ショートストーリー アボカドサラダ

熟したアボカドを生ハムで包む。
粗挽きの胡椒と香りの良いオリーブが、どちらの味も引き立てた。
それは、上品な後味でまるで自分じゃないみたいだった。

ほんの数年前までは、名前も知らなかったアボカド。
それが徐々に市民権を得るようになり、一人暮らしの男の食卓にものぼるようになった。
硬さにバラつきがあるが、一人で食べる分には気にしない。それも一興だなんて言い聞かす。

気分次第で見た目にこだわり、酒にもこだわり、オリーブオイルにも胡椒にもこだわる。
ワインを開けて、生ハムの塩気とアボカドの舌触りで飲む。

贅沢とはこのことを言うのだろう。
一人、真夜中の月を見る。
丸く柔らかい光に、思わず綺麗だと呟く。
こんな時に、食事を共にする女性の一人でも居れば。
そう思うのは、贅沢の極みなのだろうか。
口に残った胡椒の粒が舌先を突き刺すと、酔いから現実に戻される。

どことなくしんみりした空気。
払拭したくて、アボカドと生ハムをフォークに刺す。
レモン汁をかけていなかったことに気がついて、フォークに刺さったままのアボカドを置いて有機レモンを切った。

小皿に並べて、酒とサラダが待つテーブルへと戻る。
そこに転がるフォークに刺さったアボカドと生ハムは、気取った様子はまるでない。
ちょっと品がなく、ちょっとダサい。
手元で、くし型のレモンも飾り気なく左右に揺れる。

漂うダサさ。
月を見て綺麗だと言ったことも、恥ずかしくなる。
なんだか、気取り屋の自分が笑えてきて、テーブルの前にあぐらをかいた。
フォークに刺さったアボカドにレモンを絞って、山賊のように頬張る。
酸っぱさで目が沁みた。
でも、それが癖になる味だった。

レモンの汁が飛んでちょっと汚れたテーブルに、かまうこともなく眠くなるまで酒とサラダを食べた。

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