金曜日のショートショート11鍵

これも違う。あれも違う。
散らばった鍵を拾っては捨てを繰り返す。
一つの鍵穴に合う鍵は、一つきり。
差し込んで回らなければ捨てる。
どんなに豪華に飾られた鍵でも、扉を開かねば意味はない。
意外と素朴な鍵が合うのだろうか。
試しに、鍵をさしてみる。
鍵穴に深く刺さるが回らない。
型取りが得意な鍵師なら簡単に、あるいは直感にすぐれたものなら楽に開けるのだろう。
でも、この鍵は僕が開けなくてはならない。ズルをして乱暴に開けることもしてはならないし、扉を壊すこともしてはいけない。
傷が残れば一生ものだ。
だから僕は今日も彼女に愛の告白をする。
試し続けたら、いつか鍵の開く音がするはずだから。
「僕は、君を誰よりも大切します」
カチリと音の鳴る。
僕は扉の向こうの美しい彼女を見て泣き崩れた。

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