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デジタル化遅れの原因は「伝統主義」にあり

アナログな現状が経済再開の足を引っ張っています。
この件については以前も書きました。

誰もが心の中では不満に思いつつも「まあ、仕方がないか」と素通りしていたことが、このコロナ危機をきっかけにその不満が一気に噴出した、といった感じでしょうか。
むしろ、ここまで放置してしまった責任は行政だけにあるのではなく、我々国民にもあることは肝に銘じておきたいところです。

原因は「伝統主義」にあり!

以前、別のnoteで日本社会(特に行政)に蔓延る「伝統主義」について少し触れましたが、この問題なども「伝統主義」の弊害と言えます。
伝統主義とは、「それが過去に行われてきたというだけの理由で、それを正しい」とする思想・行動様式のことです。
似たような言葉として「保守主義」というものがありますが、こちらは「価値判断をした結果の保守」という、「価値判断をした結果」という点において決定的な違いがあります。
逆に、「単に新しいから」という理由のみで価値判断をせずむやみやたらに古いものをぶち壊そうとする態度も、「価値判断をしない」という点において「伝統主義」と同根と言えます。
「価値判断をしない」、つまり「非合理的に判断」してしまうことが「伝統主義」のポイントです。
行政の対応を振り返ってみれば、思い当たる節のあること枚挙に暇がないと思います。
例えば、何か新しいことを提案しても「前例がないのでやりません。」と言われたことはありませんか?
あるいは、「他でやっていないので、できません。」なんてこともあることでしょう。
価値判断をしていない(非合理的判断)という点でどちらも同じことですね。
このような思考、行動様式がデジタル化を阻害してきた大きな要因だったのではないでしょうか。
デジタル化が進展すれば、それ以前とは仕事の性質が大きく変化します。(もちろん良い方向に。)
ところが伝統主義的な労働形式ではそれを良しとしません。
マックス・ヴェーバーの代表的著書『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の中に面白い事例があります。

今日立ち遅れた、伝統主義的な労働の形式をもっともよく示しているのは婦人労働者、わけても未婚婦人だ。少女、なかんずくドイツの少女を使っている雇主がほとんど異口同音に言うことは、彼女たちがいったん習得した労働の形式を捨ててもっと実用的な形式をえらんだり、労働の新しい形式に適応したり、それを修得したりするのに、また知性を集中し、あるいはそれを動かすことだけにさえ、能力や意欲を全然欠いている、ということだ。

これは、この本の題材である「資本主義の精神」が根付いていない、資本主義以前の典型的な伝統主義的労働形式の事例となります。
この前近代的な少女たちの仕事振り、なんと日本のお役所仕事に当てはまることでしょうか。
誠に依稀たり。
(その意味で言えば、実は日本において資本主義の精神は根付いていないのかも知れません。。。)
このような思考・行動様式であれば、デジタル化が進展しなかったのも当然の理だったのかも知れません。
冒頭の記事の中に、

日本総研の野村敦子主任研究員は、官庁の現場では「自主的にやり方を変えようという動機付けが乏しい」と指摘する。

とありますが、動機付けが乏しいどころか、むしろ逆の作用が働いていた可能性もあります。
また、同じ記事に

日本では約20年前、小渕恵三内閣から森喜朗内閣の時代にIT戦略を作り「5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指す」と宣言した。2003年までに実質的にすべての手続きをネット化するとしたものの遅々として進んでいない。

これに至っては、噴飯ものでしかありません。
さらに20年近く経った今、何も進んでいないではありませんか。
滑稽ここに極まれり、です。

コロナの影響でようやく変わりつつある

日本人は古来より、何らかの外的影響によってドラスティックな転換を起こしてきました。
黒船来航からの明治維新が良い例です。
黒船をきっかけに、吉田松陰のような伝統主義の桎梏をぶち壊す思想家が現れ、次第にそれが伝搬し、そして遂に維新が達成されたのです。
この度のコロナによって世界は激変しています。
まさに、滄桑の変(滄海変じて桑田となる)です。
それにより、不幸中の幸いか、少しずつではありますが、変化の兆しが見られます。
この流れは決して止めてはいけません。

EUの産業戦略

欧州委員会は今年の3月に「欧州新産業戦略」を発表しました。
この政策パッケージにおいては、サーキュラーエコノミーを推進させることにより経済と環境の両立を計る(グリーンへの移行(Green Transition))のと同時に、「欧州デジタル戦略」を併せて実施(デジタルへの移行(Digital Transition))することによって、この両分野においてグローバルリーダーの地位を確保することを目標に掲げています。
この両分野を「ツイントラジション」として、EUの産業戦略の中心に据えたのです。
グリーンとデジタル、この2つは車の両輪のようなもので、現代社会においてはどちらが欠けても持続可能な社会は実現し得ず、また、相互に密接にな関係性を持っているものです。
デジタル化も持続可能な社会実現には欠かせず、欧州では重要な産業戦略としっかり位置づけられているのです。
現に今回のコロナ対応における対応の早さは、デジタル化の恩恵であったと思います。
日本が欧米に比べ対応が遅いのは、デジタル化が進んでいなかったこと、そもそもそのような意識が著しく弱かったことが起因しています。

遅まきながらも、日本はそのことを学びました。
進むべき道は一つです。
少しでも遅れを取り戻すつもりで加速させなければ、日本に未来はありません。

画像:Gino CrescoliによるPixabayからの画像

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