ショートストーリー にゅうめん

梅雨には負けるように人間は出来てる。
冗談じゃなく、そう思う。

梅雨入りが発表され、天気予報通り一週間続く。
湿気と、どこからかくる蒸し暑さと、陰鬱な雰囲気に打勝とうと、日々あれこれと身体を動かす。
時には筋トレ、時にはカラオケ。
しかし、屋内で出来ることも徐々に減ってきた。
それは友人達も同じ様子で、グループメッセージは暇の応酬。
そして、家事がめんどくさい。
何もしたくない。
堕落したやり取り。
そんな五月病を打破すべく、私達は流しそうめんを企画した。

そのはずだった。
「さむっ!」
誰かが口にすると、集まった四人が一斉に寒い寒いと騒ぐ。
この日は気温が低く、薄着のパーカーでは役不足だった。

流しそうめんの気分じゃない。
口にしないが、皆心情は一緒。
一年前に買ったちゃちな装置だけが、集まった四人の前にポツンと置かれている。
一年前の流しそうめんも同じ面子で楽しんだ。
フルーツ缶詰めやら、色付き寒天まで流して、最後まで笑っていた。
あのときは、夏真っ只中で太陽がギラつく八月だった。

時期外れのパーティーをしようとしていたことに、気がつくと次第にテンションも急降下。
どうしたものかと考えていたが、それもだんだん面倒くさくなる。
「温めてにゅうめんにしようか」

もうこれしかない。
楽しい思い出がつまった装置を部屋の脇にやり、やる気なさげに全員でキッチンに立つ。
湯を沸かして、ミニトマトやらレモンを切る。
ナスやかぼちゃは素揚げにして、トッピング用に。
冷えていたキッチンが温まってくると、淡々としていた作業にも活気が出てくる。

皆、勝手知ったると言ったふうに、冷蔵庫を開けてじゃがいもを取り出してフライドポテトを作り始めたり、ビールを取り出したり。
「暖かいものを食べたあとは、冷たいものが欲しくなるよね」
と言って、フルーツポンチを作り始めたり。

小一時間も経てば賑やかになっていった。
気付けばテーブルの上は、にゅうめんのトッピングと酒とツマミでいっぱいになっている。
流しそうめんの装置のかわりに真ん中には、コンロで温められている出汁が陣取り、一玉ごとに置かれているそうめんが両脇を固めている。

ダラダラと作り過ぎたツマミとそうめんを四人で、暖をとりながらすする。
揚ナスの油と出汁が胃に染みる。
味変を繰り返し、レモンの酸味とトマトの甘さも汁に溶けていくと、ごちゃごちゃした味わいの中に暖かい安心感を覚えた。
ふぅと、一息吐いて他の三人を見渡す。

相変わらず暇そうな顔だが、楽しさは伝わってくる。
私も同じ顔をしている。
雨に濡れた窓ガラスを鏡代わりに、自分の表情を確かめた。

沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。