち上げたTRVA(一般社団法人 東京城南地域獣医療推進協会)の救急センターに、先生が獣医師として着任してくれたのがきっかけでしたね。

小川:そうですね。TRVAの理念に共感して僕からコンタクトをとったときに、最初に対応してくれたのが小林先生でした。「こんな面白い考え方をされる獣医師がいるのか!」と驚いたのを覚えています。以来、先生には節目節目でアドバイスをいただいたり、人を紹介していただいたりと、可愛がってもらっています。

小林:小川くんとは性格とか生まれ育った環境にいろいろと共通点があるからか、勝手にシンパシーを感じてしまって、ついつい、ちょっかいを出したくなってしまうんですよね(笑)。
小川くんは獣医師として救急医療に従事した後、ペット保険大手のアニコム損保に入り、ビジネス方面で活躍しています。今はAIを活用した猫用首輪型デバイス「Catlog(キャトログ)」を手掛けるスタートアップ企業RABOで活躍中です。Catlog、非常に興味深いデバイスですよね。

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小川:そうなんです。私自身、すごく大きな可能性を確信してRABOに参画しました。Catlogは猫の行動を24時間365日記録する首輪型の猫用のデバイスです。
首につけると猫が動くたびに内部のセンサーがその動きを振動データとして捉え、それが何の動きなのかをAIが判定してくれます。その結果は、スマホアプリ上に表示されるという仕組みです。
実際の行動の1~2分後にはアプリに分析結果が表示されるので、飼い主さんは猫と離れているときも、ほぼリアルタイムで猫が何をしているのか確認することが可能になります。さらに過去のデータがアプリ上に日記のように蓄積されていくので、後になって猫の動きを振り返ることもできます。現状、判定できる動きは「寝る」「くつろぐ」「歩く」「走る」「食べる」「水を飲む」「毛づくろい」の7種類ですが、症状なども判定できるように開発を進めています。

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小林:まさに猫の日常生活の可視化ですね。特に食事や水飲みの回数など、猫の健康状態に直結する動きが記録できるところが素晴らしい。Catlogのデータはその猫のLifelogですから、健康管理や診療にすごく役立ちそうですね。

小川:おっしゃるとおりです。ご存じのとおり猫は体調不良を隠しやすい動物なので、病気の兆候や症状に人間が気づけないケースも珍しくありません。あとは、獣医師にとっても重要ですよね。あとは、救急医療の現場でも「一体いつから具合が悪いのか」で悩んだ経験がたくさんあります。なにせ初めて会う犬猫がほとんどですからね。

小林:診療の際の貴重な資料にもなりますよね。動物は自分で症状を訴えることはできないので、診療の際は飼い主さんの主訴が頼りですが、主訴はあくまでも飼い主さんの主観に基づいたものなので、残念ながら参考にならないケースも少なくありません。その点、Lifelogは実際の行動に基づいた記録ですから、動物の健康状態を読み取るための客観的なデータとして活用することができますね


■動物医療の未来を拓くLifelog Based Medicine

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小川:以前Catlogの話をしたときに、小林先生が「Lifelog Based Medicine(生活記録に基づく医療、以下LBM)だね」っておっしゃってくれたのですが、まさに僕が目指しているのはそれなんです。予防医学の重要性がますます高まっている今、動物医療にも、これまでのEvidence Based Medicine(エビデンスに基づいた医療)やNarrative Based Medicine(患者自身の物語)に基づいた医療に加え、LBMが必ずや必要になってくると確信しています。それは、人医療も含めて。ウェアラブルのヘルスケアデバイスなどまさにその実例ですよね。

小林:確かにそうですね。そうするとCatlogは、ペットのLBMに関わる新たな産業を生み出せる可能性をも秘めていると言えますね

小川:はい。LBMは、デジタルヘルスケアで間違いなく中心的な存在になってくるはずです。特にペット領域では、言葉を話さないからこそ、体調を精緻に翻訳してあげることが重要です。それが、AIやテクノロジーによって可能となり始めていて、そこに我々もいるというわけです。

小林:Catlogは億単位のデータがあるみたいだものね。医療はもちろんだけど、データ起点のビジネスも注目ですよね。

小川:ビジネスとしても多くの可能性がありますね。猫のデータで、ここまで深いデータをここまで大量に持っている企業は世界でもまずありません。それをどう使うか、が次のステップです。Catlogは、保険や医療などの「マイナスをゼロにする」概念を持ちつつ、見守りやファッション性などの「ゼロをプラスにする」要素も持っているのが強みです。
今はこのデータを活用して猫の疾病の兆候や症状を検知するための機能の開発にも取り組んでおり、東京大学や成城こばやし動物病院などの専門機関と提携して研究を進めています。まだ挑戦は始まったばかりですが、Catlogを突破口にLBMの概念を広め、動物医療の未来をより良いものにしていきたいと考えています。

小林:すばらしい!獣医師として動物医療の現場を熟知した上で、一般企業でのビジネスも経験し、かつITにも精通している小川くんならではの挑戦ですね。獣医学・ビジネス・ITの3つのスキルをもつ稀有な人材として、ぜひLBMで動物医療に新しい風を吹き込んで下さい。応援しています!

小川篤志 プロフィール
獣医師。宮崎犬猫総合病院院長、TRVA夜間救急動物医療センターのキャリアを経て、2013年にアニコムホールディングス株式会社(ペット保険)に入社。経営企画部長として新規事業、IR、PR等に従事し、その他、子会社ベンチャーキャピタル代表と海外子会社の代表取締役を兼任。2019年アジア獣医師会(FASAVA)日本支部理事。2020年より株式会社RABOに参画。

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