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学習指導要領における「見方・考え方」登場の経緯:特に「数学的な見方・考え方」についての議論を踏まえて

はじめに

 本記事では,次の2点についての事実を整理する。
(※今回は事実を整理するだけで解釈しませんので,「見方・考え方」についての基礎資料としてお使いいただければ幸いです)

  1. 平成29年・30年告示学習指導要領(以下CS)で強調されている「見方・考え方」は,CS改訂の議論においてどのように登場し,実際どのように議論され,本CSに反映されるに至ったのか。

  2. 特に,「数学的な見方・考え方」はどのように議論されたのか。

 事実整理のために参照するのは,あくまで文部科学省のWebサイトで公開されている,中央教育審議会の関係部会等における資料及び議事録である。具体的には,以下の会議における議事録を対象とする。

  1. 育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会の論点整理(平成26(2014)年3月31日)

  2. 教育課程企画特別部会における論点整理(平成27(2015)年8月26日)

  3. 教育課程部会 総則・評価特別部会(平成27(2015)年11月~平成28(2016)年7月)

  4. 教育課程部会 算数・数学ワーキングループ(平成27(2015)年12月~平成28(2016)年5月)

  5. 教育課程部会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(報告)」(平成28(2016)年8月26日)

  6. 中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(平成28(2016)年12月21日)

  7. 高等学校学習指導要領(平成30年告示)学習指導要領(平成30(2018)年3月30日)

 平成29年・30年告示CSの改訂議論は,平成26(2014)年11月20日の大臣諮問「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」から始まり,主に上記2から6までを辿ることになる。ただし,大臣諮問より前に,「教育課程と学習評価を一体的に捉え、その改善に向けての基礎的な資料等を得る」ことを目的とした,上記1の「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」が開かれている。これは改訂議論のための基礎資料を与え,そこで「見方・考え方」が登場していることから,これも事実整理の対象とする。
(以下,「見方・考え方」の特に全体的な議論に興味がおありの方は4節以外を参考に,「数学的な見方・考え方」の議論に興味がおありの方は4節含めてご覧ください)


1節 育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会における「見方・考え方」

 本検討会は,「…育成すべき資質・能力の構造を明らかにした上で、それを実現するための具体的な教育目標、指導内容などの教育課程と学習評価を一体的に捉え、その改善に向けての基礎的な資料等を得るための情報収集・意見交換等を行う」ことを趣旨として,平成20年告示の小学校・中学校CSが中学校で全面実施となった平成24(2012)年の12月に始まり,平成26(2014)年3月までに13回開催された。
 その議論の集約としての「論点整理」は平成26(2014)年3月31日に出されるが,そこに次の一節がある(p.21)。

図1

 学習指導要領における教育目標・内容を構造的に整理する視点の候補として上記のアイウが挙げられ,イの「教科等の本質に関わるもの」の具体例として「その教科ならではのものの見方・考え方」が登場している。この時点で言及されている「見方・考え方」は,育成すべき資質・能力のうち「教科等の本質に関わるもの」としての「その教科ならではのものの見方・考え方」であったことになる。

2節 教育課程企画特別部会の論点整理における「見方・考え方」

 上記検討会は論点整理が出されたのちに解散となり,先述の通り平成26(2014)年11月20日に大臣から「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」があって,CS改訂作業がスタートする。その後,平成27(2015)年1月29回を初回として26回にわたって行われたのが教育課程企画特別部会である。本部会は「各学校種又は各教科・科目ごとの改訂の方向性に関する検討に先立ち、新しい時代にふさわしい学習指導要領等の基本的な考え方や、教科・科目等の在り方、学習・指導方法及び評価方法の在り方等に関する基本的な方向性を検討する」趣旨として特別に設置された部会であり,14回の議論の後,論点整理を平成27(2015)年8月26日に出す。そしてこれを受けて各部会・ワーキンググループの議論が始まることになる。したがってここでは論点整理を確認する。
 といっても本論点整理では,育成すべき資質・能力を,

  1. 「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」

  2. 「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」

  3. 「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」

という「三つの柱」で整理することが打ち出され(先の検討会のアイウの構造は採らなかったということでもある),それを「教科等の本質的意義」に立ち返って検討する必要があるとされた一方で,「見方・考え方」への一般的な言及はされていない。「見方考え方」や「見方考え方」といった文言は社会・理科・情報などの教科の項で出てくるのみとなっている。
 ただし,補足資料のp.110で「仮案・調整中」ながら「学習指導要領等の構造化のイメージ」が示されており,そこでは「教科等の本質に根ざした見方や考え方等」が「思考力・判断力・表現力等」に位置付けられている。

図2

 つまりこの時点での「見方・考え方」は,論点整理では直接的に言及されておらず,「仮案・調整中」であるものの,「教科等の本質に根ざした見方や考え方」として,三つの柱のうち「思考力・判断力・表現力等」に位置付けられていた。
 なお,この後に影響する内容として,この論点整理では,「アクティブ・ラーニング」の意義が,「指導法を一定の型にはめ、教育の質の改善のための取組が、狭い意味での授業の方法や技術の改善に終始するのではないかといった懸念」や「指導方法の普段の見直し」とともに記されていることがある(p.17)。このときはまだ「主体的・対話的で深い学び」とは表現されていない。

3節 総則・評価特別部会から算数・数学ワーキンググループへと伝えられる「見方・考え方」

 上記の論点整理を受けて始まった教育課程部会 算数・数学ワーキンググループ(以下,算数・数学WG)では,平成27(2015)年12月17日の第1回から平成28(2016)年5月24日の第8回まで議論が行われた。平成28(2016)年2月15日の第3回までは,図2の枠組みで算数・数学科において育成すべき資質・能力が議論されている。先述の通り「教科等の本質に根ざした見方や考え方」は思考力・判断力・表現力等に位置付けられている(図3)。

図3

 ところが,平成28(2016)年3月11日第4回および平成28(2016)年4月18日の第5回において状況が変わる。これは,学習指導要領等全体及び総則の構造を一つの検討課題としていた教育課程部会 総則・評価特別部会から他の部会・WGに「見方や考え方」(この時点ではまだ「見方考え方」)に関する文書が出されたことによる。
 総則・評価特別部会の第5回(平成28(2016)年2月24日)において,「アクティブ・ラーニングの視点と資質・能力の関係性について(整理イメージ案・たたき台)」という資料(資料2-1)が事務局から出されている。そこでは,

〇アクティブ・ラーニングの視点に基づく授業改善については、昨年8月にまとめられた「論点整理」の提言を踏まえた様々な取組が広がりつつある一方で、「この型を取り入れなければアクティブ・ラーニングではない」、あるいは「既に話合い活動やフィールドワークを取り入れているので検討する必要はない」といった、不断の授業改善を促すという提言の目的からはかけ離れた解釈も見受けられるところである。
〇こうした誤解を解消していくためには、学習活動・指導の在り方のみに着目するのではなく、これからの時代に求められる資質・能力を総合的に育成するためには、各教科等の本質に迫る学びが重要であり、そのために提言されたのがアクティブ・ラーニングの視点(深い学び、対話的な学び、主体的な学び)であるということを分かりやすく示していく必要があるのではないか。

p.1,強調は筆者

という指摘のもと,

〇「論点整理」を踏まえ、現在、各教科等を学ぶ本質的な意義について、資質・能力の三つの柱や学習プロセスの在り方について各教科等別WG で議論されているところである。こうした資質・能力の育成にあたり重要となるのが、各教科等の本質に根ざした見方や考え方(以下「見方や考え方」)が重要であると考えられる。現行学習指導要領においても、各教科の目標の中で、例えば社会科においては「社会的な見方や考え方」、理科においては「科学的な見方や考え方」、美術においては「独創的・総合的な見方や考え方」を培うこととしている。幼児期では、生活全体を通じて総合的な指導を行う中で、ものの見方や考え方等を培うこととされている。

p.1,強調は筆者

とした上で,以下の整理がなされている。

〇「見方や考え方」とは、様々な事象を捉える教科等ならではの視点や、教科等ならではの思考の枠組みであると考えられる。こうした「見方や考え方」と育成すべき資質・能力の関係について、以下のような整理ができるのではないか。
・「見方や考え方」は、知識・技能を構造化して身に付けていくために不可欠である。「見方や考え方」を働かせながら、知識や技能を習得したり、知識・技能を活用して探究したりすることにより、知識を他と関連づけて定着させたり、構造化された新たな概念的な知識として獲得したり、技能を熟達させたりすることができる。
・「見方や考え方」が成長することにより、思考力・判断力・表現力が育成されていく。
社会や世界にどのように関わるかという点には、「見方や考え方」が大きく作用している。

pp.1-2,太字は筆者

〇「アクティブ・ラーニング」の視点との関係については、例えば、「深い学び」は、子供たちが「見方や考え方」を働かせ、それを成長させていけるような学びであると言えるのではないか。
・習得・活用・探究の学習プロセスの中で、各教科等ならではの視点で事象を捉え、各教科等ならではの思考の枠組みを用いて思考・判断・表現することなどを通じて、子供たちの「見方や考え方」が成長していくように、学習をデザインすることが欠かせないと考えられる。
・その際、教科等の学習をデザインする視点の一つとして、子供たち一人一人の「見方や考え方」を培う上での困難さを捉え、必要な支援等を工夫し、その成長を支えていくことも重要である。

p.2,太字は筆者

 つまり,総則・評価部会の第5回において,現「見方考え方」の原型となる「見方考え方」が(おそらく初)登場した。この時点で,「見方や考え方」は教科等ならではの視点や思考の枠組みと考えられるとされ,資質・能力の三つの柱に関係すること,「深い学び」は子供たちが「見方や考え方」を働かせてそれを成長させていけるような学びであるという位置づけがなされている。
 そして,この議論が算数・数学ワーキンググループに共有されるのが,平成28(2016)年3月11日第4回および平成28(2016)年4月18日の第5回である。第4回は統計教育の改善が主たる議題であったため「見方・考え方」は議論されないが,第5回において,「総則・評価特別部会における現在までの議論」として,「アクティブ・ラーニングの視点と資質・能力の育成との関係について-特に「深い学び」を実現する観点から-」という資料(資料2)と,「算数・数学における見方考え方(案)」(資料4)が事務局から提出され,「数学的な見方考え方」が議論されることになる。
 この資料2は,上に記した評価・総則部会の第5回での議論を受けて第6回に提出されているもので,それが各WGに伝えられたことになる。この資料2では,上記の評価・総則部会の第5回資料2-1から論点が整理され,表現がいくらか変わっているので,以下にそれらを記しておく。

〇また、アクティブ・ラーニングの三つの視点のうち、「対話的な学び」及び「主体的な学び」が注目され、「深い学び」の視点に基づく改善が図られていないとの指摘もある。「対話的な学び」や「主体的な学び」はその趣旨が教科共通で理解できる視点であるのに対して、「深い学び」の在り方は各教科等の特質に応じて示される必要があり、その具体像については、現在、各教科等WGにおいて議論中であることから、具体的なイメージがつかみにくいことも、その一因として考えられる。
○ 現在各教科等において、育成すべき資質・能力の三つの柱に沿った明確化や、それを育む学習プロセスの在り方に関する検討がなされているが、こうした議論を通じて、この「深い学び」の視点の具体化を図ることが重要である。
○ 議論の中では、複数の教科等別WGにおいて、資質・能力の育成や学習の深まりの鍵となるものとして、各教科等の特質に応じ育まれる「見方や考え方」が重要ではないかとの検討がなされているところである。こうした「見方や考え方」を、習得・活用・探究を見通した学習過程の中で働かせながら思考・判断・表現し、「見方や考え方」を更に成長させながら、資質・能力を獲得していくことが「深い学び」であり、そうした学びと資質・能力の育成との関係を分かりやすく示していく必要があるのではないか、と考えられる。

p.2,強調筆者

○ 「見方や考え方」とは、様々な事象等を捉える各教科等ならではの視点や、各教科等ならではの思考の枠組みであると考えられる。こうした「見方や考え方」と育成すべき資質・能力の関係について、以下のような整理ができるのではないか(別添イメージ図参照)。
・「見方や考え方」は、知識・技能を構造化して身に付けていくために不可欠である。「見方や考え方」を働かせながら、知識・技能を習得したり、知識・技能を活用して探究したりすることにより、知識を他と関連づけて定着させたり、構造化された新たな知識として習得したり、技能を習熟・熟達させたりすることができる。
・「見方や考え方」が成長することにより、思考力・判断力・表現力が豊かなものとなり、より広い領域や複雑な事象をもとに思考・判断・表現できる力として育成されていく。
学びに向かう力や人間性の育成には、どのような「見方や考え方」を通じて社会や世界にどのように関わるかという点が大きく作用している。
○ 子供たちが習得・活用・探究を見通した学習過程の中で、「見方や考え方」を働かせて思考・判断・表現し、「見方や考え方」を成長させながら、資質・能力を獲得していけるような学びが、「アクティブ・ラーニング」の視点である「深い学び」ではないかと考えられる。

p.3
図4(別添イメージ)

4節 算数・数学ワーキングループにおける「数学的な見方・考え方」の議論

 平成28(2016)年4月18日の算数・数学WG第5回において事務局から提出される「算数・数学における見方考え方(案)」(資料4)は次の通りである。

図5

 これをたたき台として,算数・数学WG第5回では,次のような意見が出される(この回の議事録より,以下全て強調は筆者)。

【齊藤委員】(中略)資料4の見方、考え方の位置付けというか、今後これがどういう取り扱い方がされていくのかということなんですね。これは、算数・数学のイメージの資料7-1の中で整理されてきている丸1、丸2、丸3で示されている内容と関わったり、または資料5の評価の観点、特に思考・判断・表現のところの部分のものと関連したりする中で、この間、深い学びの視点から見方、考え方というものが重要なんだと、それを算数・数学の中ではどう捉えたらいいかという、そういう整理でよろしいのかどうか。この見方、考え方が今後どういう役割を持っていくのかというのがちょっと見えなかったんです。
 なぜそういう話をするかというと、現行でも、例えば数学的な考え方ということで、見方、考え方というのは、戦後の算数・数学教育の中でも繰り返し議論されてきて、整理されてきているわけですけれども、この数行の文言を見ると、どちらかというと、算数・数学の表現方法とか、思考の進め方とか、方法論的なものは非常に色濃く出ているんだけれども、いわゆる鍵概念というんでしょうか、算数・数学を支えていくような、先ほどから概念とか性質という話題が出ていますけれども、それらの文言というのは、この1行目の数理的に捉え、数学的に表現し処理ということの中で全て言い切っているのかどうか、そのあたりがよく分からなくて、この資料4の見方、考え方の、繰り返しになりますけれども、1点目は、どういう位置付けで今後使われていくのかということと、ここで言っている数行で算数・数学の見方、考え方というものは全て言い切っていいのかが非常に私は疑問な部分もあるものですから、事務局の方で何かお考えがあるようであれば、お聞かせいただけるありがたいなというふうに思っております。

【平野教育改革調整官】 今回、この算数・数学における見方、考え方というのを示させていただきました。実は、算数・数学では現行の学習指導要領でも、観点別評価の中でも、ここで言うところの思考・判断・表現に該当するものとして数学的な見方、考え方、小学校ですと数学的考え方になっていたかと思うんですが、今回は、そういった思考・判断・表現だけを表現するものではなくて、知識・技能や態度にも関わるものとして、もう少し概念を広げた形で再整理してはどうかということが一つございます。
 共通的な見方、考え方の考え方については、先ほど大杉室長の方から御説明させていただいたとおりでございまして、見方、考え方を通じて知識、技能をさらに深め、身に付けていくし、思考・判断・表現も高めていくし、情意、態度も深めていくというような、この三つの柱全体に関わるものとして今回再整理させていただければということでございます。
 したがいまして、こちらのイメージ図との関係でいいますと、丸1、丸2、丸3がそれぞれ3本柱に該当するということでございますので、二重丸の部分にこのニュアンスを今後少し反映させていければと思っているところでございます。今のところでいいますと、ここが数学的に考える資質・能力という言葉にさせていただいているんですけれども、それを構成するものとして見方、考え方というものが多分入ってくるんだろうと思うんですが、それをもう少し見える形で出すのかどうかというのは、ちょっとこれから表現を、本日、この見方、考え方の表現ぶりについて、大体賛同を得られるということでしたら、少し事務局の方で工夫させていただきたいと思っております。(後略)

【清水(宏)委員】 私は、まず資料4の方を見させていただいて、この見方、考え方でよいと思います。私も中学校での指導の経験がありますので、先ほど御紹介いただいたこの白表紙の現行のものと比べてみまして、数学的な見方、考え方のところを見てみますと、事象を数理的に捉え、数学的に表現し処理するとともにというのが、現行では事象を数学的に捉えて論理的に考察し表現したりというところに当たると思います。そして、現行は、その過程を振り返って考えを深めたりするというふうに書いてある、ここが論理的に考え、統合的・発展的に考察すると今回はこのように書き換えているというふうに私は解釈したわけですが、先ほどの問題解決の過程を振り返るということが、主体的に学習に取り組む態度の方に入っているので、今回の改訂ではこのような表現になっているのかなというふうに一般の先生方が考えると思うのですが、少しここが先生方にはわかりにくい表現になっていて、もちろん過程や結果を振り返って統合的・発展的に考察するわけですので、その意味は十分分かると思うのですが,今回の改訂で大切なところですので,少し難しい文言になっているのが気になるというのが、まず1点です。

【藤井委員】 今日の資料の4ですけれども、細かさの程度というか、そういう観点からいうと、この程度が私はいいと思います。諸外国を見ましても、この「見方・考え方」について、例えばアメリカのCommon Core State Standardsなどは8つぐらい列挙している。ああいうふうに細かく特徴付けて書くと、逆にそれが独り歩きしますし、「見方・考え方」というか、プロセスだけ取り出して指導するような誤解も出てきます。日本は伝統的に学習内容が緻密に計画され、よく考えられたものがあって、「見方・考え方」は、そういうものと絡み合っていくところが特徴だと思います。なので、この程度の細かさで良いと思います。内容としっかりからめて、「見方・考え方」をやってほしいというメッセージをきちっと出すことの方がいい。日本の先生方は力量があり、それに見合っていると思います。

【清水(静)主査代理】 (中略)それからもう一つは、「見方・考え方」について、三つの柱から横断的に見ていくということが根本にある、これは大変大事なことだと思います。既に算数・数学教育の中では、「数学的な見方や考え方」として独自の位置付けがございますので、それらとの関係をきちっと説明をしていくという努力をされないと、勝手に今までの「数学的な見方や考え方」と同じだと思われてしまうととんでもないことになりますので、その辺を是非今後お気を付けといいますか、留意をしていただいて、誤解のないようにしていただければと思います。
 それから、最後ですけれども、資料4のところで、「考察する」ということになっておりますが、先ほど来おうかがいしていますと、もろもろの数学的活動を進めていく際に、縁の下の力持ちとして働くものとして「見方・考え方」があるかなというような雰囲気を感じましたので、その辺のところも整理をしていただきながら適切な表現をまた探っていただければと思います。

 この時点ではまだ「見方考え方」ではなく「見方考え方」であるため混乱しやすいが,事務局→評価・総則特別部会→各WGに伝えられた「見方や考え方」に基づく「数学的な見方や考え方」と,これまでの算数・数学教育において独自の位置づけがなされていた「数学的な考え方」あるいは「数学的な見方や考え方」の違いが話題にされている。
 上記の第5回の議論を受け,平成28(2016)年5月13日の第6回では,「数学的な見方や考え方」の案が次のように変わり(赤字),それに対して以下のような意見が出される(議事録より)。

【清水(静)主査代理】 続けて申し訳ないです。見方・考え方については、前回、いろいろ御意見を頂いて議論をしたところでありますけれども、資料3で、前のときの表現と基本的な構造が変わっていますけれども、二つの視点で整理されていることは大変大事なことではないかと思います。
一つは、捉えることに関わって、どこに着目するかということ、つまり、見方・考え方を示す視点といいますか、目の付けどころもう一つは、実際に考えをどのように進めていくのかという、考えを進める目の付けどころといいますか、それが前半と後半で明確に示されていますので、前回ですと、「考察する」ということで動詞になっていたんですけれども、活動を支える見方・考え方という趣旨からすると、このように整理していただいた方がずっとよいかなと思いますので、この線で是非、さらに精緻化をしていただくということ、しかも、よりシンプルに各学校種とも整理していただいていますので、大づかみするにはこの方がよいかなという印象を持ちました。

【小谷主査】 どうもありがとうございます。この間、全体の会議でも、算数・数学は高等学校、中学校、小学校を通じて共通した考え方がはっきりしていて、しかも、それが段階的に積み重なって進んでいく形がはっきり表れているということで高く評価いただきました。数学の見方や考え方もそのような形で整理されておりまして、大変いい形でまとまっているかと思います。

【岡村教育課程課専門官】(中略)まず、資料7の「幼・小・中・高等学校を通じた算数・数学教育のイメージ(案)」ですが、こちら、既に算数・数学ワーキングで御確認いただいていたものなんですけれども、見方・考え方の位置付けについて、各ワーキングで共通して、「見方・考え方を働かせ」ということで統一することになったのを踏まえまして、こちらでも高校、中学、小学校、それぞれ「数学的な見方や考え方を働かせ」というのを追記してございます。

【清水(静)主査代理】 資料8の真ん中の「思考力・判断力・表現力等」のところですけれども、理数のところでは、「科学的、数学的な見方・考え方」、それから、理科のところでは、「科学的な見方や考え方、自然に対する多面的なものの見方」ということで、前半で議論された、いわゆる見方・考え方と比べると、やや狭い意味で使われている印象がありますので、資料7の「数学的な見方や考え方を働かせ」といったときの見方や考え方というのは、従来の思考・判断・表現に特化されたものではなくて、もっと広い意味で使われていると思われますので、その辺の調整をきちっとしておいていただかないと誤解を招くかなと思います。言葉遣いの検討をお願いします。

 算数・数学WGの平成28(2016)年4月18日の第5回から平成28(2016)年5月13日の第6回の間に,現行のように「~見方・考え方を働かせ」という言葉遣いが共通することとなった。といっても実際には見方や考え方」と表記されており,まだ現「見方・考え方」にはなっていない。
 ちなみに第6回の資料7の2ページ以降では,これまでの算数・数学の目標における「数学的な考え方」や「数学的な見方や考え方」の位置づけがまとめられている。
 同日に開催された第7回では現行の「数学的な見方・考え方」につながる議論はない。
 平成28(2016)年5月24日に開かれた最後の第8回での資料3「算数・数学ワーキンググループにおけるこれまでの議論のとりまとめ(案)」では「数学的な見方・考え方」が次のように示される。この第8回時点にて初めて,”「見方・考え方」”と鍵括弧付きで使われ,「数学的な見方考え方」(「数学的な見方考え方」ではない)と明確に表記されている。

○ 各教科においては、育成すべき資質・能力の三つの柱を明確化し、深い学びにつなげていくことが求められているが、その際、各教科の特性に応じ育まれる「見方・考え方」が重要である。
○ 算数・数学において育まれる見方・考え方については、これまでの学習指導要領において、小学校(昭和33年改訂、昭和43年改訂)、中学校(昭和33年改訂、昭和44年改訂)、高等学校(昭和35年改訂、昭和45年改訂)において「数学的な考え方」と示され、そのときから評価の観点名として「数学的な考え方」という言葉が定着している。その後、学習指導要領においては、小学校では、「数理的な処理のよさ」(平成元年改訂)、「算数的活動の楽しさや数理的な処理のよさ」(平成20年改訂)、中学校及び高等学校では、「数学的な見方や考え方のよさ」(平成元年改訂・平成10年改訂)、「数学のよさ」(平成20年改訂)など、表現を変えながらもその重要性が指摘されてきたところであるが、今回、育成すべき資質・能力の三つの柱を明確化したことに合わせて改めて「数学的な見方・考え方」として整理することが必要である。
○ 上記で示した数学的な見方・考え方のうち、「数学的な見方」については、事象を数量や図形及びそれらの関係についての概念等に着目してその特徴や本質を捉えることであると整理することができる。
○ また、数学的な見方・考え方のうち、「数学的な考え方」については、目的に応じて数・式、図、表、グラフ等を活用し、論理的に考え、問題解決の過程を振り返るなどして既習の知識・技能等を関連付けながら統合的・発展的に考えることであると整理される。
○ これらを踏まえると、算数・数学において育成される数学的な見方・考え方については、「事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え、論理的、統合的・発展的に考えること」として再整理することが適当と考える。

【岡村教育課程企画室専門官】 (中略)続いて2ポツ、育成すべき資質・能力を踏まえた教科等目標と評価の在り方についてでございますが、まず(1)の教科等の特質に応じ育まれる見方・考え方は、「見方・考え方」という記述を整理してございますが、それ以外は前回とほぼ同じ記述となってございます。
 最初の丸は、各教科の特性に応じ育まれる見方・考え方が重要であること。次に2ページ目に参りまして、一番上の丸では、算数・数学において育まれる見方・考え方については、これまでの指導要領において「数学的な考え方」として示されておりまして、そのときから、評価の観点名として数学的な考え方という言葉が定着していることなどありますが、今回、育成すべき資質・能力の三つの柱を明確化したことに合わせて、改めて「数学的な見方・考え方」として整理することが必要であるというふうにしてございます。

 この案に対しては次のような意見が出される(議事録より,強調は筆者)。

【齊藤委員】 今回のこの算数・数学の改訂で、この間議論されてきて、私なりに理解はしてきたつもりですが、2ページ目の数学的な見方・考え方についてです。先ほどの事務局の御説明の中でも、「数学的な見方・考え方」という表現が、従前のものと混乱してしまう危険性があるということで、「数学的に考えること」ということで整理をされたというお話がございました。私は、そういう意味からも、今後この新しい基準の中で、学校現場がこの「数学的な見方・考え方」をどのように捉えていくのかというのは、非常に大きな意味があると思います。その中で、2ページの上から四つ目と五つ目の丸のところで、「数学的な見方」とはこういうことです、「数学的な考え方」とはこういうことです、そしてそれを合わせてということで六つ目の丸のところでまとめられていて、今回のこの資料5までの中では、「数学的な見方・考え方」について一定の表現がされているというふうになると思います。
 その中で、まず「数学的な見方」については、前回までの資料の中にはなかった「概念等に着目して」ということを入れていただいて、私は、大変分かりやすくなったと思います。ですから、「数学的な見方」というのは、例えば単位の考え方とか割合の考えとかいったキー概念のようなものをしっかりと捉えることが大事なんだということがよりはっきりとしてきたなと思います。その一方で、「数学的な考え方」については、この3行の文章を読めばおよそ分かると思うんですけれども、数学的な認識であったりとか数学的な表現方法であったりを指し示すんだということが、少し表現の中に入ってもいいのではないかなというような感じがいたします。
 と申しますのは、私のように小学校現場を預かっている者としては、先生方が実際に授業をする上で「見方」と「考え方」とは同じなんですか、違うんですか、これまでのいわゆる「見方・考え方」のことですかというような議論をしてくるように感じます。そこでは、やはり数学の内容というものを押さえるとともに、数学らしい認識又は表現方法、解決方法というものがあるということをしっかりと伝わっていくことが必要だと思います。このような意見を述べさせていただいていながら明快な代案がなくて大変申し訳ないですが、そのようなところが加わるといいのかと感じたところです。

【藤井委員】 私も2ページについてです。この2ページの2番目と3番目の文章は、大変すばらしいと思う。そのよさがもっと前面に出てもいい。といいますのは、私は、見方・考え方は、どちらかというとセットで捉えようという立場ですけれども、要するに内容(コンテンツ)に対して過程(プロセス)というか、コンテントフリーのところです。諸外国のカリキュラムを見ますと、そのプロセスのところが、例えばアメリカのコモン・コア・ステート・スタンダードなどでは8つに列挙してあって、詳細に細分化して記述してあるので、独り歩きしてしまう。イギリスのナショナルカリキュラムもそういう傾向ですけれども、日本は伝統的に、非常に賢くて、わざとざっくりと、見方・考え方という一言でくくっているよさが本当はあるんです。
では、その見方・考え方をどう育てようかといったときには、知識だとかそういうコンテンツと一緒になっていくんだということが、2ページの丸2、丸3で的確に書いてある。特に2番目のところで、算数の学習においては「数学的な見方・考え方を働かせながら、知識・技能を習得」という記述はすばらしいと思う。是非このよさが伝わるようにしたい。逆に言うと、見方・考え方は単独では学習できないと、必ず内容と絡んでいくんだというようなことがもう少し強調されると、もっと日本のよさがはっきり出ると思っています。教育現場に対しては指導資料等で具体的な事例を出して、見方・考え方は、内容とともに深まっていくので、単独に見方・考え方だけ取り出して育成することはできないということがはっきり分かるようにすると良いと思いました。

【大谷委員】(中略)先ほど来の2ページの見方・考え方の新しい捉え方につきましては、前回資料として御提示いただいた見方・考え方についての参考資料2のところで、見方・考え方の例示が明確に出ておるような気がいたします。見方というのは一つの視点であり、考え方というのは、どちらかというと推論の方を強調されていて、その両方がセットになっているという意味でしょうけれども、この資料の部分をうまく反映することによって、今回の見方・考え方に対する捉え方が明確になるのではないかというふうに感じております。

【清水(静)主査代理】 先ほど話題になりました数学的な見方・考え方は、多分、これまでの経緯とこれからのことを考えると、世の中で一番関心が向けられるのではないかと思います、特に評価と関わっておりますので。となりますと、2ページで話題になったことについて、お手元に配付していただいています参考資料2、この全てではなくても、骨太の部分だけ、何か参考の資料として付け加えていただくようなことは可能でしょうか。もし可能であれば、こういうものがあった方が、現場の多くの先生方はイメージを描きやすいのではないかというように思います。

 以上のようにして,算数・数学WGでは,「数学的な見方・考え方」が,従来の「数学的な考え方」や「数学的な見方や考え方」とは異なる新たな位置づけとして整理された。この異なる位置づけとは,従来の「数学的な考え方」や「数学的な見方や考え方」は三つの柱のうち「思考力,判断力,表現力等」に位置づいていたが,「数学的な見方・考え方」は,三つの柱すべてに働くとされたことである。「数学的な見方・考え方」は,最終的には次のように整理された(平成28(2016)年8月26日算数・数学ワーキンググループにおける審議の取りまとめ )。

5節 教育課程部会における審議のまとめと中教審答申における「見方・考え方」

 平成28(2016)年8月26日に,各部会やWGの議論を受けて,教育課程部会から「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(報告)」が出される。また平成28(2016)年12月21日には「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」が出される。この答申が,CS改訂の全体的な議論としては最終的なまとめとなる。教育課程部会の審議まとめから答申では,「見方・考え方」の説明も変わっている。以下に両方での説明を比較して記述しておく。

 最終的に,「見方・考え方」とは,「教科の特質に応じた物事を捉える視点や考え方」(どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思考していくのか)とされる。
 また,資質・能力との関係については,教育課程部会の審議まとめでは「資質・能力が,学習や生活の場面で活用されている」のが「見方・考え方」であり,「資質・能力を,具体的な課題について考えたり探究したりする際に必要な手段として捉えたもの」とされていた。しかし答申では,「思考や探究に必要な道具や手段として資質・能力の三つの柱が活用・発揮され,その過程で鍛えられていく」のが「見方・考え方」であるとされている。前者では,資質・能力が思考や探究の手段となるときにその手段を「見方・考え方」としていたが,後者では,資質・能力が思考や探究の手段として活用される過程で「見方・考え方」が鍛えられていくという説明になっている。

6節 高等学校学習指導要領及びその解説における「見方・考え方」と「数学的な見方・考え方」

 最後に,「見方・考え方」が学習指導要領においてどう記述されたのかを,高等学校学習指導要領に焦点をあてて確認しておく。
 総則において「見方・考え方」が登場するのは以下においてである。

第1章総則第3款1(1)
 第1款の3の(1)から(3)までに示すことが偏りなく実現されるよう,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら,生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うこと。
 特に,各教科・科目等において身に付けた知識及び技能を活用したり,思考力,判断力,表現力等や学びに向かう力,人間性等を発揮させたりして,学習の対象となる物事を捉え思考することにより,各教科・科目等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方(以下「見方・考え方」という。)が鍛えられていくことに留意し,生徒が各教科・科目等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら,知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見いだして解決策を考えたり,思いや考えを基に創造したりすることに向かう過程を重視した学習の充実を図ること。

 この「見方・考え方」について,解説では次のように書かれている。

 主体的・対話的で深い学びの実現を目指して授業改善を進めるに当たり,特に「深い学び」の視点に関して,各教科等の学びの深まりの鍵となるのが「見方・考え方」である。各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方である「見方・考え方」は,新しい知識及び技能を既にもっている知識及び技能と結び付けながら社会の中で生きて働くものとして習得したり,思考力,判断力,表現力等を豊かなものとしたり,社会や世界にどのように関わるかの視座を形成したりするために重要なものであり,習得・活用・探究という学びの過程の中で働かせることを通じて,より質の高い深い学びにつなげることが重要である。
 なお,各教科等の解説において示している各教科等の特質に応じた「見方・考え方」は,当該教科等における主要なものであり,「深い学び」の観点からは,それらの「見方・考え方」を踏まえながら,学習内容等に応じて柔軟に考えることが重要である。

【総則編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説p.118

 また,【数学編 理数編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説では,まず「改訂の経緯の要点」において次のように「数学的な見方・考え方」の説明がなされる。

②数学科における「数学的な見方・考え方」
 「数学的な見方・考え方」については,これまでの学習指導要領の中で,「数学的な見方や考え方」として教科の目標に位置付けられたり,評価の観点名として用いられたりしてきている。
 今回の改訂では,「見方・考え方」を働かせた学習活動を通して,目標に示す資質・能力の育成を目指すこととした。これは,平成 28 年 12 月の中央教育審議会答申において,「見方・考え方」は,各教科等の学習の中で働き,鍛えられていくものであり,各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方として整理されたことを踏まえたものである。高等学校数学科では,「数学的な見方・考え方」については,「事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,論理的,統合的・発展的,体系的に考えること」であると考えている。

【数学編 理数編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 p.9

 実際,高等学校数学科の目標は次のとおりである。

数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)数学における基本的な概念や原理・法則を体系的に理解するとともに,事象を数学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を身に付けるようにする。
(2)数学を活用して事象を論理的に考察する力,事象の本質や他の事象との関係を認識し統合的・発展的に考察する力,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現する力を養う。
(3)数学のよさを認識し積極的に数学を活用しようとする態度,粘り強く考え数学的論拠に基づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めたり,評価・改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養う。

 解説では次のように説明されている。長くなるが,これが高等学校数学科における「数学的な見方・考え方」の最終的な説明となるので,以下の通り引用しておく。

 平成 28 年 12 月の中央教育審議会答申において,「見方・考え方」が,各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方として整理されたことを踏まえると,「数学的な見方・考え方」は,数学の学習において,どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思考を進めるのかという,事象の特徴や本質を捉える視点,思考の進め方や方向性を意味することと考えられる。また,答申において,「既に身に付けた資質・能力の三つの柱によって支えられた「見方・考え方」が,習得・活用・探究という学びの過程の中で働くことを通じて,資質・能力が更に伸ばされたり,新たな資質・能力が育まれたりし,それによって「見方・考え方」が更に豊かなものになる,という相互の関係にある」と示されたことを踏まえ,「数学的な見方・考え方」は,数学的に考える資質・能力の三つの柱である「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」及び「学びに向かう力,人間性等」の全ての育成に働くものと考えられる。さらに,「数学的な見方・考え方」は,数学の学習の中で働かせるだけではなく,生活の中で数学を用いる場合にも重要な働きをするものと考えられる。数学の学びの中で鍛えられた見方・考え方を働かせながら,世の中の様々な物事を理解し思考し,よりよい社会や自らの人生を創り出していくことが期待される。
 「数学的な見方・考え方」のうち,「数学的な見方」は,「事象を数量や図形及びそれらの関係についての概念等に着目してその特徴や本質を捉えること」であると考えられる。また,「数学的な考え方」は,「目的に応じて数,式,図,表,グラフ等を活用しつつ,論理的に考え,問題解決の過程を振り返るなどして既習の知識及び技能を関連付けながら,統合的・発展的に考えたり,体系的に考えたりすること」であると考えられる。以上のことから,「数学的な見方・考え方」は,「事象を,数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,論理的,統合的・発展的,体系的に考えること」として整理することができる。
 「数学的な見方・考え方」は,数学的に考える資質・能力を支え,方向付けるものであり,数学の学習が創造的に行われるために欠かせないものである。また,生徒一人一人が目的意識をもって問題を発見したり解決したりする際に積極的に働かせていくものである。そのために,今回の改訂では,統合的・発展的に考えることを重視している。なお,発展的に考えるとは,数学を既成のものとみなしたり,固定的で確定的なものとみなしたりせず,新たな概念,原理や法則などを創造しようとすることである。(中略)数学の学習では,このように創造的な発展を図るとともに,創造したものをより高い,あるいは,より広い観点から統合して見られるようにすることが大切である。
(中略)このように,数学的な見方・考え方を働かせる際には,未知の事象を考察するために新しい概念をつくることがあり,「知識及び技能」や「思考力,判断力,表現力等」が必要となる。さらに,新たな概念や概念から生み出される知識や技能などを通して数学のよさを認識し,数学への関心を
高めいろいろな場面で数学を活用しようとするなどの「学びに向かう力,人間性等」と深く関わっている。このように見方・考え方を働かせた活動を通して,「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」及び「学びに向かう力,人間性等」が育成される。つまり,「数学的な見方・考え方」は,数学的に考える資質・能力の育成に関して,数学の様々な領域において広く働かせるものであると言える。(中略)
 数学の学習においては,数学的な見方・考え方を常に意識するとともに,数学的な見方・考え方を働かせる機会を意図的に設定することも重要である。また,他教科等の学習などを通して,数学的な見方・考え方は更に豊かなものになることに留意することも大切である。

pp.23-25

 長い引用になったので要点だけ箇条書きでまとめておく。

  • 「数学的な見方・考え方」は,数学の学習において,どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思考を進めるのかという,事象の特徴や本質を捉える視点,思考の進め方や方向性を意味する。

  • 「数学的な見方・考え方」は,数学的に考える資質・能力の三つの柱である「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」及び「学びに向かう力,人間性等」の全ての育成に働くものと考えられる。

  • 「数学的な見方」は,「事象を数量や図形及びそれらの関係についての概念等に着目してその特徴や本質を捉えること」であると考えられる。また,「数学的な考え方」は,「目的に応じて数,式,図,表,グラフ等を活用しつつ,論理的に考え,問題解決の過程を振り返るなどして既習の知識及び技能を関連付けながら,統合的・発展的に考えたり,体系的に考えたりすること」であると考えられる。以上のことから,「数学的な見方・考え方」は,「事象を,数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,論理的,統合的・発展的,体系的に考えること」として整理することができる。

  • 「数学的な見方・考え方」は,数学的に考える資質・能力を支え,方向付けるものであり,数学の学習が創造的に行われるために欠かせないものである。

  • 他教科等の学習などを通して,数学的な見方・考え方は更に豊かなものになることに留意することも大切である。

おわりに

 今回は,あくまで,公開されている中央教育審議会の関係部会等における資料及び議事録を対象に,「見方・考え方」について事実を整理した。
 次は,こうした「見方・考え方」に対する,各識者の見解を整理する予定である。