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移動する鏡と対面する 君島大空×西田修大

新学期まで少し時間があったこともあり、なにか新しい経験ができないかと思い2月を過ごしていた。
たまたまTwitterを開くと、私の大好きなシンガーソングライターの一人である君島大空さんがライブをやるそうだ。そのライブのひとつが愛知金山で行われるようだった。
そういえば、私は音楽のライブに行ったことがない。そういうわけで、人生初めてのライブを君島さんに捧げることにした。

君島大空×西田修大『移動する鏡』というライブ。
吸い込まれるように入場拳(夕)を手にいれた。駅の近くのブラジルコーヒーという喫茶店で行われるのがまた粋だ。鏡鏡鏡鏡 という名前でチケットのメールが送られてくるのでなにか宗教のようなシュールさがある。これは二人のユニット名のようだ。

君島さんは1月に1stアルバム『映帶する煙』をリリースした。とても素晴らしいアルバムなので、これまでのepである、『袖の汀』、『縫層』などとあわせて聞いていただきたい。私は音で殴られたような衝撃だった。
磨り硝子越しに木漏れ日を見ているような、そんな感覚に浸ることができる。だが、それが今にも崩れそうな、暴れだしそうな、危うさも秘めているのだ。

そして時の流れは早く、3月。当日は素晴らしく晴天だった。裏を返すとものすごく花粉が飛んでいる日。花粉症の私には多少辛い。スギ花粉がこびりついたウォークマンで君島さんのアルバムを聞きながら、名古屋へ向かう。通学に使っていたいつもの電車もなにか特別なものに思える。そして、名古屋についてから電車を乗り換える前にタワーレコードに寄り、『映帶する煙』を購入した。

ライブの一時間半も前に現地についてしまった。ブラジルコーヒーの店員さんに「今日はイベントがあるので営業は三時半までです。」と言われてしまった。奥では君島さんが準備をしていた。「少し早く来すぎちゃいました……。」と言って店を出て、反対方向に歩いていくと、西田さんとすれ違った。お二人とも意外と日常に溶け込んでいて、ちゃんと存在するんだなということを再認識した。

ブラジルコーヒーと歩行通路の間で座って待っていると、リハが始まった。店から聞こえてくるギターの音、君島さんの歌声、街の喧騒、春の陽気が重なって待ち時間だけでとても癒されている。

ライブが始まると、衝撃の連続だった。まず二人のギターでここまでの事が出来るのかということに感動した。多重録音やエフェクターを操りながら、二人が手の中で音を転がしているようだった。私の好きな聴覚のツボがすべて押しほぐされた気分だ。そしてこれが小さな喫茶店で演奏されるというのも、なにか非現実的で良い。これまでリリースされた曲もアレンジによってこのライブだけの表情を見せてくれた。前衛的な曲の展開も君島さんの楽曲の特徴の一つだ。
そして、日が暮れるとともに店内の照明が落とされ、一つの灯りだけになった。暗がりから聞こえてくる音が重なって音楽になっていく瞬間と対面できる贅沢な時間だ。

ライブが終わると、物販でこのライブに向けて作られたアルバム『鏡#1』を購入して帰った。2月初頭から作り始め、なんと8曲入り。会場限定で販売されるというのが今時斬新で好きだ。お二人のサインもいただいた。

いつかこの感情と春の空気を思い出せるように『鏡#1』を大切に聞きたい。出会いと別れの季節を彩る素晴らしい経験となったと思う。



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